芽ばえ(2008.10.5日作) と 前回作の若干の訂正
1 その人は片田舎の小学校の教師だった
二年生の担任だった
笑顔の優しい女の先生だった
それから四年が過ぎた
その人は隣村の県道沿いの貯水槽で
ある夜 自殺した
着物のたもとに県道に敷かれた砂利石を入れて・・・・
なぜなのか 理由を知る事は出来なかった
ただ 驚きと共に 心にさざ波が立ち
哀しみが小さな笹舟のように走った
2 その人は小学校五年生の担任だった
先生というよりは年の離れた
姉という感じの人だった
年配の教師達の多い中で若さと共に
その美しさが心に残った
ある放課後 その人は教室の窓辺に立っていた
当時 盛んに唄われていた「憧れのハワイ航路」を
わたしが口ずさんでいるのを耳にしたその人は
「その歌の小説を持っているわよ。貸してあげようか」
と言った
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本を借りる事はなかった
後年 その人は他校へ転任になり
わたしは中学校三年生になっていた
そんなある日 偶然 県道でその人と
お互いが自転車ですれ違った
その人とは ただ 目礼をしただけだった
正面からその人を見る事が出来なかった
胸の内に走る かすかなトキメキを覚えていた
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以降 その人と再び会う事はなかった
消息を聞く事もないままに時が過ぎた
なぜか心に残る少年の日の思い出
面影の 人は遠くに 木犀花
(前回の文章中 寺田寅彦「作」を「の言葉」と変更します
また 災害は忘れた頃にやって来る を 天災は・・・と変更します
愚作の災害は という言葉に引きずられ つい 災害と書いてしまいました)