岩切天平の甍

親愛なる友へ

二重あご

2007年05月31日 | Weblog

 寿司屋のAさんが奥さんと一緒にサンライズマートへでかけた。
レンタルビデオのコーナーで奥さんが郷ひろみの若い頃のビデオを見つけてはしゃいでいる。「かわいいわね。」
その奥さんの横顔をながめながら、Aさんは、「ああ、この人も二重顎になったんだなあ」と思った。

ジャスミン

2007年05月30日 | Weblog

 ジャスミンの花が咲いて、風が吹くと家の中まで匂う。
賃貸でささやかだけど、庭のある暮らしは気に入っている。
芽が出て、花が咲いて、実ができて、種が出来る。
それはまるで、人の一生が植物の姿を借りて繰り返されているようで、
不純なこころ無く、咲き、交わり、子孫をつくる 美しい営みに「人もこんな風に生きられたら」 と思うことがある。
あと何回この花が咲くのを眺めることが出来るだろうかと考えると、いやが上にも日々へのいとおしさが増す。

仕事で、たまに何億円もする高級マンションを訪ねることがある。
地上三十階からのセントラルパークの眺めもリバーサイドからのマンハッタンの夜景も見事ではあるけれど、何か寂しい気持ちがしてしまう。
遠すぎて、きらめく様な命の営みが感じられないのだ。
ここに住んだらきっとけんかしてしまうだろうなと思ってしまう。

裏表の無いパンツ

2007年05月29日 | Weblog

 マリちゃんの黒人の彼氏が夕方着替えていた。
「そしたらさー、パンツが裏返しなのよー。今朝はちゃんと履いていたのにさー。
『ああ、このひと、どっかで浮気してきたんだ。』って思ったら悲しくって、
『裏表の無いパンツがあったらなぁ』って思ったの。」


Taxi Driver

2007年05月28日 | Weblog

 コロンビア大学で日本経済についての講演を撮影。8時出発。
カメラを抱えてタクシーに乗った。
30代前半位の小太りの黒人ドライバー。信号待ちで振り向くと、
「あの娘、可愛いな。」とつぶやいた。
視線の先を見ると、地下鉄の入り口で 若い女性がフリーペーパーを配っている。
ぽっちゃりと小太りの健康的な感じで、僕の目には「かわいい」とは映らなかったので、へえ、面白いもんだな、と思った。
我々の視線に気付いてにっこり笑う。彼が手を振る。
「いい笑顔だね。」と言うと「うん、いい笑顔だ。」と彼。

信号が変わる。
のろのろとスタートしながら「うーん。」と唸っている。
僕が、「そこに車を止めなよ、俺、急いでないし。」と言うと、
「えっ?….止めて?どうするの?」
「電話番号を聞くんだよ。」
「そうか、電話番号ね、で、それから?」
「それから、シャワーをあびるんじゃないか。」
「シャワーを?…アッハッハ。」
のろのろ動いているので、後ろからクラクションを鳴らされる。
交差点を渡っているじいさんを曵きそうになる。
心ここに在らず。
「客の俺がいいって言ってるんだよ。」
「そうだ、お客さんの許可がおりてるんだし…..。」
ブレーキを踏む。後ろからまた鳴らされる。
「いや、ダメだ!」と彼。
「何が?」
「俺は仕事中にそういうことはしない。」
「へえ。そう?」
「だいたい、仕事中に女なんかとかかわるとろくなことにならない。売り上げ取られたりとかね。」
「そうかい。…. でも、いい娘だったね。」
「うん、いい娘だった。」
「健康そうだし。」
「うん、健康そうだ。」
「若過ぎもしないし。」
「若過ぎでも年寄り過ぎでもない。」
「こんな朝早くから働いてるんだから、少なくとも、おかしなやつじゃないな。」
「うん、彼女は働き者だ。」

それから彼のルイジアナの家族や僕の日本の家族の話をあれこれしていると、
「ところで、あの娘なんだけど、笑顔が素敵で、健康で、年頃で、働きもので、 ね。」
と言う。
「俺を降ろしてから戻ればいいじゃないか。まだあそこにいるよ。」
「そうだな。それか、明日の朝行ってもいいな。電話番号をもらって、電話する。と、最初はランチかな。そしてどうする?」
「シャワーをあびるんじゃないか。」
「アハハハ、まだはやいな。」
「じゃあ、週末に映画でも行けば?」
「うん、映画みて、ディナーまでいけばオッケーって感じかな….いや、急いじゃダメだな。慎重に。」
彼女が独身じゃないかもしれないとは思わないらしい。

