出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

契約完了

2014年08月13日 | 翻訳出版
コンタクトから1年かけて契約交渉し、ようやくすべて合意にこぎつけたので、契約書と税金関係の書類を送る。日本は著者が住む米国と租税条約を交わしていて、所得税を源泉しなくてもいいのである。著者の手取りと確定申告時の手間が違うだけでこちらには関係ないが、そうせよと翻訳出版の本に書いてあった。書類のやり取りと税務署への提出だけで済むので大したことはない。

米国人だと、「租税条約に関する届出書」と「特典条項に関する付表(米)」という2種類の書類(各1枚)があって、税務署でちょろっと説明してもらう。別に何も難しいことはない。タイトルや印税額などほとんどの必要項目をこちらで記入し、念のために住所などはあちらで書いてもらうことにして、あとはサインすべきところなどに印を付けて送った。

ところが届いた書類を見た著者から質問が山のように来て、実際は結構大変なことになってしまう。和英並記だし、うちの前にスペインでの刊行も決まっていたんだが、米西間では租税条約は交わされていないようで、かつ他に国外での収入が発生したことがないらしく、制度自体をよく知らないようだった。そのやりとりで、またしても2週間ほどかかった。

さらに、こちらから送った書類2枚はいいとして、彼の地のタックスペイヤーであることの証明書を取ってもらう必要がある。ちなみに日本でいう納税証明みたいなものを想像していたが、送られてきたのは住民票みたいな「単に居住者であることの証明」であった。IRS(合衆国内国歳入庁というらしい)という機関に申請して発行してもらう。どこかで1ヵ月くらいかかると読んでいた(実際には2週間ほどで発行された。州によって違うかもしれない)。

サイン済み契約書と一緒に送り返してくれればいいからと言って気長に待つつもりでいたら、税理士が「申請書のコピーじゃダメなのか」と聞いていると言ってきた。手続きがよくわからなくて税理士に相談したらしいんだが、申請書のコピーなんて言い出すなんて、その税理士、大丈夫か? おまけに、役所の書類には「様式1」とか数字がふってあるが、申請書ともらうべき証明書の番号がごっちゃになって、税理士の指示自体もよく理解しないままこちらに質問してくるので、返事するのに苦労した。

契約書と書類をすべて受け取って、次は印税(アドバンス)の支払い。ちなみに、払うのは税務署に書類を提出した後でないとダメだとのこと。今回のような小額では問題ないだろうが、余計な心配はしなくていいように諸々が終わってからの支払だと著者には前もって言ってあった。「早く現金を!」という著者ではないし、いろんなことに疎いようなので、そのへんはこちらのペースだったが、うるさい著者もいると聞く。

できればペイパルか、出稼ぎ移民が使うような安い手数料のところで送金したかったんだが、そちらも疎いようで銀行から振り込むことになった。

アドバンスの支払が終わって、ようやく契約関係はすべて完了した。最初のコンタクトから1年と2ヵ月かかった。

2 コメント

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Unknown (さず)
2014-08-14 17:36:56
小難しそうな規約や書類など余裕をもって対応されているあたりに出版社さんの腕の良さが見えるようです。当の著者の方に「惚れ込んでいる」とまで書かれているのですから、完成したら読んでみたいものです。
Unknown (タミオ)
2014-08-16 11:13:10
さずさん、ありがとうございます。分からないことをひとつひとつ調べて行動に移していくだけで、特別な腕など何も必要ありません。でも嬉しいです、ありがとうございます。
本は既に出ていまして(だからここで書いているのですが)、「マスード 伝説のアフガン司令官の素顔」といいます。ありがたいことに、日経の書評に出ました。実は「誤訳も多く」と書かれてしまったのですが、それに関してはこちらの言い分もあり、後日ここで書くつもりです。ちょっとマニアックな本ですが、よろしければお手に取ってみてください。

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