これは池田信夫blogでも取り上げられているMankiw blogの記事からであるが、非常に興味深いので少し取り上げてみる。以下は様々な調査に基づく経済学者のそれぞれの政策に対して、賛成した割合である。数字が多いほど多くの経済学者が一致して支持しているということになる。
- 家賃の規制は借家の質と量を悪化させる (93%)
- 関税や輸入割当は経済的福祉を悪化させる (93%)
- 変動為替相場制は、国際金融調整に効果的だ(90%)
- 財政政策は不完全雇用においては景気刺激効果をもつ(90%)
- アメリカは海外へのアウトソーシングを規制すべきではない(90%)
- アメリカは農業補助金をやめるべきだ(85%)
- 地方政府は、プロスポーツの地方拠点への補助金をやめるべきだ(85%)
- 連邦政府の財政収支は、単年度ではなく景気循環のサイクルを通じて均衡させるべきだ (85%)
- 社会保障の負担と給付のギャップは、今後50年間に維持不可能な規模に拡大する(85%)
- 所得の間接的な再分配より現金支給のほうが福祉を高める(84%)
- 財政赤字の拡大は経済にとって好ましくない(83%)
- 最低賃金を引き上げると、未熟練労働者の失業が増える(79%)
- 政府は社会福祉を「負の所得税」によって改革すべきだ(79%)
- 環境汚染の上限を決めて規制するより、廃棄物への課税や排出権取引のほうが望ましい(78%)
概ね、私も同じ意見であるかな。このように、一見アメリカの景気刺激策の議論などを見ていると経済学者間でものすごい意見対立があるように見えるが実はかなり多くのものについて基本的なコンセンサスが出来ているというのがMankiwの記事の内容だ。
これはある意味そうなのだが、問題は基本的内容で合意が出来ていても周辺的な内容で深刻な意見対立があるということだ。国際貿易を見てみると面白いことに自由貿易主義者とスティグリッツや昔のフランクのような「欧米によって自由貿易として推進されたもの」に反対する人たちの貿易理論に対する考え方は基本的に一致している。政府による輸出入の制限や関税は好ましくなく、より自由な国際貿易を達成すべきだというものだ。特に、現在の国際貿易における最大の問題である先進国による農業補助金と農産物関税に反対しているという点で同じだ。しかし、問題は先進国が農業保護のような明らかな障壁が残されている一方で他の部分をラディカルに開放すべきかどうかという点で大きく対立していることだ。19世紀においてはヨーロッパ諸国は関税を恣意的に決めるどころか直接的な介入によって植民地の産業を破壊する一方で、現在の途上国が市場を守ろうとすることに強硬に反対し無理やり市場を開放させ続けた。同じようなことは、戦後も起こり先進国にとって都合のいい強制的な市場開放は続いた。金融市場の完全開放は典型的な例だろう。
つまり、基本的な内容で一致していたとしても周辺的な内容では一致していないことがある。特に政治的な問題で農産物市場を開放できない、労働組合に配慮して雇用を流動化できない、賃金の高騰を抑制できないといった場合に、それでも一部の市場だけ徹底的な自由競争を導入するかどうかで大きな対立が起こる。と同時に、そのような分野は実は理論的に正しいことがちゃんと保証されているわけではないので失敗の可能性も高い。途上国の金融市場の開放や、日本の派遣労働のみの自由化の見事なまでの失敗は記憶に新しい。
つまり、基本的な部分で合意できていても政治的問題で最も理論的に優れていることがわかっている政策が取れないこともあるし、そのとき理論から離れた政策が本当に効果を上げるのかという問題がある。このような周辺的な部分の政策の実行性について非常に大きな対立がある。だから、身分制と化している現在の日本の労働市場の問題を理解できない人は置いておいても、このような状況で製造業派遣等においてどのような姿勢で臨むかという点においてはかなり考え方に幅が出てきてしまう。そのため、池田氏が主張していることにおいても限界生産性等、基本的な認識においては一致していても、それをどう解釈するかという点で対立していることは結構多くあるのである。