目的地に着く。
トランクから三脚を出していると運転席から降りて来て、
「日本経済の講演とやらが退屈じゃないことを祈るよ。」と笑う。
僕は、 握手をして「You made my day!」と言った。

Food Coop

2007年05月27日 | Weblog

パークスロープ・フード・コープの説明会に行く。

 地域住民で運営されている会員制スーパーマーケットで、安くて品質の良い(主にオーガニック食品)商品を買える代わりに、会員は四週間に一回、3時間程そこで働かなければならない。
働いているのはみんな近所の人達で、普段はそれぞれ違う職業を持つ。おじいちゃん、おばあちゃんもいる。
説明会を終えて、早速メインテナンス部署で働く事になった。冷蔵棚の野菜を全部下ろして掃除する、なかなかの重労働だ。
憮然とした表情で黙々とやる人、ニコニコしながら適当にやる人、いろいろだが当然共和党員はいない、のかな。
帰りに早速野菜を買ってハナ歌まじりに自転車で帰る。なかなか気分がよろしい。

ジャンピング・シューズ

2007年05月26日 | Weblog

 立ち仕事が脚にこたえると言うカミさんに付き合って “Z-Coil”と言うかかとにバネの付いた靴を買いに、電車で一時間ほどのコネチカット州へでかけた。
むむ!これは、ドクター中松のジャンピングシューズじゃあないか?

話はここで一気に二十年程前に。

 当時、僕が入社したばかりの、市ヶ谷にあった小さなビデオプロダクションのクライアントに「中松先生」と言う人がいた。
先生は、毎日運転手付きのベンツでやって来ては、アメリカの「世界発明大賞」だかで6年連続グランプリを取ったと言う話のビデオ編集を指揮していた。
「ここはこうしましょう。」「やっぱり、ここをこうしてください。」ネチネチと終わりの見えない手直しが続く。
たまりかねた先輩社員のOさんは編集機の使い方を僕に教え込み、翌日から僕は先生と二人きりで世の中の厳しさを教わる事となった。
あまりに激しいやり直し攻撃に、マスターテープがちぎれてしまい、 呆然とする僕が「先生、テープがちぎれました。」と言っても先生は「そうですか、じゃ、あそこはやっぱりこうしましょう。」と、動じない。
後日、納品に行った僕に、「ちょっと待ちなさい、おみやげをあげましょう。」と言って、「頭の良くなるお菓子」なる物をくれた。

 数年後ニューヨークへやって来た僕は、先生のビデオに出て来た発明大賞の会場だったペンタホテルがバックパッカー御用達の安宿だと知った。
先生は自らビデオカメラを回しながら、そこのドアマンに「中松博士はすばらしい」と無理矢理言わせたと言うことだった 。

Rosa-Parks

2007年05月24日 | Weblog

 撮影を全て終えて、衛星伝送の為に地元のテレビ会社へ。
待合室の廊下にローザ・パークスの写真が飾ってあった。
黒人で初めてバスの席を白人に譲ることを拒否した女性。二年前に亡くなった。

眺めていると、今回通訳として同行しているKさん(ミシガン州の大学でアメリカ文化を教えている教授)が「ローザ・パークスですね。」と話しかけて来た。
「ええ、今、少し感動していたところです。みんながこの人みたいだったらね。」と言うと、頬笑んで「ほんとに」と頷いた。
日本から来たプロデューサー氏が「誰です?この人。」と聞くので、「ローザ・パークス、初めてバスの席を白人に譲るのを拒否した人ですよ。」と答えると、「ふーん、そうなんだ。」とつぶやいて行ってしまった。

アトランタへ

2007年05月23日 | Weblog
 
 コカ・コーラが新しいアミューズメント・パークを開くという事で、経済ニュースの取材にアトランタへやって来た。
入り口のセキュリティーチェックの物々しさに少し憂鬱になる。
家族連れが休日を楽しみに来るところなのに…

 オープニングセレモニーの会場には、シルク・ド・ソレイユのパフォーマーたちがマイムやダンスで来場者を笑わせている。一日中池の中で踊り続ける姿は、かなりの実力あるアクター達のように見受けられるだけに、心中はいかほどなのか… 戸惑いを感じる。雇われた「プロの仕事」という事なのか。

 夜、日本から来たスタッフの方々と食事。僕の「日本はやっぱり改憲するんでしょうかね。」という一言が、主義の大海に漕ぎ出して、「アメリカは皇室を洗脳しようと、家庭教師を送り込んだけど失敗した。」とか「ア・ウン・サン・スー・チーはビルマを乗っ取ろうとするイギリスに洗脳された。」とか言う話に漂い着いた。民主主義とは、こういった大海原の流木一本一本を拾って行かねばならないような作業なのかと思ったら、少し気が遠くなるような気がした。