車輪を再発見する人のブログ

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経済学者のコンセンサス

2009年02月15日 | 経済学

これは池田信夫blogでも取り上げられているMankiw blogの記事からであるが、非常に興味深いので少し取り上げてみる。以下は様々な調査に基づく経済学者のそれぞれの政策に対して、賛成した割合である。数字が多いほど多くの経済学者が一致して支持しているということになる。

    1. 家賃の規制は借家の質と量を悪化させる (93%)
    2. 関税や輸入割当は経済的福祉を悪化させる (93%)
    3. 変動為替相場制は、国際金融調整に効果的だ(90%)
    4. 財政政策は不完全雇用においては景気刺激効果をもつ(90%)
    5. アメリカは海外へのアウトソーシングを規制すべきではない(90%)
    6. アメリカは農業補助金をやめるべきだ(85%)
    7. 地方政府は、プロスポーツの地方拠点への補助金をやめるべきだ(85%)
    8. 連邦政府の財政収支は、単年度ではなく景気循環のサイクルを通じて均衡させるべきだ (85%)
    9. 社会保障の負担と給付のギャップは、今後50年間に維持不可能な規模に拡大する(85%)
    10. 所得の間接的な再分配より現金支給のほうが福祉を高める(84%)
    11. 財政赤字の拡大は経済にとって好ましくない(83%)
    12. 最低賃金を引き上げると、未熟練労働者の失業が増える(79%)
    13. 政府は社会福祉を「負の所得税」によって改革すべきだ(79%)
    14. 環境汚染の上限を決めて規制するより、廃棄物への課税や排出権取引のほうが望ましい(78%)

概ね、私も同じ意見であるかな。このように、一見アメリカの景気刺激策の議論などを見ていると経済学者間でものすごい意見対立があるように見えるが実はかなり多くのものについて基本的なコンセンサスが出来ているというのがMankiwの記事の内容だ。

これはある意味そうなのだが、問題は基本的内容で合意が出来ていても周辺的な内容で深刻な意見対立があるということだ。国際貿易を見てみると面白いことに自由貿易主義者とスティグリッツや昔のフランクのような「欧米によって自由貿易として推進されたもの」に反対する人たちの貿易理論に対する考え方は基本的に一致している。政府による輸出入の制限や関税は好ましくなく、より自由な国際貿易を達成すべきだというものだ。特に、現在の国際貿易における最大の問題である先進国による農業補助金と農産物関税に反対しているという点で同じだ。しかし、問題は先進国が農業保護のような明らかな障壁が残されている一方で他の部分をラディカルに開放すべきかどうかという点で大きく対立していることだ。19世紀においてはヨーロッパ諸国は関税を恣意的に決めるどころか直接的な介入によって植民地の産業を破壊する一方で、現在の途上国が市場を守ろうとすることに強硬に反対し無理やり市場を開放させ続けた。同じようなことは、戦後も起こり先進国にとって都合のいい強制的な市場開放は続いた。金融市場の完全開放は典型的な例だろう。

つまり、基本的な内容で一致していたとしても周辺的な内容では一致していないことがある。特に政治的な問題で農産物市場を開放できない、労働組合に配慮して雇用を流動化できない、賃金の高騰を抑制できないといった場合に、それでも一部の市場だけ徹底的な自由競争を導入するかどうかで大きな対立が起こる。と同時に、そのような分野は実は理論的に正しいことがちゃんと保証されているわけではないので失敗の可能性も高い。途上国の金融市場の開放や、日本の派遣労働のみの自由化の見事なまでの失敗は記憶に新しい。

つまり、基本的な部分で合意できていても政治的問題で最も理論的に優れていることがわかっている政策が取れないこともあるし、そのとき理論から離れた政策が本当に効果を上げるのかという問題がある。このような周辺的な部分の政策の実行性について非常に大きな対立がある。だから、身分制と化している現在の日本の労働市場の問題を理解できない人は置いておいても、このような状況で製造業派遣等においてどのような姿勢で臨むかという点においてはかなり考え方に幅が出てきてしまう。そのため、池田氏が主張していることにおいても限界生産性等、基本的な認識においては一致していても、それをどう解釈するかという点で対立していることは結構多くあるのである。

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国籍法改悪を憂う

2009年02月15日 | 政治

博士の独り言「DNAと国籍法」より

 別件(偽装結婚)逮捕の「日本人男性」の戸籍を調べたところ、同男性の名義を利用し、表題の容疑者3人が、うち男女(中国籍)の間にできた胎児の父親であると偽って認知届けを出していた記録が判明、と伝える記事である。いわば、当該の偽装認知は、別件捜査の上で、男性が服役であったことから、たまたま、芋づる式に出て来た容疑であること。また、認知申請が「昨年1月22日」であることから、昨年(2008年)12月に国会で可決した「改正国籍法」の施行下での、同法悪用による偽装ではないことなど、この系譜を踏まえた正確な認識が先ず必要だ。

