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【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「別れる夫婦と別れない夫婦」槙村脩平

2013年09月18日 21時44分47秒 | 読書(ノンフィクション)


「別れる夫婦と別れない夫婦」槙村脩平

著者は家庭裁判所調停員。
世の中には、ケンカばかりしているのに別れない夫婦がいる。
逆に、仲が良いと思っていたら、簡単に別れてしまうカップルもいる。
別れる夫婦と別れない夫婦・・・。
この違いは何なんだろう?

別れないからエライ、ってものでもない。
別れたから駄目な人間、って訳でもない。
別れない駄目な夫婦もあれば、
別れるという、優れた決断をした人もいる。
ホント、世の中色々、である。

P218
今、私の頭を過ぎるのは、別れさせてはいけなかったのに別れてしまった夫婦だ。その逆に、別れた方が良かったのに別れなかった夫婦も記憶から消えないでいる。

PS
この著者は、作品の構成、文章に技巧を入れすぎている。
それがどうも気になる。
ノンフィクションなんだから、もっと素直な構成と文章で充分、と思う。

【ネット上の紹介】
「昔、あなたがしたように、今度は私があなたを棄てるのです」。人生の岐路に立つ夫婦たちはどう決断し、何を選択したか。


「日本の路地を旅する」上原善広

2013年08月10日 21時18分10秒 | 読書(ノンフィクション)

「日本の路地を旅する」上原善広

同和問題がテーマ、大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品。
中上健次氏は、被差別を「路地」と呼んだ。
タイトル通り、著者は日本各地の「路地」を探訪する。
歴史を掘り起こしながらの紀行文。
声高に差別を糾弾する作品ではない。
静かに、学術的に、それも抒情を交えながら展開していく。

P119
ヒンドゥー教徒は牛を神聖視しているため、現在でもネパール人は牛肉を食べない。しかし江戸時代の日本と同じく、ネパールではサルキと呼ばれるアウトカーストの者たちと、一部の上位カーストの者たちだけは現在も食べている。地方のサルキは死牛馬が出たときに食べているが、上位カーストのエリート層たちは、出張で外国に出たときなどに食べている。昔から「支配層に法律なし」と云われるが、これは古今東西、同じだろう。

P129
路地はだいたい「解放運動が盛んな地域」、「寝た子を起こすなの地域」に大別されるが、近江の路地は全般的に寝た子を起こすなの傾向が強いと評される。
「地元の人がこっちではとかとは言わないでくれっていうから、では何て言うんですかと訊いたら、『指定地区と言うて欲しい』って言われて、ここまで隠すんやなあってびっくりした」

P134
例えば江戸時代に、若い男女が駆け落ちして心中し、一方が生き残ることがある。この生き残った者はに落とされ、路地に追放される。しかし、何年かたちと住み、の仕事を手伝うと、百姓や町民に戻ることが許された。

【ネット上の紹介】
中上健次はそこを「路地」と呼んだ。「路地」とは被差別のことである。自らの出身地である大阪・更池を出発点に、日本の「路地」を訪ね歩くその旅は、いつしか、少女に対して恥ずべき犯罪を犯して沖縄に流れていった実兄との幼き日の切ない思い出を確認する旅に。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

「なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか」森功

2013年06月01日 11時24分29秒 | 読書(ノンフィクション)


「なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか 見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間」森功

3.11地震、福島県・原発近くの方は避難の際、苦労したことでしょう。
さらに、その中でも病院入院患者さんの避難はどうだったんだろう。
この作品は大宅壮一賞候補となった作品。
受賞こそのがしたが、気になったので読んでみた。
いくつか文章を紹介する。

P82
福島第一原発から4.5キロの双葉病院や系列老健施設のドーヴィル双葉にとって、1号機の水素爆発は、まさしく深刻な状況を生んだ。リアルタイムで間近に聞こえた爆発の音や振動は、想像以上の恐怖だ。現実のものとして、原発の恐怖が目の前に迫ってくる。施設に残った双葉病院グループのスタッフたちの心を大きく揺らした。原発の恐怖は過去築いてきた組織の秩序を破壊し、人間同士のきずなまで引き裂こうとする。

