「鳶(とび)に油揚げをさらわれる」ですか~~
そーすから
韓国のロッテグループが急増する訪日外国人観光客マーケットの獲得に乗り出した。傘下のロッテ免税店(本社・ソウル)が関西空港に韓国企業初の大型免税店を今秋オープンさせたのに続き、2015年度下期には東京・銀座に都内最大の「空港型免税店」を開業する。外国人が日本で買い物に使うお金は年々増え、14年は前年比約1.5倍の7000億円規模になる見通し。10月からほぼ全商品が消費税の免税対象となったこともあり、日本の免税市場が今後拡大するのは間違いない。業界でアジア最大のロッテ免税店に膨らむパイをみすみす奪われてしまうのか。国内小売り各社の戦略と実力が問われている。
◆中国人観光客狙う
「日本に最初に進出する関西国際空港店の広報大使、チェ・ジウと申します。関西をはじめ、日本の皆さまにロッテ免税店が愛されるように私も全力を尽くして頑張ります」
ロッテ免税店の関西空港店がオープンした9月4日、韓国の女優、チェ・ジウさんが空港に近い大阪府泉佐野市のホテルに黒ずくめのシックな姿で現れ、記者会見で笑顔を振りまいた。
02年のドラマ「冬のソナタ」で人気を博し、日本に韓流ブームをもたらしたチェ・ジウさんは今もアジア各地で人気を誇り、新たなマーケットを開拓する「顔」として抜擢(ばってき)された。
会見では、ロッテ免税店のイ・ホンギュン代表理事が「関西空港でノウハウを蓄積し、日本の他の空港にも出店したい」と述べ、成田や中部など主要空港への進出も視野に入れていることを明らかにし、成長が見込まれる日本の免税マーケットの取り込みに強い意欲をみせた。
ロッテ免税店は韓国の国内店を中心に国外店舗やインターネット店も展開する。13年の売上高は3兆5000億ウォン(約3800億円)に上り、アジアの免税店会社では最大手だ。世界でも仏LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン傘下のDFS、スイスのデュフリー、ドイツのハイネマンに次ぐ4位につける。14年は売上高を前年比20%増の4兆2000億ウォンに伸ばし、世界3位を狙う構えだ。売り上げの大半は韓国内で稼いできたが、12年にはインドネシアとシンガポール、今年7月には米グアムの各空港で開業するなど世界展開を加速している。
関西空港店の面積は約330平方メートルと広く、同空港第1ターミナルの全売り場面積の7分の1を占める。初年度の売り上げ目標は15億円。韓国でトップシェアを持つ化粧品メーカーのブランド品やファッション雑貨、高麗人参などを店頭に並べ、好調な売れ行きという。
海外旅行で出国する日本人も関西空港店で買い物はできるが、ロッテ免税店の真のターゲットは日本を訪れる中国人観光客だ。同社全体の14年の売上高見通しを国別でみると、化粧品などを購入するため大挙して韓国を訪れる中国人が約6割を占め、韓国人は約3割、日本人は1割に満たない。日本に出店すれば、買い物目的で訪日する中国人を取り込めるという思惑が透けてみえる。
◆強いマーケット戦略
ロッテ免税店の強みは、韓流スターを大量に動員する韓国企業ならではのマーケット戦略にある。韓国の大手紙、中央日報の日本語版サイトには「ロッテ免税店、韓流マーケティングで世界攻略へ」という見出しが躍る記事が掲載され、ロッテ免税店側が「韓流ブームをうまく活用して市場攻略に出る」と話したと伝えている。
中国では今が韓流ブームのまっただ中。ロッテ免税店は30人を超える韓流スターをモデルとして抱えており、韓流スターが広告撮影の際に身につけた衣装を、景品として外国人の買い物客にプレゼントする販促策もたびたび行っている。韓流だけではなく、グループ力もフルに活用している。10月初めには中国人観光客向けに破格の景品を用意し、中国・瀋陽にあるロッテグループのマンションをプレゼントしたという。
