車輪を再発見する人のブログ

反左翼系リベラルのブログ

ドラフトの形骸化

2009年06月14日 | スポーツビジネス

MLBでドラフトの形骸化が進んでいる。かなり前から、アメリカ国外の選手がドラフトを経ずに球団を契約することによってドラフトの形骸化が進み、同時に新人選手の契約金の高騰が起こっていた。その結果、弱小球団にとっては契約金の関係から有力選手を避ける指名が行われることも常態化している。このような事態がさらに悪化しているようだ。(スポーツビジネス from New Yorkより)

このスティーブン・ストラスバーグ選手の代理人が、松坂選手の代理人でもあるスコット・ボラス氏なのですが、スティーブン・ストラスバーグ選手とボラス氏のタッグが「MLBのドラフト制度を変えるかもしれない」と大きな話題になっています。というのも、ボラス氏がナショナルズに対して複数年で総額5000万ドル(約50億円)以上の契約を求めると言われているからです(この数字は、松坂選手がレッドソックスと結んだ5200万ドルの契約が参考になっています)。

ご存知の通り、MLBのドラフトは完全ウェーバー制で、前年度の勝率が低いチームから順に選手を指名していきます。しかし、順位が低いチームは往々にして貧乏チームが多く、以前「MLB終戦」でお見せしたデータによれば、昨年のナショナルズの年俸総額は全30チーム中26位の5500万ドルです。

MLBでは兼ねてから代理人による高額な契約の要求が問題になっています。例えば、現在レッドソックスでプレーするJ・D・ドリュー選手は、フロリダ州立大学時代に1年生からレギュラーで活躍し、アトランタオリンピックの代表メンバーにも選抜されるようなエリート選手でした。ドリュー選手は1997年のドラフトで第1巡(全体2位)にてフィラデルフィア・フィリーズから指名されますが、「1100万ドル以上でないとサインしない」と公言していた代理人(ボラス氏)は、フィリーズの提示した300万ドルという契約金に納得せず契約締結を留保、結局フィリーズは指名権を失ってしまいました(同選手は1年間独立リーグでプレーした後、翌年のドラフトでセントルイス・カージナルスに指名を受け、契約した)。・・・

ということだが、まず最初に指摘しておくとウェーバー制ドラフトの第一の目的は新人選手の年俸を抑制することではない。新人選手を獲得する機会を均等化し、勝率の悪い球団に優先的に選手を割り当てることによって戦力の均等化を図ることである。新人選手の年俸が抑制されたのは、球団がその制度を悪用して強い立場から球団にとって都合のいい条件で契約を結ばせてきたからである。普通の商習慣や経済原理に基づけば、許されることではない。

だから、結局のところ戦力均衡はレベニューシェアリングなどによって収入の均衡化が図られなければ無理だろう。しかし、高収益球団からすれば自分達の利益が損なわれるレベニューシェアリングには反対で、日本でもそれが原因でドラフト制度を変更し新人選手により不利な制度を導入することが主張された。結局は自分達の特権を手放すのがいやなので、弱いものからより搾取できるようにして何とか制度が破綻しないようにしようという虫のいい話なので一部の者の利益にしかならないだろう。

押していただけると、励みになります。


Jリーグ移籍金撤廃

2009年05月13日 | スポーツビジネス

Jリーグが国際的な制度に合わせて移籍金制度を撤廃することになった。

Jリーグは4月30日に都内でワーキンググループ会議を開き、来季からの移籍金撤廃に伴い、J独自の育成費制度の導入を協議した。来年から、契約が切れた選手に対しては移籍金が発生しない代わり、獲得クラブが元所属クラブに所属年数に合わせた育成費を支払うもの。また今季限りで契約が切れる選手については、今年8月1日から新たなクラブと来季の契約ができるようになるが、今年に限り、10月1日を解禁日にすることをJ選手会と協議し、了承された。(nikkansports)

クラブの中には今回の変更に反対しているところもあるようであるが、私としてはやっと標準的な状態になったかという感じである。クラブ間の経済力の差による戦力拡大を心配する声もあるようであるが、まず基本的な問題としてこのような制度は経済的にはカルテルに当たり普通なら違法であるということを指摘しておかないといけない。つまり、通常の法律制度や市場競争という経済原則を曲げて採用されている制度に過ぎないのだから、そのような制度を採用することが全体として合理的である理由がなければならない。

