人影まばらなホワイトハウス前に、もう一つのホワイトハウスがある。
撮影の終わった雨あがりの夕方、冷え込んで来た。
ビニールを丸くかぶせた中に、平和を訴えてここに二十六年間住み着いたピシオットさんはうずくまっていた。
風に飛ばされないようにブロックで押さえて、棒で支えた小さな窓が開いている。
覗き込むと僕の顔を見つけて「ハーイ、ディア!」
覚えていてくれたんだね。
「雨が入って来るからこのビニールを中に織り込んでね。
ラジオを聞いていたの。ニュースをね。」
リスが手元まで来る。
くだいたクッキーをあげる。
「食べ物をほしがって来るのよ。ほら、お食べ。」
「カイロとかなんかあるの?」
「何もないわよ。たくさん着込むだけ。」
「灯は?」
「この街灯だけよ。あとはホワイトハウスのあかり、ほら、明るいでしょう。」
ごそごそと這い出して来る。
「中に入っていなよ。寒いから。」
「でも、せんそうを止めなきゃね。」
「コニーはどの候補者が好き?」
「いいのなんか誰もいないわ。」
「オバマは?」
「ただの甘やかされたお坊ちゃんだわ。何の経験も無い。
ヒラリーはあまりにも腐敗しすぎているし、いつだって同じよ。」
日が暮れて来る。
ますます冷たくなる風の中、言葉も途切れて二人立ち尽くす。
通りかかる作業員の黒人のおじさんが、打たれたように立ち止まる。
「二十七年?ここで寝るの?だって・・・凍え死んじゃうじゃないか。おお、神様。」泣きそうな顔で「俺、もう、仕事に行かなきゃならないから・・・。気をつけてな。」
メイン州から来た初老の夫婦。広島の被爆写真を眺める。
「私たちがやったのよ。そしていつでも私たちもこうなるかもしれないわ。」とコニーが話しかける。
「教えてくれなくてもいいのよ。みんな知っているわ。」
と悲しげに答える。
「みんな知っているって?だけど誰も何もしないじゃない。知っているのに。」