日本で中国人観光客を取り込む最大の拠点となる東京・銀座の店舗は、東急不動産が銀座5丁目で再開発する11階建て商業ビルの8、9階に入居する。その広さは半端ではない。計画では関西空港店の13倍余りとなる4400平方メートルもあり、国立代々木競技場第1体育館アリーナの4000平方メートルを上回る。
広さもさることながら、銀座店の特色は空港型免税店となることだ。通常の免税店では購入額が5001円以上、50万円以下の商品にかかる消費税だけが免除されるが、空港型免税店の商品は輸入関税と酒税、たばこ税も免除される。ただ、購入客は出国手続き後にしか商品を受け取れないため、空港運営会社や空港内で免税店を運営する企業と連携しないと空港型免税店を市街地に出すことは難しい。
■日本勢はプラスアルファの魅力提供を
通常の免税店は地域を所轄する税務署長の認可を得れば運営できるので、参入へのハードルは高くはない。外国人観光客の増加を受け、国内では百貨店や総合スーパー、ドラッグストア、土産店などに広がり、10月1日現在の免税店は9361店と4月時点より6割も増えた。
コンビニエンスストア最大手のセブン-イレブン・ジャパンも12月から都内の一部店舗で免税対応を始め、全国の店舗に広げていく構えだ。他の小売業も続々参入している。もっとも通常の免税店は、たばこや酒類、輸入ブランド品などでは価格面で空港型に対抗できない。
もちろん、日本勢も黙って指をくわえているわけではない。三越伊勢丹ホールディングスが日本空港ビルデング、成田国際空港と共同で15年秋に三越銀座店に売り場面積が約3300平方メートルの空港型免税店を開く計画を進めており、那覇市以外では市街地で初となる空港型の開業をロッテと競う。
さらに大丸松坂屋百貨店も「空港型の取り組みを加速させる」(吉川辰司執行役員)と意欲をみせ、関西空港と大阪(伊丹)空港を管理する新関西国際空港会社も市街地での空港型の展開を検討している。
ただ、免税店が乱立する状態になれば競争が激しくなり、淘汰(とうた)されるケースも出てくるのは避けられない。韓流マーケティング戦略が相当の効果を生み出しているロッテ免税店に、日本勢はどうやって対抗するのか。例えばアジアでの人気が高いJポップのアーティストや日本発のコンテンツ「クールジャパン」などと連動した誘客戦術を繰り広げるなど、訪日客を意識したプラスアルファの魅力を提供しなければ、世界の免税マーケットで存在感を増すロッテにしてやられかねない。
米ボストン・コンサルティング・グループによると、世界の免税品市場の規模は15年に約600億ドル(約7兆1660億円)と、13年の実績推計よりも1割の拡大が見込まれている。
観光庁の推計によると、日本で外国人観光客が免税対象品以外も含めて使った買い物代は13年が推定約4600億円。14年1~9月の累計は約5000億円と既に前年を上回った。1~9月でみると全体の4割強を中国人が占め、「爆買い」とも称される爆発的な消費行動はまさに突出している。
日本の免税マーケットは数年前の時点で千数百億円との推定もあり、大きくはない。ただ、東京五輪が開催される20年に2000万人の外国人観光客の誘致を目指す日本政府の取り組みは着実に成果を挙げ、訪日外国人観光客は前年比3割程度のペースで伸びており、日本も世界で有数の免税マーケットに育つ可能性がある。
その過程では12年時点で世界7位の新羅免税店を含めた韓国勢にとどまらず、他の海外勢もこぞって日本戦略を強化するだろう。日本の小売り企業で世界のトップ10に入る免税業者はなく、世界の免税マーケットでは出遅れており、誘客のノウハウも見劣りする。免税ビジネスのプロを迎え撃つための体制を早急に整えなければ「鳶(とび)に油揚げをさらわれる」事態に慌てふためくことになりかねない。
