岩切天平の甍

親愛なる友へ

I want to believe

2008年02月29日 | Weblog

イラク反戦デモで知り合った作家のSさんとO教授夫妻が日本から来ているらしい。電話すると、今からグッゲンハイム美術館に行くと言う。こんな機会が無いとなかなか行かないからおともすることにした。

グッゲンハイムでは全館を使って中国人芸術家、CAI GUO-PIANG 、ツァイ・グオチャンと読むらしい。の“I want to believe”展が開かれていた。
世界中が注目する現代アートの旗手だそうだ。

火薬をキャンパス(あるいはボード)の上で爆発させて焼けた模様で描くドローイング。
屋外の様々な場所で火薬を爆発させ、物を破壊する様子をビデオで見せる・・・。

焼けただれた絵は暴力を受けた人の肌の痛みを思い起こさせるし、乾いた大音響と共に画面に映る爆発する家は、非人間的な無神経さで心臓を締め付ける。
ああ、とてもあの人たちには見せられないなと思う。

小市民の僕はたとえば新聞で“空爆”と読むだけで、どうして人が一生の労働を引き換えにやっと手に入れるちっぽけでかけがえの無い家に対して、気軽に“空爆”などと口にすることさえ出来るのかと不思議に思うものだが。

作品としてはたしかに強いインパクトがあるだろう。彼はメッセージ性の強い作風で知られているという。その真意はどこにあるのか?

どこかに解説が書いてあるかと探してみるが、見つからない。
パンフレットには『現代の、創造に於いての罪や文化的に不快とされるものを文字通り打破した芸術家として世界から賞賛をあびている。』とある。
新しい事をやる。それだけのことなのか。

みんなどう思っているんだろう。展示を眺める人達を注意して見てみると、みんな暗い辛そうな表情をしている。

家に帰ってウェブで検索してみると、「感動した」「度肝を抜かれた」「楽しかった」と絶賛しているリポートばかりだが、残念ながら何一つ共感できず、とまどうばかり。

僕のようにセンスの無い人間にも解るように、せめて詩の一編でも貼っておいてほしいものだ。


進藤月例展

2008年02月28日 | Weblog

“進藤修一の仕事場”月例展、二月のお題は“嫌いな食べ物”。

嫌いな食べ物、赤いシャッポの化学調味料です。
これを使うと料理の味がどれも同じになってしまうような気がします。
角の取れた万人向けの口当たりの良さと没個性、クリエーターにあるまじき生き方。
大げさですか?
いやいやホントに。
5D+430EX+ナショナルPE-320S+息フィルター




ココ・ビーチ

2008年02月24日 | Weblog

撮影が終わり、ケネディ・スペースセンターから車で三十分程走ったココ・ビーチと言う街のホテルに帰る。裏はすぐ砂浜だ。

プロデューサーのデイビッドがハンドルを握りながら言う。
「写真を撮らないの?綺麗じゃあないけど、中産階級、普通の人達がバケーションにやって来る。これが本当のアメリカだよ。」

夕食まで時間が空いたので、夕方のビーチに出てみた。
波の音、汐の匂い。本当に久しぶりだ。
腹のでた初老の夫婦(らしき)がのんびりと波打ち際を歩いている。
デジカメを持ち出すと、とたんに考え込み始める。
これをどう撮ろうか・・・。
試行錯誤していると、日が暮れる頃に、向こうから短パンのデイビッドがにこにこしながらジョギングしてやって来た。

夕飯を食べながらデイビッドと宇宙開発について話し合う。
宇宙の資源を開発して地球に運べば、エネルギー問題も・・・。
核廃棄物も宇宙に捨てれば云々。
「それは素晴らしいけど、でも、人間がこれまでしてきた事を振り返って、謙虚な気持ちにならない限り、きっとどんどんおかしな方向へ行ってしまうんじゃないかと思うんだよ。うまく言えないけどさ。」
情緒的な僕の発言に、ソリッドな反論がぶちかまされると思っていたら。
意外な事にデイビッドは「そうだね。」と言った。

帰りに二人でオレンジの苗木を買った。



ワニ

2008年02月23日 | Weblog

宇宙飛行士の土井隆雄さんが乗るスペースシャトル打ち上げの中継下見と取材にフロリダに来た。技術者のSさんが中継予定地を走り回って必要なケーブルの長さを調べているのをすぐ横の水たまりからワニが頭だけ出してじっと見ている・・・。

