新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

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opinion@zav.att.ne.jp(関西福祉大学 勝田吉彰研究室)

伝統的治療師という存在(管理人担当の神戸新聞連載④)

2009-11-16 11:30:47 | マスコミでのコメント・取材・出演

 先週の掲載ですが、管理人担当の神戸新聞連載第四回目。

今回は、直接の新型インフルネタからちょっと離れて、スーダン&セネガル在勤時、「伝統的治療師」という方々とのお付き合いの思いでから。

アフリカでは、プライマリケアの一端を「伝統的治療師」という存在が担っています。彼ら抜きには、絶対的医療資源不足はいかんともし難い。

で、新型インフルエンザでも、あるいはひょっとして、地方の村々で(結果的に)彼らが一定の役割を果たしているのではないか。アフリカにおける症例数が少ないことと、彼らの存在に関係が有りや無しや・・・そんな事をちょっと考えました。

(以下、元原稿よりコピペ)
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伝統的治療師が担うメンタルケア

外務省に入って最初の任地、スーダン共和国に着任し、同業者の精神科病院を視察して驚いた。日本の7倍の国土に精神科病院1か所、精神科医の数わずか20名。その後に赴任したセネガルでも似たような状況であった。こんなインフラでどうやってメンタルケアが行われるの?と首をかしげていたが、月日が経ち人脈が出来てくるとだんだん見えてきた。

「伝統的治療師」という存在がある。村々に根をおろす彼等は、独特の理論でアクセスする。精神科疾患は「赤い精気」と「青い精気」で起こる。前者が統合失調症圏内、後者が神経症圏内に相当するようだ。そして、秘伝の薬草や祈祷などで治療を行うわけだが、特筆すべきは、近代医療の側が伝統医療側に歩み寄り、医学知識の研修と基本的な薬物を提供していることだ。そうして、村人たちは精神的不調を感じたらまず、彼等伝統的治療師のもとを訪れ、その診たてにより、薬草や祈祷、必要に応じてごく基本的な向精神薬の処方を受ける。彼らは宗教的に尊敬を受ける立場も兼ねていることも多いので、ラポールつきやすくカウンセリング的アプローチもうまくゆく。それで良くならなければそこで初めて精神科医療に送られる。こうした協調体制をとりながら近代医療資源にかかる負担もうまく分散されている。

 逆に、伝統的医療の側が近代医療に入ってゆく場面もある。セネガルのダカール大学病院精神科病棟の中庭ではピンティエと呼ばれるプログラムがあり、患者は輪になり悩みを語り伝統的治療師が集団カウンセリング的に関わっている。

 近代医療と伝統的医療の協調、医療崩壊が叫ばれ閉塞感も漂う日本の医療にもヒントが得られないだろうか。
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(神戸新聞 2009・11・05夕刊)

コメント (4)
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人間の行動とインフルウイルスの類似性(変幻自在・予測不能・突然変異/カナダ)

2009-11-16 10:23:15 | インフルエンザ:海外の動き/海外発生

昨日紹介した、カナダのワクチン政策変更→アジュバント非添加バージョンを健康人に
http://blog.goo.ne.jp/tabibito12/e/69b3c7df3475722df84698c86bb02100
に関し、若干解説報道。

  • 当初、カナダ政府は、妊婦および3歳以下の子供用にアジュバント非添加バージョンをオーダーしていた。
  • しかし、今回、10歳から64歳までの健康人に対してアジュバント非添加版を使用できることになった(基礎疾患合併例と高齢者にはアジュバント添加版使用)。
  • 以前の政府当局の説明では、妊婦と子供については、アジュバント添加版に関するデータが無いからとのことであったが、今回の説明では、子供については、アジュバント入りの方が有効で、大人の方がアジュバント非添加版でメリットを受けるということになっている。
  • このような日々変わる即興演奏(improvisation)で接種方針が変わる。
  • 「こういうコミュニケーションのやり方は今に始まったことではない。人間の行動というものも、インフルエンザウイルスの生き写しになってきたようだ・・変幻自在で予想不可能でしばしば突然変異する」(うまい!座布団3枚!!)とトロント大Uphshur教授コメント。"This kind of communication may be the new normal. I think human behaviour is starting to mirror that of influenza virus: changeable, unpredictable and subject to frequent mutation," said Ross Upshur, director of the University of Toronto's Joint Centre for Bioethics and a primary-care physician.
  • それに対し、カナダ当局は、新たなデータ蓄積によるものと説明。「オーストラリアからアジュバント非添加版20万本購入手配済み。十分な量確保されている」「10歳以上の年長児~成人では、良好な免疫反応があることがわかり、実際には非常に良い反応を示している。しからば、アジュバント非添加版の適応拡大してより多くの人にワクチン打てるようにして何が悪い?(So why wouldn't we immunize people using that to broaden the number of people that are protected?" Dr. Butler-Jones said yesterday)」と主席公衆衛生担当官David Butler-Jones氏。