そーすから
韓国のロッテグループが急増する訪日外国人観光客マーケットの獲得に乗り出した。傘下のロッテ免税店(本社・ソウル)が関西空港に韓国企業初の大型免税店を今秋オープンさせたのに続き、2015年度下期には東京・銀座に都内最大の「空港型免税店」を開業する。外国人が日本で買い物に使うお金は年々増え、14年は前年比約1.5倍の7000億円規模になる見通し。10月からほぼ全商品が消費税の免税対象となったこともあり、日本の免税市場が今後拡大するのは間違いない。業界でアジア最大のロッテ免税店に膨らむパイをみすみす奪われてしまうのか。国内小売り各社の戦略と実力が問われている。
◆中国人観光客狙う
「日本に最初に進出する関西国際空港店の広報大使、チェ・ジウと申します。関西をはじめ、日本の皆さまにロッテ免税店が愛されるように私も全力を尽くして頑張ります」
ロッテ免税店の関西空港店がオープンした9月4日、韓国の女優、チェ・ジウさんが空港に近い大阪府泉佐野市のホテルに黒ずくめのシックな姿で現れ、記者会見で笑顔を振りまいた。
02年のドラマ「冬のソナタ」で人気を博し、日本に韓流ブームをもたらしたチェ・ジウさんは今もアジア各地で人気を誇り、新たなマーケットを開拓する「顔」として抜擢(ばってき)された。
会見では、ロッテ免税店のイ・ホンギュン代表理事が「関西空港でノウハウを蓄積し、日本の他の空港にも出店したい」と述べ、成田や中部など主要空港への進出も視野に入れていることを明らかにし、成長が見込まれる日本の免税マーケットの取り込みに強い意欲をみせた。
ロッテ免税店は韓国の国内店を中心に国外店舗やインターネット店も展開する。13年の売上高は3兆5000億ウォン(約3800億円)に上り、アジアの免税店会社では最大手だ。世界でも仏LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン傘下のDFS、スイスのデュフリー、ドイツのハイネマンに次ぐ4位につける。14年は売上高を前年比20%増の4兆2000億ウォンに伸ばし、世界3位を狙う構えだ。売り上げの大半は韓国内で稼いできたが、12年にはインドネシアとシンガポール、今年7月には米グアムの各空港で開業するなど世界展開を加速している。
関西空港店の面積は約330平方メートルと広く、同空港第1ターミナルの全売り場面積の7分の1を占める。初年度の売り上げ目標は15億円。韓国でトップシェアを持つ化粧品メーカーのブランド品やファッション雑貨、高麗人参などを店頭に並べ、好調な売れ行きという。
海外旅行で出国する日本人も関西空港店で買い物はできるが、ロッテ免税店の真のターゲットは日本を訪れる中国人観光客だ。同社全体の14年の売上高見通しを国別でみると、化粧品などを購入するため大挙して韓国を訪れる中国人が約6割を占め、韓国人は約3割、日本人は1割に満たない。日本に出店すれば、買い物目的で訪日する中国人を取り込めるという思惑が透けてみえる。
◆強いマーケット戦略
ロッテ免税店の強みは、韓流スターを大量に動員する韓国企業ならではのマーケット戦略にある。韓国の大手紙、中央日報の日本語版サイトには「ロッテ免税店、韓流マーケティングで世界攻略へ」という見出しが躍る記事が掲載され、ロッテ免税店側が「韓流ブームをうまく活用して市場攻略に出る」と話したと伝えている。
中国では今が韓流ブームのまっただ中。ロッテ免税店は30人を超える韓流スターをモデルとして抱えており、韓流スターが広告撮影の際に身につけた衣装を、景品として外国人の買い物客にプレゼントする販促策もたびたび行っている。韓流だけではなく、グループ力もフルに活用している。10月初めには中国人観光客向けに破格の景品を用意し、中国・瀋陽にあるロッテグループのマンションをプレゼントしたという。