P192
最初の搬送先であるいわき光洋高校の体育館で死亡確認されただけで、14人。それに加え、次の搬送先でも、8人が絶命した。自衛隊による14日午前中の第二陣の救出まで持ち堪えられなかった病院内の死亡4人を含めると、15日までの死者だけで26人にのぼる。
そして地震から数えて5日目、自衛隊が向かった第三次の救出後も、犠牲者は増えつづけた。そこでも24人の死者を出し、実に50人が命を落とす結果になるのである。
いったい原因は、どこにあるのか――。

P243
取材を重ねるうち、双葉病院の救出が遅れた原因の一つに、災害対策本部が、吸いあげられた情報の整理を怠ったからではないか、という疑念が湧いてきた。
むろん、輸送支援隊長の乗り逃げ事件などを含め、救出遅れの理由は一つではないに相違ない。ただ、情報の扱いをぞんざいにした結果、自衛隊や警察に的確な指示をできなかったように思えてならない。

P246
恐怖のあまり、ときに人は保身に走り、利己的にもなった。それもまた、現実である。生きてきた背景というと大袈裟かもしれないが、人はそれぞれ背負っているものがある。仕事や家庭、生活設計や趣味、娯楽にいたるまで、人生観が異なる。それゆえ仮に他人からは保身に走ったようにみえても、それを責めることはできない。
しかし、人間の我欲や保身は、往々にして他の犠牲のうえになりたっている。とすれば、せめて自己を振り返り、そのことを自覚しなけっればならないのではないだろうか。
震災は日本全体に大きな光と影を落とした。まさしくその光と影を見つめ直す必要があるように思えてならない。

【ネット上の紹介】
福島第一原発から4.5キロ地点にある老人病院で、何が起こったのか。患者を置き去り死させたと報じられた「双葉病院」の168時間。
[要旨]
行政と自衛隊は老人50人の命を奪った!現れない救援車両、真っ暗闇の院内、病院の車で逃げた自衛隊員―その中で孤軍奮闘する医師たちが着せられた汚名。放射能がとびかう中での「報道の暴力」。
[目次]
第1章 発生―三月十一日修羅場と化した医療現場;第2章 迷走―三月十二日バス「災害避難」の現実;第3章 孤立―三月十二日医師たちの覚悟;第4章 空白―三月十三日病院の中と外で;第5章 裏切り―三月十四日自衛隊救出の実態;第6章 苦悩―三月十五日「置き去り」誤報の真実;第7章 落命―三月十六日救出後の悲劇;第8章 誤報―三月十七日なぜ事実はねじ曲げられたか


「ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて」安田浩一

2013年05月26日 15時21分09秒 | 読書(ノンフィクション)

「ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて」安田浩一

2012年 第34回 講談社ノンフィクション賞受賞
在日特権を許さない市民の会、略して『在特会』、会員数約1万人、日本最大の「市民保守団体」。
彼らの特徴は、ヘイトスピーチによる街宣、それを即動画に投稿するネット活用。
少数派と侮ってはいけない。
氷山の一角、と思える。

P115
先頭に立って騒ぐ在特会と、抗議を要請した住民、そして抗議に加わらないものの、心情として朝鮮学校を嫌悪する住民。この3者は見えない糸で結ばれているのではないか。

P252
「在特会の主張を聞いていますと、私のような人間には、彼らにとって、いったい誰が敵なのか理解できないんです。まったく敵の姿が見えてこない。在日の人たちを攻撃することで、どんな世の中ができあがっていくのかもわかりません。私はね、日本人は本来、おおらかな気風を持った民族であると信じているんです。外来文化を受け入れ、独自の形をつくりあげ、優しい風景をつくりあげてきました。そのことに誇りを感じれば十分ではないかという気もするんですけどね。(後略)」

P347
社会運動は理屈よりも勢いで広がるものだと思う。そして勢いは、「守り」よりも「変革」を希求する側に味方する。かつての学生運動が勢いを持ったのは、なによりも体制をブチ壊すことへシンパシーが集まったからではなかったか。一方、現実の左翼は「守り」一辺倒の運動だ。平和を守れ。人権を守れ。憲法を守れ。我々の仕事を守れ。片や在特会など振興の保守勢力は、それらすべてを疑い、「ブチ壊せ」と訴える。左翼が保守で、保守が革新という“逆転現象”起きてきているのだ。
「うまくいかない人たち」が変革の側につくのは当然のことだといえよう。