Fテレビで働いているトルコ人カメラマンのイスラム君に久しぶりに会った。
「元気でやってるかい、どうだい、最近は?」
僕が「うまくやってるさ、僕は幸せ者だよ。」と言うと、
「生きて行くのはこんなにもしんどいのに、幸せだなんて言ってる人間は嘘つきだね。」と言って笑う。

彼はこの五月に久しぶりに里帰りすると言う。
トルコの農村で、リタイアした両親が牛の乳搾りをして毎日暮らしているんだそうだ。「俺もつれてけ。」と言うと「来いよ。」と言った。
行こうかな。

雪の話

2008年02月22日 | Weblog

NASAの取材のためJFK空港からフロリダ、オーランド行きの飛行機に乗るが、大雪で凍り付いた翼を溶かす作業に二時間の足止めを食う。

ディズニーワールドへ行くらしい子供連れの多い機内、男の子がぐずる、父親がやさしくさとす。

「飛行機の外で何が起こっているか想像してごらん、たくさんの人々がマイナス十度の風の中で、僕らを早く飛ばしてあげようと働いている。僕らは暖かい飛行機の中で待っていられるだけでラッキーじゃないか、あのドリンクをサーブしているスチュワーデスを見てごらん、彼女等は何をトライしているんだろうね、このディレィにいらいらしている人達に少しでも快適に待ってもらおうとしてるんじゃないか。これは誰のせいでもないんだよ、君は一体何にコンプレインしているんだい? 君のすべき事はただ一つ、彼等に感謝してこの時間をいかに楽しく過ごすかにつとめるかじゃないのかね?」

人々はいらだっていた。
スチュワーデスがジュースを運んできた時、男の子は「このディレィは誰のせいでもないし、たくさんの人達が僕らのために今一生懸命働いてくれているんだよね、あなたはいらいらしてる僕達ができるだけ快適に待てるようにトライしてくれてるんだね、ありがとう。」と言った。

彼女はぼうやの前にひざまずいて「いいえ、私はたくさんコンプレインされて、私のせいでもないのに不機嫌な客の相手をしなくてはならなくてくさっていたのよ、でもあなたの言葉が私に教えたわ、私をすくったわ、ありがとう。」と言って涙をこぼした。ぼうやが父親に言う「パパ、あのひとママとおなじニオイがしたよ」
父親は寂しく笑って窓の外を見た。

・・・と言う作り話を思いついた。

中野重治詩集

2008年02月21日 | Weblog

ひょっとしてと思って自宅の本棚を見たら、中野重治の本が一冊あった。中野重治詩集、こんな本を置いて行ったのはきっと詩人のヒデ君だろう。

冗長な文章は、そこに如何に良い事が書かれていてもなかなか他人様には読んでもらえない。
この忙しい世の中ならなおさらだ。
無駄を削ぎ落として削ぎ落として行き着く先が、あるいは詩という形態なのかしら。

プロレタリア詩人を自称する中野重治の詩は解りやすい。

浦島太郎

今宵は雨がふって
ついそこの家ではまた蓄音機をはじめた
童女がはかなげな声をはりあげて「浦島太郎」をうたうのだ
浦島太郎は亀にのり・・・
乙姫様のお気に入り・・・
しらがのじじいとなりにけり・・・
おまえもうたってごらん
そしてこれは誰のことをうたつたものか教えてくれ



美術館

2008年02月17日 | Weblog

撮休日を利用して、ワシントンの美術館めぐり。
殆どの美術館が入場無料なのが嬉しい。

先ずは国立美術館。
Alexander Calder の部屋。モビールの影が美しい。
フラッシュを使わなければ写真を撮るのは構わない筈なのにカメラを取り出したとたん警備員に怒鳴られる。
「おい、何でも撮っていいって事じゃないんだ。これを見ろ!」
壁の隅っこに写真を撮るなと小さく書いてある。
何だこの人。何でこんな言い方されなきゃならないの?
「そんな所に書いて誰の目につくって言うんだい。バカじゃないの?」思わず大人げない事を言ってしまい、自分が恥ずかしくなる。

近代、現代美術を収めた東館はデザイナー様のおかげで全くばかばかしい建物に仕上がっている。広大なフロアーのどこに部屋があるのか地図を見ても分からない。上の階にどうやったら行けるのか、立派なエスカレーターを上がるとただトイレがあるだけ、吹き抜けの向こうの同じ高さにあるギャラリーに行くにはまた降りて違う階段を登らなければならない。なるほどワシントンだ。美術館までがお役所っぽい。