日本で中国人観光客を取り込む最大の拠点となる東京・銀座の店舗は、東急不動産が銀座5丁目で再開発する11階建て商業ビルの8、9階に入居する。その広さは半端ではない。計画では関西空港店の13倍余りとなる4400平方メートルもあり、国立代々木競技場第1体育館アリーナの4000平方メートルを上回る。
広さもさることながら、銀座店の特色は空港型免税店となることだ。通常の免税店では購入額が5001円以上、50万円以下の商品にかかる消費税だけが免除されるが、空港型免税店の商品は輸入関税と酒税、たばこ税も免除される。ただ、購入客は出国手続き後にしか商品を受け取れないため、空港運営会社や空港内で免税店を運営する企業と連携しないと空港型免税店を市街地に出すことは難しい。
■日本勢はプラスアルファの魅力提供を
通常の免税店は地域を所轄する税務署長の認可を得れば運営できるので、参入へのハードルは高くはない。外国人観光客の増加を受け、国内では百貨店や総合スーパー、ドラッグストア、土産店などに広がり、10月1日現在の免税店は9361店と4月時点より6割も増えた。
コンビニエンスストア最大手のセブン-イレブン・ジャパンも12月から都内の一部店舗で免税対応を始め、全国の店舗に広げていく構えだ。他の小売業も続々参入している。もっとも通常の免税店は、たばこや酒類、輸入ブランド品などでは価格面で空港型に対抗できない。
もちろん、日本勢も黙って指をくわえているわけではない。三越伊勢丹ホールディングスが日本空港ビルデング、成田国際空港と共同で15年秋に三越銀座店に売り場面積が約3300平方メートルの空港型免税店を開く計画を進めており、那覇市以外では市街地で初となる空港型の開業をロッテと競う。
さらに大丸松坂屋百貨店も「空港型の取り組みを加速させる」(吉川辰司執行役員)と意欲をみせ、関西空港と大阪(伊丹)空港を管理する新関西国際空港会社も市街地での空港型の展開を検討している。
ただ、免税店が乱立する状態になれば競争が激しくなり、淘汰(とうた)されるケースも出てくるのは避けられない。韓流マーケティング戦略が相当の効果を生み出しているロッテ免税店に、日本勢はどうやって対抗するのか。例えばアジアでの人気が高いJポップのアーティストや日本発のコンテンツ「クールジャパン」などと連動した誘客戦術を繰り広げるなど、訪日客を意識したプラスアルファの魅力を提供しなければ、世界の免税マーケットで存在感を増すロッテにしてやられかねない。
米ボストン・コンサルティング・グループによると、世界の免税品市場の規模は15年に約600億ドル(約7兆1660億円)と、13年の実績推計よりも1割の拡大が見込まれている。
観光庁の推計によると、日本で外国人観光客が免税対象品以外も含めて使った買い物代は13年が推定約4600億円。14年1~9月の累計は約5000億円と既に前年を上回った。1~9月でみると全体の4割強を中国人が占め、「爆買い」とも称される爆発的な消費行動はまさに突出している。
日本の免税マーケットは数年前の時点で千数百億円との推定もあり、大きくはない。ただ、東京五輪が開催される20年に2000万人の外国人観光客の誘致を目指す日本政府の取り組みは着実に成果を挙げ、訪日外国人観光客は前年比3割程度のペースで伸びており、日本も世界で有数の免税マーケットに育つ可能性がある。
その過程では12年時点で世界7位の新羅免税店を含めた韓国勢にとどまらず、他の海外勢もこぞって日本戦略を強化するだろう。日本の小売り企業で世界のトップ10に入る免税業者はなく、世界の免税マーケットでは出遅れており、誘客のノウハウも見劣りする。免税ビジネスのプロを迎え撃つための体制を早急に整えなければ「鳶(とび)に油揚げをさらわれる」事態に慌てふためくことになりかねない。