年に一度の「taketake山の会」夏山合宿だ。家族三人、三泊四日で合宿とは大げさな名前だが、次男が独立する少し前からそれまで私とtakeの二人で行っていた夏山に家人も参加するようになった。普段日中は別々に生活しているメンバーが24時間共に過ごしながら山を歩くことから夏山合宿と呼んでいる。三人合宿一年目は鹿島槍ヶ岳、二年目は薬師岳、三年目は穂高岳、四年目は白馬岳と歩き、五年目の今年は北アルプスを離れ家人も私も歩いたことのない加賀の白山が合宿場所となった。
【7月28日】
7月28日東京駅6時20分発の北陸新幹線に乗り、9時前には金沢駅に到着した。白山はここからが長い。バスを乗り継ぎ、麓の市ノ瀬に到着したのが12時だ。私たちはここで下車したが、他の乗客はそのまま終点の別当出合まで乗って、その日のうちに室堂平まで歩くようだった。別当出合着が12時30分で室堂平までが4時間半ぐらいだから17時には到着するだろうが、途中でアクシデントがあったらどうするのだろうかと思った。土曜日曜は市ノ瀬と登山口の別当出合間はマイカー規制されているので、市ノ瀬ビジターセンター周辺は下山してきた登山客で賑わっていた。私たちは持参のお弁当を食べ、自然観察路を気持ち程度歩いた後、バス停前の永井旅館に宿泊した。
【7月29日】
朝食後、宿の車で登山口の別当出合まで送ってもらった。いよいよ登山開始だ。長い吊橋をtakeを先頭に渡ると、最初からややきつめの登りとなった。天気は曇りで山は霧がかかっていた。展望のない森の中をtakeのゆっくりとしたペースで登った。このコースは砂防新道と呼ばれ、細谷川上流の砂防ダム建設用の道路にそって伸びている。最初の休憩地は中飯場と呼ばれるところでトイレと水場がある。takeは水場でたっぷりと水分補給をした。
ここからまた尾根沿いに高度を稼ぎながらゆっくりと登り、次の休憩地点の甚之助避難小屋に着いた。ここでtakeはヨーカンを食べ麦茶を飲んだ。ここの標高は約2000mで、出発地の別当出合の標高が1260m、宿泊地の室堂平が2450mなので半分以上は登ったことになる。ここからまた登ると南竜山荘方面との分岐で、私たちは別当谷上部をトラバースする黒ボコ岩への道を選んだ。
このあたりからニッコウキスゲの群落やクルマユリ、さらに登るとハクサンフウロ等々の高山植物が咲いていた。花々に気をとられていたのがまずかったのかtakeは、このあたりでやや不穏な表情を見せていた。ただ谷を渡り十二曲りの急登を登りきって黒ボコ岩の稜線に辿り着く頃には、先行きの見通しが自分なりに理解できたのか表情も和んだ。ここから宿泊地の室堂平は目と鼻の先だ。takeが「パン食べる」を連呼するのを聞きながらコバイケイソウが咲く平原を歩いていると霧が薄れて白山御前峰の雄姿が見えた。
最後の五葉坂を登りきると宿泊地の室堂平だった。ビジターセンターのベンチに座って持参のカレーパンとアンパンの昼食を食べた。食後は不要な荷を置いて、白山御前峰の頂を目指した。白山比咩神社奥宮脇から続く歩きやすい石段をゆっくりと進み白山の最高峰である白山御前峰の頂上に着いた。最初は疲れ顔のtakeだったが、ここが最終地点と分かったのかニコニコ顔を見せた。遠望はないが剣ヶ峰から大汝峰とそれに囲まれた池の景色は良かった。記念撮影をして、きた道をまたゆっくりと下った。
室堂平に戻り宿泊する雷鳥荘に入った。室堂平は収容人員最大750人の4つ相部屋宿泊棟と6室の個室がある雷鳥荘がある。この雷鳥荘の予約は熾烈で4月1日の予約開始日に予約の電話をかけたが、ほとんど話中状態で、なんどかかけているうちに偶然つながり予約することができた。それだけに室内もきれいで、コインシャワーもあった。ゆっくりとくつろぎ16時40分にビジターセンターの食堂で夕食にした。takeに食欲がなかったので、念のため水銀式の体温計を借りて体温を測ったが異常はなかった。
(コースタイム) 別当出合0625-中飯場0717~24-別当覗0811-甚之助避難小屋0855~0907-南竜小屋分岐0935-黒ボコ岩1020~25-室堂平1050~1117-白山御前峰1205~25-室堂平1310
【7月30日】
6時にビジターセンターで朝食を食べた。昨日心配したtakeの食欲は普段通りに戻っていたので非常に安心した。takeは身体の不調を言葉で話せないので、食欲が体調のバロメーターなのだ。外は昨日より深い霧に包まれていた。元気に出発して少し歩き始めた頃、雨がポツポツと降ってきたので雨具の上着を着た。
昨日と同じ道を下り、甚之助避難小屋に着く直前から雨足が強まってきた。甚之助避難小屋には同じように雨宿りする人で一杯だったが、スペースを見つけてtakeを座らせた。雨具のパンツを履いて外に出た頃にはやや雨足も弱まっていた。
下っていく途中から雨も止んだ。滑りやすくなっているので慎重に歩いた。このあたりから登る人と下る人とのすれ違い待ちで一部渋滞状態になった。登りの大グループは白山市PTAの主催する親子登山グループで、下りの大グループは近畿日本ツーリストのツアーグループだった。焦らず立ち止まりながら歩いているうちに、昨日の最初の休憩地「中飯場」についた。ここでtakeの靴を脱がせて昼食にした。雨具の上着を脱ぎベンチにシートを広げ、朝に室堂ビジターセンター受付で手渡されたお弁当を広げた。お弁当は竹皮に包まれた五目寿司でtakeの好物だ。「くださいください」と言うので少しずつtakeに分け与えたが、錦糸卵がある部分が目当てだったようだ。
再びザックを背負いくだっていくと、昨日の出発時に渡った長い吊橋が見えてきた。黒い服を着た大グループが大勢で吊橋を渡っていた。このグループは福井県永平寺の修行僧で全員袈裟を着て、白いスニーカーを履いていた。白山は越中立山、木曽御嶽山と並らぶ信仰登山の山だ。しかし明治初期の廃仏毀釈で登山口から山頂までの仏像は、麓の白峰集落に移設されたとのことだった。しかし何百年の伝統としてまだ紅顔の修行僧が信仰登山を行っていることに少し驚いた。私たちも吊橋を渡り、出発地の別当出合に着いた。金沢行バス停の前列に並んで12時30分発のバスを待った。やがてやってきたバスに乗り途中の白峰バス停で下車し、合宿最後の夜を鄙びた温泉の宿で過ごした。
(コースタイム) 室堂平0707-黒ボコ岩0734~38-甚之助避難小屋0847~0914-中飯場1029~58-別当出合1130
【白山の花々】