出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

ロングセラー

2005年06月14日 | 出版の雑談
本日も納品に行ってきた。

頭を空っぽにしてブイーンと原チャリで走るのは、意外と気持ちのいいもんだ。特に最近は、日販からのおみくじ(注文短冊)の数もトーハンの棚にある短冊も増えてきたので、「行った甲斐」があってシアワセ。

思えば初期の頃、刊行点数が1、2冊で注文がそんなにあるわけはなく、1冊持って王子へ…なんて悲しい旅を何度もしたものだった。

今もたいして多くないけど、コンスタントに補充がある本が1冊と、まあまあ客注がある本が2冊、それに新刊を加えて、どうやら「行き甲斐」のある納品ができる。そりゃ、運送屋(出版納品代行というのか)を外注できるくらいになったら嬉しいけど、私の道楽半分みたいな商売がなりたつんだから、これでよしとする。

積んでった本がさばけていい気分で帰ってくるあいだ、このことをよ~く考えてみた。

要は、コンスタントに売れる本がたくさんあれば、新刊がコケるリスクもある程度吸収できるだろう。うちの場合、ホントに少ない冊数で原価回収はできるから、よほどの失敗をしちゃわない限り、補充で楽に食ってけるんじゃないか。

もちろん補充だけで食うってのはつまらないから新刊を出すけど、食えてたら冒険もできる気がする。コンスタントに売れる本を作るのがいいってことは、前から言われてることだ。

が、コンスタントに売れる本についてよーく考えると、これが意外と難解だ。

私がよく受けるアドバイスに、「1万部売れる本をいくつか出すと一息つく」というのがある。「1万部売れる本」と言われると、そこそこ売れた本というイメージは湧く。バカ売れしなかったけどコケなかった、って感じだろうか。

けれどもこっちは一息も何も、全然「ハァハァ」状態じゃない。「だから」というか「なのに」というか、1ヶ月で1万部売れたらそういう「少々まとまった金」はパアーッと使っちまう。

もっと、世の中の人が「全然売れてると思わない」ようなペースで売れてほしい。例えば10年で1万部。週1回トーハンと日販に10冊ずつ。う~ん、これは嬉しい。そんな本が10冊もあれば、すごく美味しい。

で、10年間細々と売れ続ける本って、一体どういう本だ?

まず文芸作品が考えられるけど、うちの場合は可能性ゼロに等しい。いや、もしかすると著作権が切れた作品をしつこく探せばあるのかもしれないけど、ちょっとやる気は出ない。

次に人文だが、まったく疎い。

ビジネスものだと「経営の真髄」みたいなんだったら読み続けられるかもしれないが、数多いビジネス書の中で光るのは至難の技に思える。

ノンフィクションだと時事ものはダメそう。っていうか、日本のマスコミの「追っかけては忘れる」を考えると、難しそうだ。

そう考えてくると、「バカ売れしてその後も細々」じゃなくて「最初からじっくり細々、けどそれなりに」っていうのは、意外と思い当たらない。一旦売れないと、「週に20冊ずつ」は無理なのか?

ジャンルにもよるだろうけど、1万部売れる本をしょちゅう作る編集者は、結構いるんじゃないか。1万部売れる本を作るためのセミナーなんかも(怪しさは置いとくとして)いっぱいある。けど、「じっくり1万部」は誰も教えてないようだ。

う~ん、うちみたいな異端児は、自分で考えなきゃダメってことか・・・。