出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

印税

2014年09月05日 | 翻訳出版
ちょっと話は前後する。翻訳出版の契約の中でも重要…というか私がいちばん気にしていた印税について書くのを忘れていた。

ガイド本には、「日本での採算を考えると一般書で5~8%」と書いてあった。プラス翻訳印税も発生するので大変だなと思ったが、今回は自分で訳すので、とりあえず著者に払う印税だけ気にすればいい。いいんだが、問題は2つあった。

1つは、著者がオリジナル本の出版契約とうちとの契約とを同じように(というか、同じ種類の契約と)考えていて、米国では10%なのになぜ下げる必要があるのかと、当初食い下がったこと。よく考えてみれば、著者にとってはどこで出ようが自分が書いたものに対するロイヤルティーなのだから、同じ印税率を求めて当然という姿勢も分からんではない。翻訳料がかかるからとか市場が違うからとかいうのは、版元側の理屈である。日本人著者の本よりコスト高だから…という理由は、相手に「お願いする」根拠にはなっても「説得する」材料にはならない。契約交渉において、あまり「お願い」はしたくない。

もう1つは、長く売っていきたいが、この円安の流れで将来の計算が成り立たないようなことはしたくないということ。ついでに言うと、私はいろんな相場に手を出してきたが、広い意味での外為ではプラマイゼロに近い成績なのである。つまり、悪いほうに傾く可能性も無視できないということ。

さらに、長く売っていきたいという希望絡みの話で、最近はオンデマンド(千部未満)印刷も安くなってきたのでうちでは増刷によく利用する。新刊時みたいに在庫がドーン!ということにならず、かつ品切・重版未定にしなくて済むので、助かっている。が、安くなってきたと言っても、初版時より単価は上がる。その上円高で印税も値上がりとなると、とても痛い。痛いで済むならいいが、うちみたいに刊行点数が少ないと、1点たりとも赤字にするわけにはいかないのである。

そこで、円建ての数字をオファーしてみた。交渉時のレートではダメだが、オリジナル版が出た当時の為替レートで計算すると著者の希望である10%にずいぶん近くなる。屁理屈だが、数字に弱そうな著者はこれで説得されつつあるようであった。そこへ、「エージェントを通さないでこうして交渉している恩恵を受ける(手数料引かれない)のはアナタ」、「なかなか返事をくれなかったのもアナタ、1年前ならもっと払えたのに(円高だったから)…」と畳み掛けたら、一気に話がまとまった。

こちらは…と言えば、ただでさえ初めての経験でいろいろ予測しにくい出版で、印税に関して予算を固定できるのは大助かりであった。後になってページ数が決まって刷り部数を決めたとき、本体価格の算出で悩まずに済んだ。

ちなみに、結果的には約6%。写真や協力者への謝礼込みで「すべてのコンテンツ」に対して10%、つまり通常のうちの「印刷製本に入れる原稿」に対して10%という目標をクリアできた。

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
小さな~の電子出版 (なかや星永堂)
2014-09-22 18:15:24
北陸発の<電子書籍の一人出版社+オンライン書店>です。2013年9月に、キングジム社のwook上に開設。[出したい本を//じっくりていねいに//出したい本に]をモットーに取り組んでいます。現在3冊を店頭に並べています。ブログはyahoo、「すーてき散人空の紙」。焼酎ネーミングの連載など。おそらく、いちばん小さな~の電子出版社版と思います。ご笑覧いただければ幸甚です。本格的には改正著作権法律待ちです。図書館で本を見つけ、ブログに到達できました。金沢から、よろしくどうぞ。
Unknown (タミオ)
2014-11-13 17:20:16
なかや星永堂さん、拙著お読みくださりありがとうございます。リンク先、ブランクでした。

著作権法に触れるような権利侵害をするつもりはありませんが、うちは「契約は個別に条件を吟味」というスタンスです。著作権法は著者(というかその著作物)を守るものであって、その権利の一部である出版権の設定については、著者と版元で話し合って決めればいいと考えているからです。お上がどう決めようが・・・というか、新法は「これも決めときなさいね」ってな話で、どう決めるかはこれまでと変わらず、著者とのきちんとした対話がカギだと思ってます。

コメントを投稿