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「日本航空一期生」中丸美繪

2021年03月24日 09時59分28秒 | 読書(ノンフィクション)

「日本航空一期生」中丸美繪

航空業界の黎明期を描いたノンフィクション。
とても興味深く、おもしろい。
白洲次郎は、現代では人気者だが、本書を読む限り、「悪役」だ。
吉田茂の側近という立場を利用し、国際ブローカーとして暗躍している。
「かっこいいやつ」とおもっていたのに印象激変。
イメージが一新され、それだけでも、本書を読む価値あり。
なお、著者は元・日航スチュワーデス。

スチュワーデスの条件
P14
わたしが日本航空に入社したときは、「容姿端麗」の条件はなくなっていたからこそ応募もできたのだが、かつてはそんな空恐ろしい条件があった。(中略)
「神話の一ケタ、化石の二ケタ、美貌の百期、知性の二百期、体力の三百期」といわれている。(中略)
スチュワーデスは29歳が最年長で、あとはほぼ22歳前後だった。企画室部長の伊藤良平の回想によると、採用にあたって社内では、「良家の子女を採用して日航のスチュワーデスとしてつくりあげる」という意見が圧倒的だったという。そのなかで独特な意見をいろいろいったのが森村勇で、「容姿端麗な八頭身美人を採用方針に」と提案したのも彼だった。(今ならフェミニストに袋だたきでしょうね・・・初代採用者は、ほとんどやめていくが、生き残るのは体力があって愛嬌もある女性たちだったようだ。最初、バッグは買い取りで給料天引き、ストッキングも靴も自前。後に、制服関連全て支給されクリーニング代も出るようになる・・・だいぶ後の話)

P100
竹田悠子は旅客課長から「3S」が強調されたことをはっきりと記憶していた。
「一番にSafety、二番にSchedule、そして三番がServiceであるというのです。これらがわたしたちの心に刻まれたスチュワーデスとしての基本です」(この竹田悠子さんは、初代スチュワーデス。日航に国際線が出来ると、英語堪能により指名される。あるとき、サンフランシスコ発東京便で、後輩がファーストクラスの客の背広にマティーニをこぼしてしまう。代わりに謝りに行って自腹でクリーニング代を工面。しばらくして、日航人事部に丸紅から連絡が入る。機内で出会った商社マンから悠子への求婚がなされたのだった。まるでドラマのような話だが、実話だ)

社長の松尾靜磨について
P251
飛行機に乗るときには、「お客さまを優先させて、重役であるのに、自分は最後に乗ってきて静かに空いている席を見つけてすわっていらしたわ」と感心するのは伊丹政子である。(中略)
着陸すると、ファーストクラスの客を飛行機の出口でスチュワーデスたちとともに送り、自分は最後に降りたともいう。その後の社長が、地上職員に伴われて、お客より先に飛行機を降りていくのとは対照的だったというのである。(大韓航空の元副社長・趙顕娥(チョ・ヒョナ)、つまり“ナッツ姫”と、えらい違いだ。皿に盛られるナッツを袋のまま出したと激怒。動き始めていた同航空機をリターンさせた事件を覚えているだろうか?ちなみに“ナッツ”は、「きちがい」という隠語・・・double meaning、と思う。こんな事件があるから、財閥2世、3世をモデルにした韓国ドラマも出来るのでしょうね)

【備考】1
伊丹政子は、1971年、昭和天皇が欧州に向かった時、その特別機に乗務している。さすが一期生だ。その時、天皇からお声が掛かる・・・「あの足の悪い伊丹の娘か?」、と。
伊丹政子の父は、元陸軍中将、陸軍士官学校校長もし、後、大使館付き武官として皇太子時代ヨーロッパ歴訪に同伴していたのだ。政子自身もあの玉音放送の時は宮内省総務部に勤務していた。その後、宮内省は改組され、政子は職を失い、聖心にもどり、英語科の一期生となるが家計は逼迫。母の嫁入り道具や着物も借金のカタに持って行かれる。そんな折に、日本航空の募集を知って、応募する。

【備考】2
先日、本書を元に、3月20日、広瀬すず主演で「エアガール」として2時間ドラマになった。とのとき、松尾靜磨は、名前を松木静男に変えられいた。何か支障があるのでしょうか? 白洲次郎や三木武夫は、そのままだったのに、どうして?
このドラマを観ていて思った・・・2時間ドラマじゃなく、NHK朝ドラですべきじゃない?、と。 2時間で消化するには濃すぎるんじゃない?、と。

【備考】3
ドラマには出てこないが、「もく星号」事件が取りあげられている。
松本清張「日本の黒い霧」の世界だ。


【ネット上の紹介】
GHQによる「航空禁止令」のもと、占領下の日本では、航空機保有はおろか、教育や研究も禁止されていた。民間航空再開の日を夢みて奮闘し、「日本航空」創立後は、現場主義・安全運行を何より徹底した先達たち。その気概に満ちた歳月を、当時を知る関係者の貴重な証言をもとに描いたノンフィクション。文庫化にあたり大幅加筆をした決定版。
第1章 創業前夜―占領下で(エアガールに CIEの職員を経て
家計のために 陸軍士官学校校長の娘 ほか)
第2章 日本航空創立―旅行会社のような民間会社(畳敷きの社長室
狭き門 ほか)
第3章 「もく星号」事件から自主運航へ(「もく星号」事件
事故の真相 ほか)
第4章 ナショナル・フラッグ・キャリアとして(一人前の航空会社へ
中学教諭からCIE図書館を経て ほか)

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