原題:『Morte a Venezia』 英題:『Death in Venice』
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
脚本:ルキノ・ヴィスコンティ/ニコラ・バダルッコ
撮影:パスカリーノ・デ・サンティス
出演:ダーク・ボガード/シルヴァーナ・マンガーノ/ビヨルン・アンデルセン
1971年/イタリア・フランス
届きそうで手の届かない「美」の残酷性について
ミュンヘンに住む初老の作曲家であるグスタフ・アシェンバッハは病気療養のためにヴェネチアのリト島へ赴く。グスタフは幼い娘と死別し、新曲は観客の酷評を受けたりして精神的にも疲れ切っていた。彼は現実が堕落をもたらし、自分の音楽で英知や真理や人間的尊厳を創造しようと考えていたが、彼の友人のアルフレッドは天才は天から与えられた狂気であり、自然が贈った罪深いひらめきで、邪悪も必要だと説く。気を紛らせるために売春宿に行ったが、邪悪さに嫌悪を感じているグスタフは結局何もできなかった。同じ頃バカンスでヴェネチアに家族と一緒に来ていた美少年のフランス人であるタジオ・モールズを見たグスタフは、その余りの美しさに魅せられてしまう。
グスタフはヴェネチアにアジアコレラが流行っていることを知り、ミュンヘンに帰ろうとしたがタジオを忘れることができずリト島に戻ってしまう。恋愛に目覚めたグスタフは髪を黒く染めて、口紅やファンデーション、アイシャドーを塗り、タジオの後を追いかけるのであるが、結局一言も声をかけられないでいた。タジオと関係を持つことは美を汚すことになるからである。
ラストシーンでタジオの姿を海岸で眺めながらグスタフは心臓発作を起こし、髪に塗った黒い染色剤を化粧した顔に垂らしながら死んでいく。グスタフにとってタジオはまさに彼が創造したかった心理や美だったが、追いかけても声をかけられなかったということは結局人間には真理や美は届きそうで手の届かないものということであり、グスタフは美しく化粧を施した顔を黒い染料で汚しながら、コレラに犯されたベニス(=ヴィーナス、美と愛の女神)で死ななければならないのである。