原題:『Deux jours, une nuit』
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
撮影:アラン・マルコァン
出演:マリオン・コティヤール/ファプリツィオ・ロンジョーネ/オリヴィエ・グルメ
2014年/フランス・ベルギー・イタリア
「労働組合」無き後の孤独な「ヒーロー」について
うつ病を患って休職していた主人公のサンドラ・ビアが仕事先のソーラーパネルの会社に復職しようとした矢先に、会社側から残りの従業員へボーナスを支給する代わりに解雇することになり、これは16人の従業員の投票で決まったことだと告げられる。
同僚のジュリエットの奮闘で社長に直談判し、月曜日の再投票でサンドラの復職を支持する者が過半数に達したら解雇を取りやめにすることになるのであるが、サンドラが一人一人を訪ね歩いて頼んでいる様子を見ている内に、何故彼らは「労働組合」を組織して労働者側の権利を守るために会社側と交渉しないのかと思った人は決して若い人ではないであろう。
では「労働組合」の代わりに彼らが勝ち得たものが何なのか考えた時、それは復職が決まりかけ、社長が契約社員の契約を期限通りに終了させると言った時、それは受け入れられないと抗議して自ら辞めてしまう「英雄」としてのサンドラなのであるが、皮肉なことに称えられるべきサンドラの英雄的な振る舞いに誰も気がつかず、結局、彼女を引き留めようとしない社長でさえ「バカな女」という烙印を押したはずなのである。
ところで使用されている楽曲なのであるが、ジャッキー・デシャノン(Jackie DeShannon)の「Needles And Pins」の代わりにペトゥラ・クラーク(Petula Clark)のカヴァーヴァージョンの「La Nuit N'en Finit Plus」が使われている。最初にそれぞれの和訳をしてみる。
「Needles And Pins」Jackie DeShannon 日本語訳
今日私は彼を見た
彼の顔を見た
私の好みの顔だった
分かっていたことだけれど
私は逃げ出して
跪いて
それが消え去るように祈らなければならなかったけれど
それがまた始まった
やきもきする気持ちが始まった
私にはプライドがあるから
涙は隠さなければならない
私は自分が賢いと思っていた
彼の心を勝ち取ると
自分が負けるとは思っていなかったけれど
今の私には分かる
私よりも彼女の方が彼に相応しい
だから私の代わりに彼女の愛を
彼に掴ませよう
いつか彼には分かるはず
お願いと言いながら跪く方法が
そして始まるのよ
彼はあのやきもきを感じるはず
彼にじわじわと苦痛を与える
何故それを止めさせて
私自身が間違っていたと言えないのだろうか
完全に私が間違っているのに
何故立ちあがって
強くなれと私自身に言えないのだろうか
だって今日私は彼を見た
彼の顔を見た
私の好みの顔だった
手放すことなんてできない
私には分かっていることだけれど
彼は私を泣かせるの
私が死ぬその日まで泣き続けるのね
でも、みんな
今の私は生きなければならない
私は許さなければならないと
神様も分かっている
また始まる
彼はあのやきもきを感じるはず
彼にじわじわと苦痛を与える
今それを止めよう
あの苛立ちを止めよう
あのヒリヒリを止めよう
二度と始まらないようにしよう
私の言うことが聞こえないの!
誰か、あの感じを取り払って!
あのやきもきを止めて
また始まる
私はあのやきもきを感じる
「La Nuit N'en Finit Plus」Petula Clark 日本語訳
眠れない時は
夜はのろのろと進む
もはや夜が終わらないように
私は何かが来るのを待っているけれど
誰を待っているのか何を待っているのか分かっていない
愛したいし生きたい気持ちはある
全く何も起こらないまま時が流れ時間を無駄にして失ってしまう
この世には必ず存在意義があると言って
私と同じように今夜孤独な人たちがいる
死ぬほど悲しいこと
何てばかげた世界なの
これ以上何も考えたくないから私は眠りたい
タバコに火をつけ
私は頭の中で嫌な考えが浮かぶ
だから私にとって夜がとても長く感じるの
時々遠くから足音が聞こえる
誰かが近づいてくる
でも何もかも消え去って静寂だけが残る
だから夜は終わらないのね
月は青く
手をつないでいる恋人たちの庭がある
私もそこにいる
訳もなく涙を流しながら苦悩する魂のようになる
私は自分一人
愛する人が欲しい
今夜ではないのよ
だって今夜は終わりそうにはないから
でも私は酷い鬱なのね
私は気ままに出かけたい
夜が明けたらすぐに遠くへ行きたい
でも夜は終わりそうにない
このように和訳してみると同じ曲でも詞の内容は正反対で、ペトゥラ・クラークのヴァージョンが選ばれた理由が分かる。