MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』

2016-11-09 00:45:12 | goo映画レビュー

原題:『Genius』
監督:マイケル・グランデージ
脚本:ジョン・ローガン
撮影:ベン・デイヴィス
出演:コリン・ファース/ジュード・ロウ/ガイ・ピアース/ローラ・リニー/ニコール・キッドマン
2016年/イギリス

「天才」を巡って

 「チャールズ・スクリブナーズ・サンズ」という1846年設立の出版社の編集者だったマックス・パーキンズの元に無名の作家だったトマス・ウルフの小説『ロスト(O Lost)』が持ち込まれてきたのは1928年だっただろうか。それを読んだパーキンズはウルフの才能を認め、長大なオリジナル作品を編集して翌年に出版したのが『天使よ故郷を見よ(Look Homeward, Angel)』だった。
 ここで指摘しておきたいことは本作の原題である「天才(Genius)」に関してである。もちろんパーキンズやウルフの天才性を表していることは間違いないのではあるが、実は『The "Genius" 』というタイトルの本がアメリカの作家であるセオドア・ドライサー(Theodore Dreiser)によって書かれ1915年に出版されている。これはドライサーの半自伝的小説で主人公の名前はユージン・ウィトラ(Eugene Witla)である。その14年後に出版されたウルフの最初の小説も1935年に出版された『時と川について(Of Time and the River)』もウルフの自伝的小説で主人公の名前はユージン・ガント(Eugene Gant)なのである。
 これが偶然ではないと思う理由は、自分の原稿に過剰に手を入れるパーキンズに「俺の文章のリズムが分かっていない」と言って行きつけのいかがわしい店に連れて行きパーキンズを辟易させるウルフはあたかも高卒のような振る舞いを見せるのだが、実はウルフはハーバード大学で修士課程まで進み、1924年からニューヨーク大学で7年間国語を教えた経験を持つインテリで、文学のことはかなり詳しいはずなのである。だから本作はパーキンズとウルフの葛藤が描かれ見やすいものになってはいるのだが、深みに欠けると思うのである。
 本作で一番面白かったのはウルフがF・スコット・フィッツジェラルドの家を訪ねた際に、2人の会話の中でフィッツジェラルドが「去年の『グレート・ギャツビー(The Great Gatsby)』の印税は2ドル13セントだった」と告白するシーンで、その「去年」がいつを意味するのか分からなかったが、1925年に出版された『グレート・ギャツビー』が1940年のフィッツジェラルドの死後になって「古典」と化して、これまでに5回も映画化されることになるとは当時のフィッツジェラルドは想像すらしていなかったであろう。


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