P313
在特会は「生まれた」のではない。私たちが「産み落とした」のだ。

【言葉について】
hate speech・・・一般には、憎悪表現、憎悪発言のこと。
 人種、属性や外見を理由に他人を貶めるような言動
hate-monger・・・
 偏見や憎悪の念をかきたてる扇動者のこと。

*街宣の様子を知りたい方は、ネットで「ヘイトスピーチ」「新大久保」で検索すると出てくる。
(なんとも、やるせない気分)

【ネット上の紹介】
特権をむさぼる在日朝鮮人どもを日本から叩き出せ!!」聞くに堪えないようなヘイトスピーチを駆使して集団街宣を行う、日本最大の「市民保守団体」、在特会(在日特権を許さない市民の会 会員数約1万人)。だが、取材に応じた個々のメンバーは、その大半がどことなく頼りなげで大人しい、ごく普通の、イマドキの若者たちだった・・・・・・。いったい彼らは何に魅せられ、怨嗟と憎悪のレイシズムに走るのか。現代日本が抱える新たなタブー集団に体当たりで切り込んだ鮮烈なノンフィクション。彼らはわれわれ日本人の“意識”が生み出した怪物ではないのか?彼らがネットとともに台頭してきたのは確かだが、この現象には、もっと大きな背景があるのではないだろうか。著者・安田浩一氏の徹底取材はこうした疑問から始まった。2010年末から2011年にかけて、ノンフィクション雑誌「G2」に掲載され、大きな反響を呼んだ傑作ルポルタージュ、待望の単行本化。

「死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う」森達也

2013年05月11日 07時48分34秒 | 読書(ノンフィクション)


「死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う」森達也

非常に重いテーマ。
結論も容易に出ない。(出せない)
考えるきっかけになれば、と思って読んだ。
著者は、様々な方に会って取材されている。
弁護士、元検察官、政治家、元裁判官、刑務官、教誨師、死刑囚、被害者遺族・・・。
いくつか文章を紹介する。

P12
死刑は不要なのか。あるいは必要なのか。人が人を殺すことの意味は何なのか。罪と罰、そして償いとは何なのか。

P130
ドイツ生まれのユダヤ人で政治哲学者のハンナ・アーレントは、ホロコーストの実行責任者だったアドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴して、その罪を「凡庸な悪」と形容詞ながらも、アイヒマンへの死刑執行を肯定した。ただしその理由は、「数百万人の人々を殺したから」ではなく「人類の秩序を破ったから」であると、その著書『イェルサレムのアイヒマン』で主張した。

P210刑務官OB坂本敏夫さんとの会話
「死刑囚は執行の際に即死しますか」
「私は即死していると思います」
「でも三十分間吊されるんですよね」
「心臓が強い人は生きていますから。でも意識はないと思います」
「苦しんではいないですか」
「・・・・・・苦しんでいないと、思います」

P283-297
全国犯罪被害者の会・・・通称「あすの会」幹事の松村さんとの会話
「・・・・・・それと、もしも死刑を廃止するならば、私に殺させてくださいということですよ。仇討ちになってしまうかもしれないけれど、本来ならば一緒の空気を吸いたくないということです」
「加害者が更正しようが・・・・・・」
「関係ない。全然関係ない。よく生きて償うっていうじゃないですか。何するのよ。どうやって償えるの。償うっていうことは殺した人を生き返らせることなんだよね。それができるなら初めて生きて償うって言えると思う。それ以外、生きて償うということはありえないと思いますよ」

【参考リンク】
全国犯罪被害者の会→公式サイト

【ネット上の紹介】
「悪いことをした人間は、当然その報いを受けるべきだ」「誰かの大事な人を、苦しめて苦しめて殺した人間が、自分と同じ社会でのうのうと生きているなんて、そんなの許せない」――でも、死刑のボタンを押しているのは、誰? 償えない罪が生まれるとき、そこでは何が起きているのか。人が人を殺すことの意味は?
森 達也 (モリ タツヤ)  1956年広島県呉市生まれ。映画監督、作家。1998年、自主制作ドキュメンタリー映画『A』を発表。2001年、続編の『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭にて審査員特別賞、市民賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


「ジムに通う人の栄養学 スポーツ栄養学入門」岡村浩嗣

2013年05月05日 09時42分47秒 | 読書(ノンフィクション)