個人経営のフィリップス・コレクション。
大金もちのお屋敷に
インプレッショニズム、モダニズム、スノビズム。
お金持ちの道楽の裏に、きっと悲しい労働があったんだろうなとは、貧乏人のひがみかいいがかりか。
せまい廊下に立ちはだかっておしゃべりする職員たち。
立派な解説を大声で披露する紳士淑女の皆様。

ゴッホの絵は彼が死ぬ迄ただの一枚も売れなかった。
感謝のしるしにと医者に贈った絵は、鶏小屋の穴をふさぐのに使われていた。
絵の具代を弟に無心するのに、血の涙を絞るような手紙を書いていた。
絵を前にして何の言葉も無い。ただ深く深く悲しいミストラルが吹く。

画家はどんな事を考えながら作品を作るのだろう。
美の追求、社会性、讃歌、宇宙、神、愛、悲しみ。
パトロン様とのおつきあい。

ネガティブな事は書くまいと思っていたのに。
今日もまたぼやきオヤジになってしまった。

ああ、楽しかった。


ホッカイロ

2008年02月16日 | Weblog

早朝、より良い朝日撮影ポイントを探しててくてく出かける。
ホワイトハウス前を通りかかると、ピシオットさんは毎朝の習慣らしく、活動仲間のトーマスのオフィスにシャワーに出かけて留守だった。トーマスが犬を連れて留守番をしている。

昨日、支局に「ご自由にお持ちください。」と、箱に入ったホッカイロが置いてあるのを見つけた。中継で残ったらしい。四つ貰って、ホテルから今日の新聞と持って来た。それに二十ドル札一枚を添えてトーマスに渡す。
「ありがとう、感謝するよ。」とトーマス。

ホッカイロ四個に二十ドル。まったくナンセンスなプレゼントだ。
四個じゃどうにもならないし、金は彼女にとって何の意味もなさないだろう。
ビニールの中にうずくまってラジオを聞いて過ごす夜の孤独・・・。
ただただ途方に暮れてしまう。

ホテルに帰って「たしかジッポがハクキンカイロと同じ物を作っていた筈だな。」と調べてみると、二十ドルそこそこで売っている。
さっそく詰め替え用のオイルと一緒に二個注文。
でも、届けられる頃には春になっているかな。



もう一つのホワイトハウス

2008年02月15日 | Weblog

人影まばらなホワイトハウス前に、もう一つのホワイトハウスがある。
撮影の終わった雨あがりの夕方、冷え込んで来た。

ビニールを丸くかぶせた中に、平和を訴えてここに二十六年間住み着いたピシオットさんはうずくまっていた。
風に飛ばされないようにブロックで押さえて、棒で支えた小さな窓が開いている。

覗き込むと僕の顔を見つけて「ハーイ、ディア!」
覚えていてくれたんだね。
「雨が入って来るからこのビニールを中に織り込んでね。
ラジオを聞いていたの。ニュースをね。」
リスが手元まで来る。
くだいたクッキーをあげる。
「食べ物をほしがって来るのよ。ほら、お食べ。」
「カイロとかなんかあるの?」
「何もないわよ。たくさん着込むだけ。」
「灯は?」
「この街灯だけよ。あとはホワイトハウスのあかり、ほら、明るいでしょう。」
ごそごそと這い出して来る。
「中に入っていなよ。寒いから。」
「でも、せんそうを止めなきゃね。」
「コニーはどの候補者が好き?」
「いいのなんか誰もいないわ。」
「オバマは?」
「ただの甘やかされたお坊ちゃんだわ。何の経験も無い。
ヒラリーはあまりにも腐敗しすぎているし、いつだって同じよ。」

日が暮れて来る。
ますます冷たくなる風の中、言葉も途切れて二人立ち尽くす。
通りかかる作業員の黒人のおじさんが、打たれたように立ち止まる。
「二十七年?ここで寝るの?だって・・・凍え死んじゃうじゃないか。おお、神様。」泣きそうな顔で「俺、もう、仕事に行かなきゃならないから・・・。気をつけてな。」

メイン州から来た初老の夫婦。広島の被爆写真を眺める。
「私たちがやったのよ。そしていつでも私たちもこうなるかもしれないわ。」とコニーが話しかける。
「教えてくれなくてもいいのよ。みんな知っているわ。」
と悲しげに答える。
「みんな知っているって?だけど誰も何もしないじゃない。知っているのに。」