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「息子が人を殺しました」阿部恭子

2021年03月29日 08時55分27秒 | 読書(犯罪)


「息子が人を殺しました」阿部恭子

犯罪加害者の家族に焦点を当てたノンフィクション。
犯罪が起きると、マスコミが押し寄せる。
家族は巻き込まれ、プライバシーはなくなり、世間に叩かれる。
それって、被害者の「救済」に繋がるのだろうか?
「犯罪抑止力」になるのだろうか?
著者は、日本で初めて加害者支援を始めたNPO代表。(WorldOpenHeart)

P40
当団体の相談は無料だが、転居や就労支援にあたって、相談者の経済状況を確認することもある。実感としては、経済的に「中流」と言われるような家庭が多い。

P42
相談者の中で、重大事件の家族のみを対象に、逮捕から判決確定までにかかった費用を調査したところ、平均金額は、約600万円だ。
息子が強制わいせつ致傷罪で逮捕されたAさんの場合、3名の被害者に100万円ずつ示談金を支払い、私選弁護人の費用に300万円を要した。
夫が出張中に強姦致傷罪で逮捕されたBさんは、被害者に300万円を支払い、夫が逮捕された場所が遠方であったことから、面会のための旅費に、判決確定まで約50万円を要した。
息子が振り込め詐欺事件の犯人のひとりとして逮捕されたCさんは、示談金として500万円を支払い、私選弁護人の費用に100万円を要した。
未成年の息子が傷害致死罪で逮捕されたDさんは、遺族に1000万円の支払いをした。
A~Dの相談者に資産家はいない。自宅を売却したり、親族から集めたり、借金をするなどして捻出したお金である。子どもの教育費や老後の蓄えは、一瞬にして消えてしまう。(中略)
被害弁済や損害賠償の支払いは加害者本人の責務であり、家族が必ずしも負担する必要はない。しかし、社会的責任を強く感じている加害者家族は、経済的援助に積極的な傾向にある。(加害者の子どもが未成年だと学費が払えず転校を余儀なくされたり、退学に至ったりする。離婚して家庭も崩壊する。いったいどこまで家族に「責任」があるのだろうか?家族の誰が犯罪をするかで変わる。子どもが犯罪者だと、どうしても親は追求される)

P133
痴漢で逮捕された男性がまず心配するのは、「会社をクビにならないか」ということだ。家族への影響よりも、自分の社会的な地位や自由を奪われることの方が心配なのである。(本人は拘置所や刑務所の中で蚊帳の外、となり、逆に、家族はマスコミや世間の非難にさらされる)

P177
また、家族内の問題を社会批判にすり替えてしまう人たちもいる。
(中略)
社会に対する批判的態度があまりに強い人たちへの支援は、非常に困難である。
手を差し伸べようとしても、本人はすべてに批判的で、時には攻撃手になり、救われる機会を自ら潰してしまうのだ。こうした批判的な人たちには、プライドが高く、問題の核心に迫る勇気がないタイプが多いようである。(「家族」もいろいろだ)

P186
「人に迷惑をかけてはならない」――おそらく学校でも家庭でもそのように教え込まれ、世間のルールに従順であることが「善」とされてきた。
その一方で、世間のルールから少しでも外れる者に対しては、厳しい社会的制裁が下される。「安全」な社会が、必ずしも「安心」な社会とは限らない。

【ネット上の紹介】
連日のように耳にする殺人事件。当然ながら犯人には家族がいる。本人は逮捕されれば塀の中だが、犯罪者の家族はそうではない。ネットで名前や住所がさらされ、マンションや会社から追い出されるなど、人生は180度変わる。また犯罪者は「どこにでもいそうな、いい人(子)」であることも少なくない。厳しくしつけた子どもが人を殺したり、おしどり夫婦の夫が性犯罪を犯すことも。突然地獄に突き落とされた家族は、その後どのような人生を送るのか?日本で初めて加害者家族支援のNPO法人を立ち上げた著者が、その実態を赤裸々に語る。
第1章 家族がある日突然、犯罪者になる
第2章 加害者家族はこうして苦しむ
第3章 疑われるのは、まず家族
第4章 報道されれば、家族は地獄
第5章 事件にひそむ家族病理
第6章 家族の罪を背負って生きる人たち
第7章 家族への制裁は犯罪抑止になるか
第8章 加害者家族の支援はこうして始まった
第9章 加害者家族を支援するということ
第10章 犯罪者にしないために家族ができること

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