「ジムに通う人の栄養学 スポーツ栄養学入門」岡村浩嗣

グラフ多数使用、新書版で読みやすい。
ジムに通ってない人にも、参考になる。
いくつか文章を紹介する。

P20
主食:主采:副菜の比率は3:1:2が栄養素のバランスから見て望ましい。
主食:ご飯、麺類、パン(炭水化物)
主采:肉、魚介、卵など(タンパク質、脂質)
副菜:野菜、海藻類(ビタミン、ミネラル)
これに「果物」と「乳製品」を加える

P40
栄養素とは何か
①タンパク質は体の構成成分なので、車体の材料
②炭水化物と脂質はエネルギー源なので、燃料
③ビタミンは体の構成成分にもエネルギー源にもならず必要量も少ないが、なくてはならないので、エンジンオイル
④ミネラルはビタミンと同様に必要量は少なくエネルギー源にもならないが、体の構成成分になるものもあるので、エンジンオイルと車体
⑤水は不足すると体温が上昇しやすくなり熱中症の危険が高まるので、エンジンの冷却水

P91
減量と体組成
これも分かりやすく書くと、極端に食べる量を減らすダイエットをおこなうと、脂肪よりも筋肉が落ちやすくなる、ということである。

P101
減量には食事制限が重要だが、食事を制限しすぎると太りやすくなる可能性がある。(中略)
冬眠する動物では、冬眠中は代謝が低下している。それと同じような変化が、小食の人に起きたと言うことである。

P131
魚には「旬」のあるものがある。旬のものを食べるのは良いこと、と思っている人も多いが、「旬」とは脂肪が多い時期をいう。「旨いものには脂肪が多い」ともいえる。「旨い」という漢字に体を意味する「月」(にくづき)が付くと「脂」という字になる。「脂」は動物の「あぶら」のことで、常温で固体の脂肪のことをいう。魚や植物の脂肪は常温で液体なので「油」と書く。「油脂」という言葉は、個体の脂肪と液体の脂肪の両方を表している。

P139
結論をいえば、エネルギーが不足しないような食事を摂っていれば、筋肉増強が目的であっても、タンパク質の多い食事を心がける必要はないし、プロテインのサプリメントを摂取する必要もない。

P146
加齢につれて、食事の内容も若いときとは変えた方が良い。(中略)高齢者ほど高たんぱくの食事が必要ということになる。

P172-185
スポーツ栄養学Q&A
Q 肉より魚のほうが良いのか
A 栄養面の違いはあるが、どちらが良いとはいえない

Q ご飯やパンなどの主食は少なめのほうが良いのか
A 主食は多くの栄養素の供給源。少なくすれば良いといううものではない

Q スポーツドリンクはうすめたほうが良いのか
A うすめないほうが良い

Q スポーツドリンクは太るのか
A 太りやすい飲料ではない

Q 炭酸飲料は体に悪いのか
A 科学的根拠はない

・・・もっと色々質問はあるけど少しだけ抜粋した。
回答も詳細に書かれているが、核心部だけを抜き出した。

【ネット上の紹介】
プロテインが筋肉づくりを促進することはない。ご飯などの主食を少なめにすると、栄養バランスが崩れる。このように、アスリートではない普通の人たちが運動をする際に知っておきたい栄養と食事の知識をわかりやすく解説。健康のためジムに通う人に向けた、スポーツ栄養学の入門書。
[目次]
第1章 スポーツ栄養学とは何か;第2章 「食事」で運動の効果は変わるのか?;第3章 栄養素の基礎知識;第4章 エネルギーの基礎知識;第5章 体組成と体重管理;第6章 ジム運動の前・中・後の栄養と摂取法;第7章 ジム運動する人の日常の栄養摂取と食事法;第8章 スポーツとサプリメント;第9章 スポーツ栄養学Q&A;終章 生活の中にスポーツを

第44回大宅壮一賞

2013年05月03日 17時09分47秒 | 読書(ノンフィクション)

遅くなったけど、今年の第44回大宅壮一賞を紹介しておく。
次のとおり。



【参考リンク】
文藝春秋|各賞紹介|大宅

PS
今年は、受賞した「カウントダウン・メルトダウン」をはじめ、原発関連の作品が候補に挙がった。

「エンジェルフライト~国際霊柩送還士」佐々涼子

2013年04月21日 08時54分55秒 | 読書(ノンフィクション)