カナダのドタバタ劇も、新型インフルウォッチングで面白いテーマのひとつですが、トロント大の皮肉屋さんに脱帽。

日本でも、新型インフルワクチンの入荷も季節性ワクチンも、さっぱり読めず、たまに入ってくる”一挙に子供40人分”10mlバイアルに悩まされ・・・というのが昨今現場の苦悩ですが、腹立てているだけでは寿命が短縮します。ここはひとつ、「ワクチンメーカー&厚労省の人々はインフルエンザウイルスの性格ー変幻自在で予測不可能でしばしば突然変異するーに倣っているのだ」と笑い飛ばすのも庶民の知恵でしょうか・・・

ソースは11月14日付the global and mail↓
http://www.theglobeandmail.com/news/national/unadjuvanted-h1n1-vaccine-approved-for-wider-use/article1363456/

Unadjuvanted H1N1 vaccine approved for wider use

Once reserved for pregnant women, adjuvant-free shots will now be offered to healthy Canadians between ages 10 and 64

 


 


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年寄りは有効、季節性ワクチンは無効(交叉免疫・NEJM)

2009-11-16 09:52:00 | インフルエンザ:基礎知識/新知見

高齢者は新型インフルに罹りにくいのか否か、季節性インフルエンザワクチン接種は”ヤブヘブ”なのか”有効”なのかはたまた”関係なし”なのか・・・

いろいろな説が渦巻いていることは、逐次、当サイトでも紹介してきました。

今回、米CDCが交叉免疫調べてNEJMに報告出しています。

  • 1980年生まれ以降では、40倍以上の交叉免疫は4%にしか認められなかったのに対し、1950年以前生まれでは34%が80倍以上の値を示した。
  • 季節性インフルワクチン接種では、6~9歳児では0%、18~64歳では12~22%、60歳以上では5%。アジュバント無しでも入りでも有意差なし。
  • 結論。季節性インフルワクチン接種は、年齢に関係なく、新型A/H1N1に対する交叉免疫誘導を示さないか、ほとんど示さなかった。30歳以下では、交叉免疫の証拠がほとんどなかった。しかし、一定割合いの高齢者は交叉免疫を示した。

要するに、年寄りは”一定割合”新型インフルに対する交叉免疫があるけれど、若者はほとんど無いということが裏付けられたわけです。 ただし、あくまでも”一定割合”であって”全員”ではありません。管理人が講演に行くと、必ずといってよいほど「年寄りはインフルに罹らないんですよね?」と”念押し”されたり軽く言われる方が絶えず、そのたびに否定しています。そして、合併症をもつ割合も多いからむしろ高リスクかもしれないと。 本データも「”年寄り心配ご無用”論」に拍車をかけそうで懸念しますが、あくまでも”一定割合”であって”全員”ではありません。念のため。

また、季節性インフルワクチン接種は新型インフルに有効か?という問いかけに対しては、「ヤブヘブ@カナダ」vs「有効かも@メキシコ→BMJ」に加えて、「関係なし@米→NEJM」と三つ巴の戦いになりそうで、新型インフルウォッチングがまた面白くなりそうです。

ソースはPubMed↓
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19745214

N Engl J Med. 2009 Nov 12;361(20):1945-52. Epub 2009 Sep 10.

Cross-reactive antibody responses to the 2009 pandemic H1N1 influenza virus.

Hancock K, Veguilla V, Lu X, Zhong W, Butler EN, Sun H, Liu F, Dong L, DeVos JR, Gargiullo PM, Brammer TL, Cox NJ, Tumpey TM, Katz JM.

Influenza Division, National Center for Immunization and Respiratory Diseases, Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, GA 30333, USA.

 


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