みちのくの放浪子

九州人の東北紀行

梅一輪

2017年02月24日 | 俳句日記

 巷では二軒隣りの国で将軍様の兄上が暗殺されたの、遠国では戦さが続いているだのと

物騒な話ばかりですな。まだ海のむこうのことですので他人事のように思ってしまいますが

八つぁん熊さんの時代も同じようなもので、ほんの一握りの知識人だけが他人事ではないと

気付いておいでだったようです。

 

 もう早々と一仕事終えて、八が熊公をさそってご隠居さんのお宅におじゃまをしております。

 

「てなわけでしてね、菊池様がこんど築地の工藤様のお屋敷に案内してくださるんだそうで」

「それはよかったな。私もその地球儀というものを見てみたいものだ」

「ご隠居もご一緒なさいませんか?熊を連れて行くのはもうお許しをいただいているんです」

「へぇ、あっちも今から楽しみにしてやす」

 

「じゃがな、そう大勢でおしかけてもな」

「いえねそれが、その工藤平助さまと言うお方は偉い学者さんにもかかわらずあけすけで

らっしゃいましてね、芸者や太鼓持ちまでお呼びになるんだそうです」

「ほー、変わったお方じゃな」

「構わないからおしかけましょうぜ」

 

ということでそれから三、四日の後、三人は築地の工藤邸までやってきました。

「そこもとがご隠居であるか?」

「はい、左様でございます。田辺信行と申します」

「もともとは、どこぞの藩に出仕なされていたとか聞いておるが」

 

「はい、肥前島原の松平様の馬廻りでございましたが、寛延二年(1749年)に宇都宮藩に

入部されました際にお供いたしまして、安永三年(1774年)にお世継ぎの松平忠恕様が、

元の肥前に転封なされましたので江戸づめのままお暇を賜りました」

「左様であったか。宇都宮といえば蒲生君平という元気者が内に出入りしておる」

「ひょっとして新石町の油屋の蒲生でございますか?」

 

「そうじゃ、存じておるのか」

「宇都宮と申しましてもそうそう広い街ではございません。まして油屋となると限られます」

「そうだろうな。それは楽しみだな、かの君が来たときには紹介しよう」

「ああ懐かしいですね、もう二十年も前のことでございます」

 

「工藤先生、この者たちが大工の八と、板場の熊でございます」

「そち達が感心な町人どもか、菊池殿がそう申しておったぞ」

「へい、厚かましく参上いたしまして申し訳ありません。なにせ世界が知りたくなりやして」

「いや、一向に構わぬ。日本の現状は皆が知っておかねばならぬ」

 

 ここでまた、新たな出会いがありました。さあ、これからが楽しみになってまいります。

春はこれからという時分でございます。お屋敷のお壺(中庭)には一輪の白梅がポツンと

花を咲かせておりました。 =お後がよろしいようで=

 

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二月二十四日(金)  早朝より小雪 一時晴れるも夕刻より雪

           終日風強く川へ行けず

           晴れたすきに買い物へ

           熊野神社の中庭に一輪の梅をみる