「エンジェルフライト~国際霊柩送還士」佐々涼子

外国で死ぬと遺体はどうなるのか?
外人が日本で死んだらどうするのか?
遺族の意向により、家族の元に送り届けるのが国際霊柩送還士。
第10回開高健ノンフィクション賞受賞作。
書評でも取り上げられている注目の作品である。

P8
外国から戻ってくる遺体には、エンバーミング(防腐処理)を施してあるのが普通だ。亡くなった人の静脈に管を入れて防腐剤を注入することにより、遺体は生前と変わらぬ外見を保つ。

P37
外務省の「海外邦人援護統計」(2001~10年)によると1年に約400人から多い時で600人の邦人が海外で亡くなり、エアハースでは毎年約200体から250体の遺体を運ぶ。特に海外から運ばれてくるとなれば病気のほか、事故、事件、災害など、自然死でない遺体も多くなる。

P121-122
もともと葬儀には説明のつきにくい慣習が多いものだ。
全国的によく知られているのは、死者の枕元に逆さにした屏風を立てる「逆さ屏風」だ。あるいは、湯灌のためのぬるま湯を作る時の「逆さ水」というのもある。通常湯をぬるくするには湯に水を足すが、この時に使うぬるま湯は、水に湯を足して作るのである。年長者の中には、今でも水に湯を足すことを「縁起でもない」と忌み嫌う人もいる。逆さのにする儀式はほかにもあげられる。死装束の左前や、地方によっては「逆さ布団」というしきたりもある。

P139
親を失うと過去を失う
配偶者を失うと現在を失う
子を失うと未来を失う。

読んでいて、もし自分が当事者なら・・・と考えながら読んだ。
海外に登に行くクライマーは多い。
万一に備えておく必要がある。
少なくとも、保険に入って、緊急連絡を知らせておく必要がある。
自費でエンバーミングして、遺体を日本に戻すには相当な費用がかかる。

【ネット上の紹介】
第10回開高健ノンフィクション賞受賞作 国境を越えて遺体を家族のもとへ送り届けるのが国際霊柩送還士の仕事。日本初の専門会社で働く人々と遺族の取材を通して、筆者は人が人を弔うことの意味、日本人としての「死」の捉え方を知る。

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万里

2013年04月15日 07時49分55秒 | 読書(ノンフィクション)


私の生涯読書ランキングで、常にトップクラスに位置するのが、米原万里さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」。
電子図書になったのを機に、ノンフィクションライターの最相葉月さんが評されている。
リンクしておくので読んでみて。


新書大賞2013

2013年03月01日 21時58分17秒 | 読書(ノンフィクション)


新書大賞2013が発表された。
2月9日発売、「中央公論」3月号。

◆発表!新書大賞2013 新書通69人が厳選した 年間ベスト10
 ・大賞受賞者インタビュー「社会を変えるには」  小熊英二
 ・過渡期の新書界、読むべき本は 対談 永江朗×宮崎哲弥

次にリンクしておく。
新書大賞2013 - 中央公論新社

社会を変えるには
田中角栄
わかりあえないことから
聞く力
独立国家のつくりかた
商店街はなぜ滅びるのか
僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
百年前の日本語
植物はすごい日本農業の正しい絶望法
教室内カースト
コミュニティーデザインの時代
往生したけりゃ医療とかかわるな
ブラック企業



「広島第二県女二年西組」関千枝子

2012年12月24日 17時19分25秒 | 読書(ノンフィクション)

「広島第二県女二年西組 原爆で死んだ級友たち」関千枝子

全編レクイエム、涙なしに読めない。
昭和20年8月6日、二年西組の級友たちは、爆心から南1.1キロメートルで作業をしていた。
38名が死亡。
著者は、当日病気で休み、たまたま生き残る。
「なぜ生き残ってしまったのか」
その疑問、うしろめたさが著者を苦しめる。

