車輪を再発見する人のブログ

反左翼系リベラルのブログ

蝶が羽ばたくと何が起こる?

2009年02月17日 | 経済一般

今、「物理数学の直感的方法」長沼伸一郎著を少し呼んでいる。この本は、大学で習う物理数学を直観的にわかりやすい方法で解説した本として20年前に出たときには一部で大いに話題になった本だ。それの第二版を買って読んでいるのだが、新しく追加された第11章三体問題と複雑系の直観方法がなかなか面白い。三体問題というのは、天体が二つまでだと、運行経路を計算するのは簡単だが、三つ以上になると途端に非常に難しくなるというよく知られた問題だ。

複雑系を語るときに「北京でチョウが羽ばたくと、セントラル・パークで雨が降る」という話がされることがある。全体の中の一部が少し変わるだけで全体に大きな影響が出ることの例えとして出される。しかし、世の中には様々なことが延々と起こっているがそれが必ずしも全体に大きな影響を与えているわけではない。変化の中には全体の性質を長期にわたって変えてしまうものと、部分的にしか影響を与えないものとがある。だから、全体に影響を与えるような変化であれば少しの変化であっても全体として大きな影響を受けるが、部分的に変わるだけならそれほどたいしたことはない。太陽系には二つよりも多くの天体が存在しているが、太陽の重力が圧倒的に強力なため他の惑星の重力は大して影響を与えずそのため太陽系は安定した状態を保つことが出来ている。

これは経済や社会においても同じだろう。日々、多くの企業、個人商店、はたまた個人が社会の中で競争で生き残ろうと、マーケットシェアを獲得しようと、利益を上げようと凌ぎを削っている。しかし、それぞれの個人や組織は必死でがんばっているとしても、もし突然いなくなったとしても多くの場合誰も気づきもしないだろう。そうかと思うと、どこからとも知れない場所から新しいアイデアを抱えた新興企業がやってきて市場を大きく変えてしまうことがある。イノベーションという風に表現したら良いだろうか。そのような、経済や社会全体に影響を与えるアイデアは本当の意味で大きな変化をもたらすのだろう。

押していただけると、励みになります。


要素価格均等化定理

2009年02月17日 | 経済学

要素価格均等化定理によって国内の労働者の賃金は、途上国の労働者の賃金水準に近づかざるをを得ないというようなことはよく言われる。要素価格均等化定理というのは、wikipediaによると生産要素が国際間で全く移動しなくとも、賃金率や資本のレンタル率などの要素価格が両国で均等化することだ。だから、国内の単純労働や派遣労働者の賃金は低くなるのが当然で現在でも高いくらいだとして、格差を仕方ないものとして主張するのがお決まりのパターンだ。

しかし、国際経済学の基本的な考え方からするとこの主張は論理的に無茶苦茶だ。まず、国際経済学の基本的な前提は労働以外の資源は国際的に自由に行き来できると仮定し、逆に労働は国家間で行き来できないものと仮定するのが普通だ。上の要素価格均等化定理は、貿易によって間接的に賃金水準に影響を与えるということを意味しているが、重要なのは国内での労働の移動を考えないといけないので一部の労働者の賃金だけが下がるというのはおかしいということだ。つまり、普通に考えると国内での労働市場の直接的な影響のほうが大きいのが当然なので国内で労働者の賃金は均等化するはずだ。したがって、国内で賃金格差が拡大し続けるというのはおかしい。

つまり、最初にあげた話は、国際的な間接的影響で一部の労働者の賃金がひたすら低下する一方、国内の労働市場の直接的な影響による国内での賃金の平準化が起こらないという特殊な状態を仮定しているからそうなるだけの話だ。普通に考えれば国際競争的に不要な、あるいは競争力のない部分の労働力はモデル工場や輸送費の影響等の国内にどうしても置いておく必要のある部分のみ残し海外に移転し、その結果労働力は他の分野に移動し賃金水準全体をある程度押し下げるということになる。つまり、結果として国際間の賃金差が国家間で縮小することになる。

このように、国際競争で格差が拡大するのは当然だという主張は経済学の理論の一部の特殊な例だけを取り上げたからそうなるだけなのだ。本来の理論的な構造の中心においてはまったく違う結果が起こるし、むしろそちらの方が本来の理論的前提からしたら正しいのである。つまり、本来の経済学の理論ではそのようなことが起こるわけではないが、特殊な場合を考えると起こることもありえるという程度のことなのである。ちゃんと経済学を理解した上で議論したいものである。

押していただけると、励みになります。