音盤工房

活字中毒&ベルボトムガール音楽漂流記

今こそ、『サタニック・マジェスティーズ』に再評価を…

2013年10月04日 | インポート

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 有名どころのミュージシャンやアーティストともなると、人生のうちで一家に一枚的なアルバムの一つや二つは必ずあるものだ。

 殊更、ストーンズのように50年のキャリアを持つロックバンドともなると、その数はほかのバンドの比ではない。

 60年代の後期に当たる『べカーズ・バンケット』や『レット・イット・ブリード』などは、まず、最初に頭に浮かべるアルバムであろう。

 ストーンズ・レーベルになってからのアルバムだと、『スティッキー・フィンガーズ』や『メイン・ストリートのならず者』あたりが手堅い。

 だが、5枚目に何を持ってくるかは、まあこれは個々の好みに委ねられてくる。

 僕の場合は、『女たち』か『刺青の男』あたりと答えたいところだが、意外に『サタニック・マジェスティーズ』あたりに自然に手が伸びてしまう。

 一般には失敗作というレッテルを貼られた感じのアルバムだけれど、意外に大好きなアルバムである。Photo_3

 ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と同時期に発表された作品だけに、当時はビートルズの模倣、二枚煎じ的アルバムという位置づけをされた曰く付きアルバム観が強い。

 それもその筈で、双方の作品のアルバムデザインをマイケル・クーパーなる人物が手がけている。

 つまり、同じ人物が同時期に立て続けてビートルズとストーンズのアルバムジャケットを撮ってしまったという訳。 

 だから同じような構図になるのは当たり前。

 けれど、LPの中身まで酷似しているかとなるとそれはNoだ。

 たとえるなら、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と『サタニック・マジェスティーズ』はまさしく「明」と「暗」、「表」と「裏」、「天使」と「悪魔」。

 ビートルズの対抗馬としてデビューさせた頃からストーンズをまったく正反対のバンドイメージで売り出そうとしていたアンドリュー・ルーグ・オールダムの思惑が具体的に示されたアルバムと言えそうだ。

 だからといって、音楽性まで似せたわけでは決してなく、今改めて聴き直してみると、その音楽の幅広さというか柔軟な音楽嗜好をストーンズというバンドはしていたのかと思う訳である。

 サイケデリック・サウンドとか悪魔的サウンドとか当時は言われていたみたいだけど、それとは別に、『パープル・レイン』の頃のプリンスやエレクトリック・マイルスなんかに通じる斬新さ感じてしまう。

 このアルバムと同じ扱いをされるアルバムとして『アンダーカヴァー』があるが、これも僕が大好きなアルバムである。

 一般的な評価としてそのバンドの音楽傾向から大きく逸脱しているものを、バンドの音楽的停滞と考え、それを強硬に排斥しようとする音楽的動きがあることは確かである。

 僕なんかはどちらも面白くて興味が尽きなきけど…。

 確かにミックがこのアルバムについてコメントしているように曲自体が長いのが唯一の欠点といえそうだが、この頃のミックとキースの状況を思えば仕方のないこととも言える。

 そう、彼らはバンド結成後、初めてのスランプに陥っていた。

 収録された楽曲を聴く限り、無理やりにサイケデリックという範疇に押し込んでいた観が否めない。

 デビュー当時から黒人音楽に傾倒し、シカゴ・ブルースやチャック・ベリーを好んで演奏していた頃とはまるっきり別の方向にバンドは突き進んでいた。

 それでもストーンズはアルバム製作を遅らせるわけにはいかなかった。そこでブライアンが持ち前の能力を発揮するのである。

 とても普通では発表できない未完成の曲群をブライアンが発表できるまでにアレンジを加え、満足とはいかないまでも何とかリリースできるレベルまで押し上げたとみるべきだろう。

 この『サタニック・マジェスティーズ』はいわばブライアンの肝煎りアルバムともいえ、彼自身が再びバンドの主軸に躍り出たアルバムともいえる。

 その音作りは、これまでのストーンズ・サウンドとは程遠いけれども、ブライアンが好む音に塗り替えられていった。バンドの主導権をミックとキースに奪われてから、ブライアンの存在意義が薄くなっていたから、その反動もあったんだろうと思う。

 僕は、この『サタニック・マジェスティーズ』にブライアンの隠れた闘志。ストーンズに対する反逆魂を感じる。

 これからは、この俺がこのバンドを引っ張っていく。そんな風な野望を抱いたとしてもおかしくない。

 ただ、皮肉なことにブライアン自身がこのアルバム発表後にさらにドラッグに溺れ、身も心も疲弊していく。

 実質、彼が貢献したのは『べカーズ・バンケット』までで映像作品の『ロックンロール・サーカス』の頃は、手首を骨折するなどして体調が万全とは言えず、演奏にも覇気がなかった。

 ともあれ『サタニック・マジェスティーズ』は発表され、散々評論家にこき下ろされ、ストーンズのアルバムの中でも最下位という烙印を捺された。

 失敗作という不名誉なおまけまで付いて…。

 確かに傑作といわれる前述の『べカーズ・バンケット』や『レット・イット・ブリード』、『スティッキー・フィンガーズ』に『メイン・ストリートのならず者』と比べると粒も揃ってはおらず、ヒット曲にも恵まれなかった。

 しかし、『サタニック・マジェスティーズ』は奇妙な異彩を放ち、未だに僕達に不吉な謎を提議する。

 いかにして『サタニック・マジェスティーズ』は誕生したか。

 その誕生秘話が僕達の創造の域を出ないからずっと謎のままだ。

 でも、だからこそ『サタニック・マジェスティーズ』には興味が尽きない。

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