戦後、何年もかけて遺族や関係者を訪ね、級友たちの最後を調べたのが、本書である。
単なるレポートでなく、一人一人を個性的に描いて、生きた証としている。

P38-39波多先生の最後
福崎は日赤の芝生の上にいた波多を見つけた。波多は一人の生徒を胸に抱き、一人の生徒を背に負い、すでにこときれていた。背の生徒がまだ生きていて、
「福崎先生」
と声をかけてきたので、ようやくわかったほどの、ひどい焼けただれようだった。
「お前は誰だ?」
と聞くと、背の生徒が、
「為数です」
と答えたのを、福崎ははっきりと記憶している。学校に運ばなければ・・・と福崎は遺体にそっと手をふれた。と―、軽くふれたはずなのに、二の腕がひとかたまり、ボロッと転げおちた。(中略)
肉の内側まで火が通るほどのひどい火傷―。その身体で波多は、生徒を負い、抱いて、日赤までたどりついたのだ。たどりついた日赤でも、建物はこわれ、医師も看護婦も負傷したり死んだり・・・・・・。おそらく赤チンの一滴もつけてもらえなかっただろう。そして陽のカンカンあたる芝生の上で、死んでいったのだ―。

P97
「オッ、ちょうどええ。手伝どうてくれ」
否も応もなかった。わたしと綾子は担架の足の方の柄を一つずつ持って、波多の遺体を学校の東隣に運んだ。そこは、一面、蓮畑になっていた。
蓮田に波多の遺体を置き、そのあたりにあった木を運び、福崎が経を唱え、火をつけた。
煙がまっすぐに上った。空は真青に晴れあがり、風もなく、強烈な太陽が照り返してした。
「煙がまっすぐに上がると極楽に行けるんじゃ」
うめくような声で福崎はいった。私はいま、福崎の気持ちがよくわかる。こうでもいわなければ、救いようがない気分だったのだろう。
だが、その時の私は腹が立ってたまらなかった。福崎だけではない。誰に対しても、くってかかりたかった。
「極楽に行ってなんになる。こんなに苦しんで、焼けただれて―。極楽に行ってなんになる」

【ネット上の紹介】
勤労動員にかり出された級友たちは全滅した。当日、下痢のため欠席して死をまぬがれた著者が、40年の後、一人一人の遺族や関係者を訪ねあるき、クラス全員の姿を確かめていった貴重な記録。
[目次]
序章 8時15分―広島市雑魚場町;第1章 炎の中で;第2章 学校に帰った級友たち;第3章 “南へ”―業火に追われて;第4章 島へ;終章 8月15日;意外の章(1)耐えて生きる;意外の章(2)原爆と靖国;“スキャンダル”のあと―『広島第二県女二年西組』余聞

「ノンフィクション新世紀」石井光太/責任編集

2012年11月20日 22時08分43秒 | 読書(ノンフィクション)

「ノンフィクション新世紀」石井光太/責任編集

価値ある1冊、と思う。
ノンフィクション・ハンドブックのような本。
話題になったり、賞を取った作品が網羅されている。
なにより、読む価値がある作品が列挙されている。
読書生活の「指針」となる本である。

今まで、新聞書評、ネットの書評サイト等、何年もチェックしてきたが、
それでも漏れてしまう作品がある。
今回、一気に拾い集めることができた。
気になる作品も、再チェックできた。
ホント、よかった。便利で、値打ちある本、である。

PS
一時、入手困難となっていた。
出版社在庫もなくなり、ネットでも取り寄せ不可、問屋からも在庫無くなった。
私は、紀伊國屋在庫検索で見つけて、レジに取り置きしてもらって入手した。

【ネット上の紹介】
ノンフィクション連続講座;雑誌編集者の軌跡―ノンフィクションが生まれる現場で働く;ノンフィクションベスト30;書店員座談会 ノンフィクションは、売れる。;スペシャル・インタビュー(田原総一朗―「常識を疑うことそのものがノンフィクションである」;猪瀬直樹―「ノンフィクションが「新製品」であり続けるために」);若手訳者競作!海外ノンフィクション新潮流;完全保存版ノンフィクション年表1980‐2011
[出版社商品紹介]
石井光太責任編集によるノンフィクション・ガイド。猪瀬直樹、角田光代、西原理恵子、田原総一朗、藤原新也、森達也等、強力執筆陣。 


「戦場の都市伝説」石井光太

2012年10月15日 21時47分36秒 | 読書(ノンフィクション)

「戦場の都市伝説」石井光太

石井光太さん、最新刊。
戦争、内戦にまつわる様々な噂、怪談を集めてある。
湾岸戦争、カンボジア虐殺、イラク戦争、ベトナム戦争。
9.11同時多発テロでは、ユダヤ人陰謀説。
「そんなバカな・・・」、と笑って無視できないものがある。
なぜそんな都市伝説が生まれたのか?
その深層部分まで分析されている。
最終章では、『日本軍の暗部』として、次のような話が書かれている。
●せき止められた大河・・・南京大虐殺
●少年たちの斑点・・・七三一部隊
●沖縄で死んだ韓国人・・・朝鮮人強制連行

