邦題『ノラ・ジョーンズの自由時間』が絶妙なタイミングでリリースされた。
世界的なシンガー達のクリスマス・アルバムが怒涛の如くリリースされた昨年、今年こそは…と期待していたノラ・ジョーンズの新作はなんと、数々のミュージシャン達とコラボレーションした音源をまとめたコンビレーション・アルバムである。
新作とはいえ、音源についてはすでに聴いた楽曲もあり、その所為で、新鮮味は薄いが、過去の音源が、こうしてノラ・ジョーンズのひとつのアルバムにコンパイルされたことは嬉しい限りだ。
まず、過去にフィーチャリングしたミュージシャンの多さに驚く。
フルアルバムにヴォーカルとして参加したアルバムとしてもピーター・マリック・グループの『New York City』を筆頭に、リトル・ウィリーズにも殆どバンドのメンバーといっても過言ではない貢献度を示しているノラは、このアルバムでもリトル・ウィリーズからの「Love Me」をフィーチャーしている。
オリジナルはエルヴィス・プレスリー。
この曲が、カヴァー曲としてアルバムの1曲目を飾っている。
忠実に再現するか、それとも一度消化して再構築し直すか。
カヴァーにはいつもこの二通りの方法があるのだと思うのだけれど、ノラの場合は明らかに後者だ。
それにしてもノラは完全にこの曲を自分のものにしているな。
ロックの名曲にジャズ・フィーリングが加わることでとても新鮮な聴き応えのあるナンバーに仕上がっている。
そして、僕にとって嬉しいのは4曲目に収録されたウィリー・ネルソンとの「Baby It's Cold Outside」を聴けたことかな。
冒頭で僕はノラのクリスマス・アルバムを期待していたというようなことを書いたが、まさしくこの曲こそこの季節に聴くに相応しい曲だね。
邦題は、「ベイビー、外は寒いよ」だ。
カントリー界のこの大物シンガーであるウィリー・ネルソンと、同じようにカントリー・フィーリングを持つノラ・ジョーンズとが、いつの日にか、こんな風に競演することになろうことは容易に想像できたけれど、ウィリー・ネルソンと彼女の年齢差を考えると祖父と孫娘といった関係にも思え、とても同じステージで一緒に歌うなんて滑稽にも思えるのだけれど、お互いをミュージシャンとして認め合う仲ならば、ある意味、師匠とその成長した弟子にも見えてしまう。
「おう、お前も漸く、この域に達したか。よくぞここまで立派に…」
「わたしが今あるのもすべてあなたのお蔭よ。ありがとう」
そんな風な会話をお互いが交わしたかどうかは定かではないけれど(おそらくそんな会話は交わさなかったと思うけれど)、カテゴリー音楽の重鎮と彼を崇拝する孫娘と同じ世代のノラとがこうして並んで歌をデュエットすると、広いアメリカの台地を切り取ったように壮麗且つ壮大で、彼らが歌う「歌」がかけがえのない音楽の遺産のようにも思えてくる。
デビューアルバム『Come Away With Me』で衝撃的デビューを果たすことになったノラ・ジョーンズだが、彼女の音楽人生はまだ始まったばかり。それなのにその束の間の時間で、これほどのミュージシャン達と競演して、いったい次はどんな世界を僕達(私達)にみせてくれるのだろうか。
そういった意味で『ノラ・ジョーンズの自由時間』は、ほんの束の間のミュージシャン達との交流の記録であり、とても偉大なJobだったんだなと思うのだ。
このアルバムを買ってCDショップを出ようとすると、入れ違いに店に入ってきた女性の淡い香水の匂いが鼻腔を掠めた。
と同時に、外の冷気が僕を包み込んだ。
「ベイビー、外は寒いよ」。
そんな風に誰かに呟きたくなる気分だった。
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