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「銭湯の女神」星野博美

2023年12月30日 11時19分21秒 | 読書(エッセイ&コラム)

「銭湯の女神」星野博美

久しぶりの読み返し。

比較的、初期の作品。
2001年に上梓されている。
順番で言えば、「転がる香港に苔は生えない」の次。

P15
 旅に出る機会が比較的多い生活を始めてから13年。たかが旅、と思っていた存在が肥大化し、日常を侵食する瞬間というものがある。大きなものから小さなものまで、何らかの決定を下す時、旅が自己主張し始めるのだ。

p78-79・・・偽装結婚した日本人の話
「結婚の宣誓のあと、キスをしなきゃならないんです。周りの偽装結婚の人たちは、いかにもそれらしく大袈裟に抱き合ってキスしてたけど、私にはどうしてもキスできなかった。その時、ああ、これが偽装結婚ってことなんだな、って初めて実感しました。私はキスすらできない相手と、法律上は夫婦になったんだ、って」

P156
灼熱地獄の南中国を旅していた時のことだ。南中国の沿岸部は鉄路が発達していない。これはこの海岸線が台湾に面しているため、有事の際に鉄道が攻撃目標にされやすいからだといわれているが、それはさておき、移動にはもっぱらバスを利用した。

星野さんは、かつて就職をしたことがある、その初日の話
P177
「星野っていって思い出すのは、入社した日のことだよ。あの日、自分が何いったか覚えてる?」とT氏が尋ねた。もちろん何も覚えていない。私は首を振った。
「これは大事な仕事だから、これから星野さんに引き継ぐよ、っていったんだ。そしたらこいつ、何ていったと思う?『そんなに大切な仕事だったら、引き続きTさんがやってください』っていったんだよ。俺はたまげたね」
(中略)
「よくお局様につっかかって、ひやひやさせられた。星野がお局様に向かって『ちょっと待ってください』っていいながら立ち上がると、フロア全体に緊張が走ったな」

P209
 仕事柄、旅に出る機会は一般の人よりは多いが、それが仕事であれ遊びであれ、いまだにどうしても旅が好きになれない。

P216
 十代は、個性の見えない自分との闘いだった。
 二十代は、自分にしかできないことを模索する自分と、普通の人にできることを期待する周囲との闘いだった。
 三十代になり、そんなことはどうでもいい、他人から見て少々異質に見えようが、自分は自分の考える「普通」の生き方をしていけばいい、と腹をくくれるようになった。一番見苦しいのは、「自由業だ」「芸術関係者だ」と開き直って、数々の愚行や不道徳や不義理や非常識を社会から免罪されようとすることだ。
 社会と接触して生きていく限り、どんな理由も免罪符にならない。

【注意】
最初、文庫本で読み、2回目、単行本で読んだ。
頁番号が合致しない場合がある。
ご了承ください。

【ネット上の紹介】
切なくも騒々しく、温かい街から戻ってみれば、異和感のなかに生きる私がいた。自分の存在そのものが異物になってしまったようだった―。現在の東京を象徴する両極、銭湯とファミリーレストランを周遊する暮らしから芽生えた思いを、鋭い観察眼と端正な文体で描いた、大宅賞受賞の俊英による39の名エッセイ。
私がテーブルを買う時
燃えるゴミ
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癒しのまやかし
ああ、胃炎〔ほか〕

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