興味があったら読んでみて。

【著者のブログ】
【新刊情報】戦場の都市伝説

【ネット上の紹介】
常に狂気に包まれた戦地や紛争地帯では、多くの都市伝説や怪談が生まれる。ウガンダ・ビクトリア湖の「死体を食べて大きくなった巨大魚」、パレスチナの「白い服を着た不死身の自爆テロ男」、カンボジアの「腹を切り裂こうとする幽霊」、ナチス・ドイツの「ユダヤ人の脂肪でつくった人間石鹸」──。これらの噂話が妙に生々しいのには理由がある。その裏側には、往々にして、軍や政府、ゲリラ組織が隠蔽した「不都合な真実」があるからだ。海外取材経験豊かな気鋭のノンフィクションライターが「都市伝説」から解き明かす、人間の心の闇と、戦争のリアル。  ≪世にも奇妙な戦地の噂≫ ・中東では出稼ぎ労働者に死体修復の仕事が割り当てられる?・アフガニスタンの空き地に「小さい女」の幽霊が現れる?・遺体にコカインを詰めて密輸する麻薬密売組織がある?・コンゴの少年兵が幽霊になっても捜し歩く、弾除けのお守り・ヒットラーは密かにアルゼンチンに落ち延びていた?
[目次]
第1章 人間の残酷さ(ビクトリア湖の巨大魚―ウガンダ内戦;消えたユダヤ人―アメリカ同時多発テロ事件 ほか);第2章 死者の訴え(ナチスの石鹸―ホロコースト;ヒットラー生存説 ほか);第3章 食う者、食われる者(お守りはどこ?―コンゴ内戦;はらわたの髪―食糧戦争 ほか);第4章 戦争と処刑(高額な出稼ぎ労働―湾岸戦争;ねえ、遊ぼうよ―シエラレオネ内戦 ほか);第5章 日本軍の暗部(せき止められた大河―南京大虐殺;少年たちの斑点―七三一部隊 ほか)


「名画と読むイエス・キリストの物語」中野京子

2012年10月12日 22時01分11秒 | 読書(ノンフィクション)

「名画と読むイエス・キリストの物語」中野京子

表紙はベラスケスの『キリストの磔刑』。
磔刑図は数多いが、このベラスケス作品が最も美しい、と言われる。
ちなみに、磔刑は、(たっけい、たくけい)と読む。
いくつか文章を紹介する。

P16
預言者とは、「予」言(未来を見通す)ではなく、神の言葉を「預」かって伝えるとの意である。

P20
古代ユダヤでは、男子は13歳、女子は12歳になると、一人前の成人とみなされた。したがって多くは十代半ばまでに結婚した。大工のヨセフと婚約者のマリアも、おそらく13歳から15歳の間だったと思われる。

『受胎告知』フラ・アンジェリコ

P58
イエスは洞窟の中で、40日間、断食と祈りを続けた。
40は聖なる数であり、何かを為すための準備期間として必要な数とされていた。モーセもエリヤも40日間荒野にこもったし、ノアの洪水も40日続き、人が母の胎内にいるのは40週と考えられた。イエスで言えば、復活後40日間この世にとどまっていた。エルサレムの滅亡は、イエスの死の40日後である。

P59
悪魔の誘惑は狡猾だった。人の弱みを突く誘いをたたみかけ、誘惑される側にとってはまさに試練そのものとなる。
 空腹に苦しむイエスに悪魔は、「汝もし神の子ならば、命じて此等の石をパンと為らしめよ」。そこにたくさんころがっている石をパンに変えればいいではないか、と。もしイエスがわずかでもその気になれば、悪魔自らが石をパンに変えるつもりだった。
 これに対するイエスの答えが、有名な「人の生くるはパンのみに由るにあらず」だ。この言葉は、そのあとに「神の口より出づる凡ての言(ことば)に由る」と続く。