・・・

 また、この2月初頭には、いわゆる、離婚後300日以内に生まれた子の認知調停のニュースが各紙面から報じられた。生まれた子の父親が前夫であるのか、再婚した夫(現父)の子であるのか。事例を通じて、家庭裁判所の判断、認定にはバラツキがあることが指摘されていた。記事に報じられている女性の経緯について、「母親は二〇〇七年三月に前夫と別居。現夫と交際を始め同十月、妊娠に気づいた。同(2007年)十二月に離婚が成立。昨年六月に現父と再婚し、翌月、離婚後二百十二日目に男児を出産した」とある。その経過をもとに、「昨年八月、現夫に認知を求める調停を東京家裁八王子支部に申し立てたが、裁判官から突然「取り下げてほしい」と言われた」と。しかし、その後、「転居先近くの横浜家裁相模原支部に同様の調停を申し立てると、同十二月、前夫の関係もDNA鑑定もなしで現夫の子と認められた」とある。

 この事例に観られるバラツキは、言葉は悪いが、あり得る事例なのかもしれない。全国に数多い存在が指摘されている離婚後の出産による「無戸籍児」だが、調停を受けた家裁の迅速、且つ正確な判断、認定は、子供たちの人権を守り、尊重する上で不可欠であり、ここでも、その決め手となるのは、現状では、DNA鑑定に違いない。DNA鑑定は、総じて、刑事事件の捜査から、災害時などの犠牲者の特定、残留孤児と申請者の親子関係、および、当該の父子認定にいたるまで、その不変の根拠を割り出し、確定するために不可欠といえる。

DNA鑑定を必要としない国籍認定という不合理極まりない政策、これを推進している人たちは本当に頭がおかしいのだろう。世界中のほとんどの貧しい人や餓えている人を利さない、一部の犯罪者のみを助けるこの政策。人権という一部の人間の特権ではなく、世界中の人たちに基本的な生活や安全を与えることを可能とする政策が必要だろう。特権階級が言えばほんの少しの権利の侵害や、状況の違いから来る区別さえも人権の元に弾圧される社会。それでいて、学歴差別や年齢差別がまったく顧みられず、世界中に基本的な生活を供給することさえ出来ていない状態。この異常な二重基準を打ち破る必要があるだろう。

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明らかな嘘

2009年02月15日 | 経済一般

ヨーロッパ諸国がラテンアメリカやアフリカを植民地化し支配していたときに、現地人はちゃんと働こうともせずに浜辺で寝そべって昼寝とかしているから経済が停滞しているんだという主張があった。当然のことながら完全な嘘だ。それ以前の封建社会の時代も貴族は農民が怠惰でちゃんと働かない。怠け者ばっかりだと言っていた。理由は、少し余裕が出来て体を休めることが出来るようになったら、さらにひたすら働いて収入を増やそうとせずに休もうとするからだ。つまり、何日も何日も一日十数時間働いた後もひたすら働こうとしないことを怠惰だと表現していたのだ。

この話をしたのは、一部の人の思考回路を非常にわかりやすく表現していると思ったからだ。勤勉であるか、怠惰であるかということで物事を図るとすると、普通の人は多くの時間まじめに何かをしていたら勤勉だし、してなかったら怠惰だと考えるだろう。しかし、中には農民の場合には延々と働き続けないものは怠惰だが、それ以外は当然普通に休んでいいという自分の考えで物事を判断する人がいる。そういう人に取ったら、ラテンアメリカやアフリカの原住民は毎日重労働をしていたとしても怠惰だというふうに解釈でき、果てには浜辺で寝そべっているというまったくの嘘さえ問題ないと勝手に考えるようになる。

つまり、もともとの勤勉であるとか怠惰であるとかいう内容ではなく、それをその人が解釈した内容によって物事が判断されているのである。そして問題は、その解釈がそもそもの内容を一変させるほどの影響を与えているということである。これは、ここ最近続いている正社員・非正社員の議論でもそうであるが、努力という概念が特殊な解釈の元で使われている。ほとんど働きもしないで高給を貰っていれば大問題なのは明らかなように思うが、問題になるのは低賃金で働いている派遣社員が努力が足りないという話だ。また、中年になって年収八百万位の人が、そういう派遣社員や新入社員を努力が足りない、なってないと非難する。自分の地位は当然で、下のものは努力しなければならないのだ。つまり、自分にとって都合のいい努力に対する解釈で、努力を語っているのだ。

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