今、「物理数学の直感的方法」長沼伸一郎著を少し呼んでいる。この本は、大学で習う物理数学を直観的にわかりやすい方法で解説した本として20年前に出たときには一部で大いに話題になった本だ。それの第二版を買って読んでいるのだが、新しく追加された第11章三体問題と複雑系の直観方法がなかなか面白い。三体問題というのは、天体が二つまでだと、運行経路を計算するのは簡単だが、三つ以上になると途端に非常に難しくなるというよく知られた問題だ。
複雑系を語るときに「北京でチョウが羽ばたくと、セントラル・パークで雨が降る」という話がされることがある。全体の中の一部が少し変わるだけで全体に大きな影響が出ることの例えとして出される。しかし、世の中には様々なことが延々と起こっているがそれが必ずしも全体に大きな影響を与えているわけではない。変化の中には全体の性質を長期にわたって変えてしまうものと、部分的にしか影響を与えないものとがある。だから、全体に影響を与えるような変化であれば少しの変化であっても全体として大きな影響を受けるが、部分的に変わるだけならそれほどたいしたことはない。太陽系には二つよりも多くの天体が存在しているが、太陽の重力が圧倒的に強力なため他の惑星の重力は大して影響を与えずそのため太陽系は安定した状態を保つことが出来ている。
これは経済や社会においても同じだろう。日々、多くの企業、個人商店、はたまた個人が社会の中で競争で生き残ろうと、マーケットシェアを獲得しようと、利益を上げようと凌ぎを削っている。しかし、それぞれの個人や組織は必死でがんばっているとしても、もし突然いなくなったとしても多くの場合誰も気づきもしないだろう。そうかと思うと、どこからとも知れない場所から新しいアイデアを抱えた新興企業がやってきて市場を大きく変えてしまうことがある。イノベーションという風に表現したら良いだろうか。そのような、経済や社会全体に影響を与えるアイデアは本当の意味で大きな変化をもたらすのだろう。