P103~106、マグダラのマリアについて書かれている。
ユダヤ教では一度でも罪を犯した者は決して許されず、地獄行きとされていたからだ。イエスはこの女が罪人であることにすら気づかないのだろうか、と。
それを見抜いたイエスは、皆にこう言う、「この女の多くの罪は赦されたり。この愛すること大(おおい)なればなり。赦さるる事の少なき者は、その愛する事もまた少なし」。回心すれば罪は消えると宣言したのだ。

『懺悔するマグダラのマリア』ティツィアーノ

P220
福音書
イエスの言葉と生涯を伝記物語風に綴った、四つの文書。「福音」の語源は、ギリシャ語の「エヴァンゲリオン」で、「良き知らせ」を意味する。「新約聖書」はこの福音書(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネによる四書)と、他に弟子等の伝道記録、パウロの手紙、黙示録など二十七の書から成り立つ。


【ネット上の紹介】
ドラマティックなイエス・キリストの物語画は、独創的な表現に満ちた傑作・名作のオンパレード。イエスのおおまかな生涯を知った上で西洋名画を楽しみたい―そう願う人のための、これは手引書である。
[目次]
幼子イエス;洗礼;荒野の修行;伝道;奇蹟;女たち;使徒たち;エルサレム;最後の晩餐;ゲッセマネ;裁判;磔刑;復活

「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」辺見じゅん

2012年08月22日 07時50分59秒 | 読書(ノンフィクション)


「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」辺見じゅん

以前から気になっていた作品を読んだ。
今まで、数々のノンフィクションを読んできたが、トップクラスの面白さ。
大宅壮一賞受賞、講談社ノンフィクション賞、ダブル受賞作品。
丹念な取材、好感の持てる丁寧な文章と表現。
極寒の地での過酷な労働、苦しい収容所生活、日本人同士の対立、密告。
収容所での生活が克明に描かれている。 

P74
「中国のことわざに、豆を煮るに豆殻を焚くというのがあるそうです。同じ血を分けた日本人同士が俘虜という逆境にあるというのに相食むようになるなんて・・・・じつに情けなかったな」
森田の話を聞いていた山本が力をこめていった。
「森田さん、ぼくたちはいろんな目にあった。だけど白樺の肥やしにはまだならなかったんだ。だからね、希を捨てたら駄目だ。みんなで、かならず生きて日本に帰ろう・・・・・・」

苦しい労働の中にあっても、俳句を作る会を作ったり、学校を作って講師になったり、希望を失わず周りを励まし続けた日本人がいた。
本作品の主人公・山本幡男である。
この無名の歴史に埋もれた人物を中心にラーゲリでの生活が綴られる。
山本はかつて満鉄の職員で、特務機関にもいたことから、一般の日本人が帰国しても、果てのない収容所生活が続く。
タイトルから察するように、とうとう死期が近づく。
山本は、母、妻、子どもたちに宛てて「遺書」を書く。

P242
売店でノートやインクなどを売っているのに、ラーゲリでは許可されたもの以外に書くことは禁じられていた。ソ連側は、日本人が無断で集まって会合をもったりすることにも神経をとがらせていた。とくに文字を書き残すことはスパイ行為と見做していた。
作業にでた隙に抜き打ちの私物検査が行われ、日記やメモなどが見つかって営倉送りになった者もなん人かいた。四人組の脱走事件後はとくに厳しかった。しかも、帰還前の検査は厳重で日本に持ち帰るのは至難の業だった。

このような状況の中、山本の友人たち、俳句仲間が工夫をこらして「遺書」を持ち帰って家族に渡そうと試みる。
もし、私の拙い紹介で少しでも興味を持ったら、ぜひ読んで欲しい。
これぞ、ノンフィクションの醍醐味を味わえる作品、である。

【関連リンク】
辺見じゅん『収容所から来た遺書』『ダモイ遥かに』 

【ネット上の紹介】
敗戦から12年目に遺族が手にした6通の遺書。ソ連軍に捕われ、極寒と飢餓と重労働のシベリア抑留中に死んだ男のその遺書は、彼を欽慕する仲間達の驚くべき方法により厳しいソ連監視網をかい潜ったものだった。悪名高き強制収容所に屈しなかった男達のしたたかな知性と人間性を発掘して大宅賞受賞の感動の傑作。
[目次]
1章 ウラルの日本人俘虜;
2章 赤い寒波(マロース);
3章 アムール句会;
4章 祖国からの便り;
5章 シベリアの「海鳴り」