原題:『サンブンノイチ』
監督:品川ヒロシ
脚本:品川ヒロシ
撮影:相馬大輔
出演:藤原竜也/田中聖/小杉竜一/中島美嘉/窪塚洋介/池畑慎之介☆
2014年/日本
佳作とされるはずの「失敗作」について
主人公の清原修造(=シュウ)はギャンブルにのめりこんで高配当馬券をモノにしたものの、肝心の店の売り上げ金が入ったセカンドバックを盗まれてしまったことから、同じように借金を背負ったボーイの小島一徳(=コジ)と事業に失敗し破産寸前の常連客である金森健と共に銀行強盗を決行し、警官に追われ、とあるビルに隠れており、手に入れた1億6千万円を巡るストーリーが展開される。
本作はクエンティン・タランティーノ監督作品というよりも、寧ろスティーブン・ソダーバーグ監督作品に作風が近いと思うのであるが、私が気になったことはストーリーの展開そのものよりもラストシーンである。シュウが雇われ店長として働いていた、川崎にあるキャバクラ『ハニーバニー』のオーナーの破魔翔に見つかった3人は、彼の下で働くことになる。散々逃走を試みようと試行錯誤しながらこねくり回した話としてはあまりにも呆気ないエンディングで、失敗作なのではないのかと思ったのであるが、この銀行強盗の「ストーリー」を考えているのがシュウであるという点を見逃してはならない。何故ならばシュウは元々映画監督志望であり、最後で明かされるようにシュウの才能を認めてくれたのは破魔翔だったはずなのである。だから3人をモニターで観察しながら破魔翔が「おまえら映画好きは何故か自分以外の人間には映画を見る目が無いと思っている。自分では1本だって1分だって1秒だって撮ったことがないくせに、やれカット割りがどうだ、役者がどうだと語るんだ。そのくせ他人の映画論は右から左だ。」と語るセリフは品川監督の個人的な恨みというニュアンスは無くはないであろうが、破魔翔がシュウに向けて語っていると捉えるべきであろう。破魔翔が好きな映画として『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(ロバート・ゼメキス監督)を挙げているように、このような時間が交錯するような作品に対して目利きであることは間違いなく、実際に、シュウが練りに練った銀行強盗の「脚本」は破魔翔によって「解かれて」しまい、逃げ切ることが出来なかったのだから、破魔翔の言う通りで、破魔翔の下で「ギャング映画」監督に挫折したシュウが何をさせられるのか語られなかった理由もそこにある。
しかしそのように解釈すると、私たち観客は、シュウの「失敗作」を観させられていることになる。私は構わないと思うし、一癖もふた癖もある役者たちのキャスティング時点で既に成功しているようにも思えるのだが、本作のような娯楽作品をマジメに観る宇多丸は不満らしいよ。