MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『シェイプ・オブ・ウォーター』

2018-03-03 00:27:44 | goo映画レビュー

原題:『The Shape of Water』
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ/ヴァネッサ・テイラー
撮影:ダン・ローストセン
出演:サリー・ホーキンス/マイケル・シャノン/リチャード・ジェンキンス/ダグ・ジョーンズ
2017年/アメリカ

粋がるアメリカが捕らえられない「水の形」について

 時代設定は1962年でアメリカのボルティモアが舞台である。当時のアメリカとソ連の冷戦関係をなぞるような登場人物の相関図は、まるでアメリカそのものを体現しているようなリチャード・ストリックランド大佐と、主人公で発話障害を持つイライザ・エスポシト、彼女の友人で黒人のゼルダ、イラストレーターでゲイのジャイルズ、ソ連のスパイのロバート・ホフステトラー博士と半魚人というマイノリティーたちの対立として描かれている。
 とかくイライザと半魚人の恋愛が注目されがちなのであるが、個人的にはストリックランド大佐の「葛藤」が気になる。ストリックランド大佐たちは捕まえた半魚人の生体解剖により、宇宙開発においてソ連に差をつけようと試みているのであるが、上司であるフランク・ホイト将軍には朝鮮戦争時に釜山にいた頃から14年も世話になっておりストリックランド大佐は失敗が許されない厳しい状況に置かれている。
 ところがストリックランド大佐は半魚人に手を咬まれたり、イライザたちの共謀で半魚人に研究施設から逃げられたりして散々な目に遭い、ついには咬まれた手の指が腐り出し、港湾にまで半魚人を追い込みながら、一度は撃ち殺した半魚人が生き返り反撃に遇って絶命してしまうのである。アメリカがどのように粋がってみても勝てないこともあるという現実に直面するのはヴェトナム戦争で証明されることになるのだが、ストリックランド大佐がもがき苦しむ有様にアメリカの悲壮感を感じるのである。
 ラストシーンを観た観客はイライザが住んでいた部屋の下にあった名画座で上映されていた映画の意味を知ることになる。『砂漠の女王(The Story of Ruth)』(ヘンリー・コスター監督 1960年)と『恋愛候補生(Mardi Gras)』(エドマンド・グールディング監督 1958年)の2作品がかかっているのだが、「ルツ(Ruth)」とは旧約聖書に登場する「他者」の慣習に従う女性であり、「マルディ=グラ(Mardi Gras)」とはアメリカのニューオーリンズなどで行なわれるカーニバルで「告解火曜日」、または「懺悔火曜日」と呼ばれているのである。驚くべきことはこの事件が起きたのは当初10日の予定を前倒しした1962年10月9日の火曜日の夜なのである。


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