みちのくの放浪子

九州人の東北紀行

おろしあ国酔夢譚

2017年02月14日 | 俳句日記

 今朝の新聞の天気図をみるってぇと、高気圧が西日本に一つ、中国東北部の沿岸に一つと、

揃って列島を覆い始めているじゃぁありませんか、晴れが続くのかと思っちまったらどうしたことか

午後からまた雪がちらつきましてね、二つの高気圧の間に気圧の谷が出来ちまったようで。

 

 お江戸の町はかろうじてお天気さまさまです。

「おい熊公」

「なんだいは八つぁん」

「きのうのお武家が言っていた『海国兵談』ってぇのは、何だか知ってるか?」

「俺っちが知る訳きゃねぇだろう」

「だな。でよ、夕飯かっこんだら酒下げてご隠居に聞きに行ってみねぇか?」

「そうだな、分からねぇままじゃどうも喉の奥の小骨だ」

「奥様に、いなり寿司のお礼も言わなきゃなんねぇだろ」

 

 てな訳で、お二人さんは示し合わせてご隠居の家へ行くことになりました。

春彼岸までにはまだ間があるので、往来の店々の提灯にはもう火が入り始めています。

 

「ごめんなすって、ご隠居いらっしゃいますかい?、ああ、奥様、こないだのいなり寿司、

めっぽう旨ぅございました。カカア達も喜んでいましてね、こんどこさえ方を教わりに行こう

なんてぇ始末で。えっ、いつでもよろしいんで?へぇ、伝えておきやす」

 

「婆さんどちら様だい? なに、ふたりで!早く上がってもらいな。なに、酒を?じゃあすぐに

燗を用意しておくれ」

「ごめんなすって夜分様で」

「なに、床に就くにはまだ早い、ちょうど退屈していたところだ。いま燗を用意させているから

さあ炬燵におはいんなさい。ところでなにごとだい?」

 

 ここで、お客様にはちょっとこの『噺』の時代背景をお伝えしておかなければ、この先の理解が

行きずらいと思いまして、高いところから恐縮様ですが、お時間を少し賜りたいとぞんじます。

 

 時は、家康様が将軍に就かれてから190年後、寛政六年(1794年)の春の江戸でございます。

おおかた200年間の太平の世が続いておりますので江戸の町もすっかりひらけて、この頃には

人口も100万人を超えていただろうといわれますな。パリやロンドンをしり目に世界一だったそうで、

パリ条約(1783年)で英国から独立を認められたばかりのアメリカのニューヨークなんぞはまだ

無法な港町で7万人位しか住んでおりませんでした。

 

 そのパリのあるフランスはと言うと、寛政一年(1789年)に革命が起こり、寛政五年には、

かの美女マリー・アントワネットがギロチンにかけられ、国内はいまだ騒然としております。

 イギリスはイギリスで、オランダやスペインと植民地をめぐる覇権を争っている。アメリカに

独立された分をほかで取り戻そうとでも思っていたんですかね。

 

 そこで登場するのがロシヤなんですね。ロシヤも負けず劣らず領土的野心をあけすけに、

あちこちに手を伸ばそうとしていたんだそうですな。

 覇権を争うには港が必要でね、軍艦を浮かべといて、いつでも戦争に向かわせないといけねぇ。

ところが自国の港は冬は凍っちまうので使えねぇ、と目を付けたのが日本なんですねこれが。

 

 ロシアはね、このころ根室や函館に、へ理屈をつけてはたびたび来航してんですね。

そこで洋学を勉強なさっていた「林子平」という学者さんがこりゃいけねぇってんで本をお書きに

なった。それがいまから話題になる「海国兵談」というやつなんです。では本筋に・・・。

 

「ほう、そのお武家様がそうおっしゃったのかい?」

「へぇ、書いた人の名前はおっしゃらねぇけど、本の名は確かにそうおっしゃいました。なぁ熊」

「そいつはご禁制の本だ。この国の海の守りを固めなければ大変なことになるって本だよ」

「海の守りですかい?」

 

「ああ、そうだ。水軍を強め、海岸にはあちこち砲台を築くべきだと主張なさっておられる」

「あれ、ご隠居さんは読まれたんですかい?」

「いや聞いた話だ。だが私もそう思う。思うだけで馳せ参ずることが出来ぬのが残念だがな」

「ああそういやご隠居は、元は二本差しでしたよね」

「遠い昔になったな。今はごらんのとおりだ」

 

 ということで、もう二千字を超えてしまいました。実はこの後も三人の会話は続きますし、

お客様にご興味をいただける話もございますので、あすもまたどうぞ当寄席に。

では、ご機嫌よろしく。あしたの噺はおそロシヤ~!  =お後がよろしいようで=

 

         < 露国とも 米とも守れ 春の海 >  放浪子

 

二月十四日(火)  晴れのち雪 寒強し

          川へ、アイ達とメシ、ノスリと鈴鴨を観る

          バレンタイン頭の上を通り過ぎる

          だがしかし、明日はお菓子の神様の日

          まだ間に合う