ドキュメンタリー番組「混迷パキスタン」の米国パート撮影でワシントンDCに滞在している。
民主派のブット元首相が暗殺され、暴動に揺れるパキスタンの総選挙が近い。
投票日には必ず自爆テロを起こすだろうと言われる反米イスラム過激派は、かつてソ連の進出を止めるべくアメリカが育てた民兵達だ。
自国の都合に合わせて、手の平を返すように政策を変えるアメリカに翻弄される中東。しかしそのアメリカの選択を失政と呼べるのか?
日本一のドキュメンタリー番組の制作に参加させて貰えるのは興奮する。実際、助手時代からこの番組に関わった事が何度もあったが、スタッフもカメラマンもすばらしく一流揃いで、ただ優秀なだけでなく、その作品に取り組む姿勢の誠実さにはいつも襟を正され通しだ。厳しいクオリティの要求に、誰にも制作ズレしている余裕は無い。よほどのベテランの人でも誠心誠意仕事に打ち込む。
アメリカ・パートは政府関係者のインタビューが中心になるので、絵の構成はどうしても単調になりがちだ。ワシントンDCの風景を交えて、照明や撮影の方法を工夫して、いかにストーリーに合う映像のトーンをまとめるかを毎晩話し合う。 結局、安易に技巧に走らず、言わば愚直なほどの姿勢で取材対象の人間を描く努力をすべきだということにいつも話は落ち着く。
普段は日本で、労働者などの普通の人々のドキュメントを担当するディレクターのMさんはアメリカの大学を出ていて、英語が堪能なので急遽借り出されたのだそうだ。「本当は外国の事より、僕は普通の人間を撮りたいんです。」ワインも三杯目になると(自費です、念の為)一瞬、この人と一緒に日本に帰って、世の中の為に働こうかなどと血迷ったりもする。