新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

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opinion@zav.att.ne.jp(関西福祉大学 勝田吉彰研究室)

これから増えるインバウンド労働者の健康管理、何が足りなくて何が必要か

2018-09-23 12:01:03 | 外国人労働者/インバウンド

ポイント:
1.政府が検討会議まで立ち上げた外国人労働者受け入れ増、エリートではない外国人が「正式に」大量に入ってきて労働安全衛生法に則りキチンとやる必要が生じるが、問題山積。

2.健診業界は全然対応できていない。これでは産業医現場が混乱する。

3.さまざまなレベルの在日外国人の生態や行動様式、情報の蓄積と共有がのぞまれる。

政府が今後、外国人労働者の受け入れを増加してゆく方向で検討会議を開いた・・・という報道は9月13日付で国内報道各社大きく取り上げられています。たとえば日経
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35333840T10C18A9PP8000/

これはわれわれ医学界にとって何を意味するのか。ずばり「インバウンドの方々を長期間、年単位でかかわってゆくニーズが爆発的に増える」ことを意味します。いま医学界でインバウンドといえば、来年のラグビーW杯や再来年の東京五輪でごっそりやって来るみなさまがお持ち込みになられる(かもしれない)マスギャザリング関連案件や、医療通訳や期間中受け入れ体制の話題が中心ですが、でも、これらとは別に「日本の職場で正式に(=労働安全衛生法の対象の)年単位で働く(本国派遣のエリートではない現地採用の)外国人」はどうか。ホワイトな扱いすればいかほど手間を要するか。

管理人は今年度から新たに、外国人の多いホワイト職場に月1回、嘱託産業医としてうかがうことになり、急に問題意識もちだしました。キッザニアの英語版みたいな英語教育施設です。航空機内や郵便局やレストランやホワイトハウスや恐竜時代や放送局や牧場やクッキングスタジオや旅行社やダンススタジオやジムや・・・のシチエ―ションルームでネイティブから実際に即した英語が学べて子供たちは見ていて本当に楽しそうですが、そこには大勢のネイティブスピーカー英語講師たちがいます。外資系金融のエクスパット(Expatriate:本国から派遣されてきたエリート)みたく高待遇エリートじゃなくて、日本で現地採用組。彼らの給料の業界相場は「gaijin pot」という在日外国人向け人材募集サイトで知ることができますが
Gaijin pot jobs
https://jobs.gaijinpot.com/job/index/lang/en
indusry のところを、educationを選択すると英語講師の求人とともに相場を知ることができます。(https://jobs.gaijinpot.com/job/index/lang/en?keywords=&category=13®ion=&english_ability=&language=&other_language=&function=&career_level=&contract_type=&employer_type=&overseas_application=0&submit=Search)、大体どこもフルタイムで20万円台/月(ベ〇リッツのフルタイムが17.5万~というの見たときは驚愕しましたが)、パートタイム時給2000円ちょっとぐらい。世間の人びとが思ってるほど高くありません。おおむね1年契約、つまり、政府の旗振りによって今後我々医学界が大量にかかわる外国人労働者の先行モデルみたいな感じです。 彼らに対する扱いはとてもホワイト(私の産業医先でもっともホワイト)ですが、今後大量にやってくる外国人労働者に対してもそうあるべきでしょう。

ところで、管理人がかかわりだして半年足らずにしてはや目につくのが・・・

(写真はシチュエーションルーム:ホワイトハウス。選挙やディスカッションの英語学べる)

1.健診業界が全然対応できてない。外国人労働者が「正式に」労働安全衛生法の対象となる形で大量に増えたらどうするつもり?
 返ってきた定期健診の結果用紙を前に産業医面談を実施するのですが、その結果報告用紙がジャパニーズオンリー。受診者はあきらかにカタカナ名なのに、全部日本語しか書いていない(いや、アルファベットもちょっとだけ載ってるか。ALT,AST,γGTP、HDL,TG,LDLぐらい:苦笑)。さらに、腹囲が♂85cm♀90cm以上ならプログラムが自動的に「痩せましょう」と印字して有所見判定、自動的に産業医面談対象者に。かくして、2mちかい(腹囲85cmをちょっとだけ越えちゃった)大男が呼び出し対象としてピックされていて、まあこれはジョークまじえて日本のメタボ制度の話しながら笑って面談終了。この人の腹囲が日本のメタボ基準におさまっちゃたら、そちらの方が色々考えなくちゃいけないところ・・・というのが複数例。
で、深刻なのは、この健診会社が怪しげな処では全然なくて、日本人の誰でも知ってる病院チェーン・・・ましてや他の健診会社をばと。

まあ、ここでは人数も多くなく労働条件もホワイト、そんなに困るには至っておらずそれなりに楽しんでやっておりますが、少し想像力を働かせて、たとえば工場の産業医でこういうケースが何百人もでてきたら、さらに英語も通じなかったら、ジョークまじりに面談やってる場合じゃなくて、破たんするんじゃないかと思います、あちこちの会社で。

さらに従業員数が50名を超える事業所はストレスチェック制度も義務。あれが結果返しまで英語でできる処は2か所ほど存じあげておりますが、では高ストレス者面談は誰がやるの?

(写真:シチエ―ションルーム 郵便局)

 2.在日外国人の嗜好の情報
 脂質異常症とか血糖値とか、概して思ったよりずっと良好なのですが(別の某産業医先のほうがはるかに色々と・・)、少々はLDLやTGやBSがマイルドに引っかかる人はいるので、食餌指導をします。ここで便利なのが米糖尿病協会の懇切丁寧なサイト。
http://www.diabetes.org/
を使いながら説明しますが、返ってくる質問が時に「えっ!」
「それUSAのサイトだろ。載ってないだろけど、納豆は食べて良いの悪いの? 大好きで毎日食べてるんだけど」(えっ、あんな物、外国人で食べられる人がいるのか・・)

「それニッポンに来たばかりのデータだから。今ならずっと良いよ。LAにいたとき〇kg、ニッポン来て半年で20kg減ったよ。ノープロブレム」(車が電車通勤になり、日本の食事量に適応できたらこうなるのか・・・)

とまあ、外務省で12年やってきても、また別口の新たなる「目からうろこ」の連続です。

(写真:シチュエーションルーム 真ん中の砂場に「恐竜の卵」が埋まっていて、採掘作業しながら楽しく英語のお勉強)

これまで、日本における外国人が語られるとき、そのキャラは
1.エクスパット(Expatriate):本国から駐在員して送られてきたエリート層。日本国内とは思えない広大なマンションに住み本国と同じ生活。
2.外国人技能実習生:いまマスコミが注目し問題点をあぶりだしている悲惨な境遇の人びと。悲惨つながりでは外国人花嫁や難民のメンタルヘルスが多文化間精神医学会あたりで注目。
3.旅行者:インバウンド、マスギャザリング、といったキーワードで渡航医学界でも注目、エボラやMERSや麻疹のような案件が出現するとマスメディアも検疫所の映像繰り返し注目される。

あたりですが、渡航医学界がもうひとつ注意を向けねばならない対象があるのではと、最近思う次第です。

 


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