岩切天平の甍

親愛なる友へ

What's goin' on

2008年10月19日 | Weblog

ハリスバーグの街は、中央を流れる川を堺に見事に山の手と下町に別れている。
西側は、おもに白人の住む敷地の広い閑静な住宅街。カメラを持って車を降りるとすぐに何をやってるんだと問いつめられる。東側は、川沿いの官庁街を外れたとたんにごみごみした手入れの悪い貧民街が奥深く広がっていて、こちらの住民の殆どは黒人と白人の中でもファンキーな連中。あまり車から降りたくない。

州会議事堂のドーム屋根に沈む夕日を撮ろうと、東側の高台にある独立戦争公園からダウンタウンを望む。地図と日没のデータで大体の見当はつけてある。
議事堂の位置を測りながら落ちて行く夕日を追って、公園の芝生を横切り、路地裏に迷い込む。ロケ車とははぐれてしまった。
カメラを持って走るうちに、どんどん日は落ちて行き、僕は貧民街の奥へ奥へと入り込んで行く。
「ちょっとマズいかもしれない。」胸騒ぎを覚えながら周りを見回すと、目の前のアパートの最上階に暮れ残った夕日が赤く当たっている。外壁には鉄の階段、ニューヨークではありえないことだが、入り口が開いている。
最上階まで駆け上がり、振り向くと川の表に最後のきらめきが消えて行くところだった。
肩で息をしていると、窓の中から「何してるの?」ととがめる声。
「ああ、夕日を撮ろうとして上がって来ちゃったんだけど、遅かったみたい。驚かしてごめん。」
と、逃げるように行こうとすると後ろから
「・・また、いつでも来ていいよ。」と言ってくれた言葉に思わず振り向いた。

薄暗くなってきた歩道で割れたビール瓶を眺めながら車が来るのを待つ。
ゆったりと通りかかった男がカメラを見つけて話しかけてくる。
「Hey、 what's goin' on?」
「ああ、夕日を撮ろうとしたんだけどね。間に合わなかったよ。」
「ニュースか何か?」「そう、日本のね。」
「ふーん、あの公園に昇ればまだ間に合うさ、良い眺めだよ。」

夜、ジャッキー夫妻とその友達がストレッチ・リムジンを借りて来て、夕食に行こうと誘ってくれた。
「あの辺りはうんと悪い地域だから気をつけなよ、絶対一人で歩いたりしちゃいけない。」

窓の外にガソリンスタンドのネオンが飛び去って行く。

きっとそうなんだろうな。
ただ運が良かっただけに違いない。
でも・・あの人たちの笑顔がフラッシュ・バックする。
きっと一緒に働けば解るんだろうさ・・・。

ディレクターのHさんが携帯電話を掲げて走って来た。
「今、かみさんから大ニュースって電話があったんだ。
僕の赤ん坊に歯が生えたんだって!」

赤ん坊の歯に乾杯!




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