これは、プロ野球の保留権やドラフト制度についても言えることであるが、それらのものはプロリーグに与えられた権利ではなく全体の制度の中で合理性を持つ仕組みの一部として採用することが許されているという事に過ぎない。これは、アメリカのプロリーグにおいてもそうで、独占禁止法の直接的な適用を免除される特例と、選手会との労使協約に基づく処置として限定的な保留権やドラフト制度が容認されている状態である。

だから、プロリーグとして繁栄するためのレベニューシェアリング等の処置と共に取られて初めて市場競争を部分的に歪めることが合理的な面を持つということを理解する必要がある。だから、そのような対策をしようとさえせずに、ドラフト制度を維持し若手選手の年俸を抑えることによってリーグ全体を維持しようとするような現在の日本のプロ野球のようなやり方は論外としか言いようがないのである。そのように考えると、今回の移籍金撤廃は自然な流れであると言えるのではないだろうか。

押していただけると、励みになります。


NFLドラフト、ライオンズがスタフォードを全体1位指名

2009年04月26日 | スポーツビジネス

久しぶりのスポーツビジネスネタだが、今年のNFLのドラフトでライオンズが全体一位指名でスタフォードを指名した。その契約内容がすごくて、4170万ドル保証の6年最大7800万ドルだそうだ。全体一位だといってもあまりの高額契約で話題になっている。ここ数年、NFLではドラフトの一巡上位指名選手の高額契約が問題になっている。日本でもプロ野球の契約金の高騰や裏金問題が事件になったりしていたが、流石はアメリカ桁が違うと言って良いだろう。そして、ドラフトのトップ十位くらい(NFLは32チーム)の契約があまりにも高騰したのでどのような対策を取るか、厳しい制約が必要なのではないかという話がされている。

NBAにおいてはルーキーの契約は指名された順位によって厳密に決まっていて、年俸が制限されているのでそのような制度を導入すべきではないだろうかという議論が起こっている。しかし、実は上位選手が高額な契約を手にする一方、それ以外の選手は最低年俸に少しのボーナスが付いただけの年俸のため、若手選手は低コストの選手の供給源となりベテランが仕事を失う原因にさえなっている。全体としては、新人選手たちの年俸は非常に低い状態にある。

だから、この問題を解決するのには一部のドラフト上位選手の契約金を一部制限しその代わり多くの若手選手の待遇を改善すればいい。しかし、問題は高額の契約を手にする選手に比べて低年俸の若手選手の数が圧倒的に多いので少し若手選手の待遇を改善するだけでドラフト上位指名の選手の契約削減分を使ってしまい、逆にオーナーの利益を削ったりベテラン選手の年俸を下げる必要が出てきてしまうことだ。だから、実は全体としてはベテランが若手を搾取しているという日本のプロ野球と同じ構図が起こっている。

上に言ったように本当の意味で解決する方法は簡単などだが、それがベテランやオーナーの利害を損なうので議論が迷走しているというのが現実だ。日本のプロ野球のドラフト制度や契約金の問題もそうだったり、NBAやNHLのルーキーの契約の変更もそうであったが、ちゃんと活躍していない選手がベテランから収入を奪っていると言いつつ、若手から年俸分働いていないベテランに収入を移転させるという天と地がひっくり返ってしまうようなことを目指しているので話が訳の分からない方向に行ってしまう。スポーツビジネスの専門家にとっては若手が搾取されているのは常識である上、若手からの搾取の分はオーナーの取り分にもなっているので新人の契約を制限するだけの制度変更には懐疑的である。しかし、活躍している若手の待遇を上げる変更はどこから必要なお金を持ってくるのかという問題を抱えている。だから、もめているのである。

押していただけると、励みになります。


アメリカのスタジアム補助金

2009年03月02日 | スポーツビジネス

現在アメリカではスポーツ競技場に対する補助金の是非が大きな問題となっている。ちょうどいい記事があったのでそれを下に紹介しよう。

2000年以降17のNFL・MLBの新スタジアムが建設され、またいくつかのチームが建設を計画している。しかし、1つの例外を除いてすべてのスタジアムに公的な資金を投入されている。その額は平均で、70パーセントにも上る。方法としては課税が免除された債権が多く、そのほかにスタジアムのための税金が導入されることもある。

2年前のある研究によれば、スポーツフランチャイズは公的な補助金なしでそのようなスタジアムを十分自己資金で建てられるとしている。建設資金の半分は5年で回収でき、12年で建設資金の全部を回収可能で、20年で1億ドル30年で2億ドルの収益を上げられる。スタジアムの建設によって新たな収入源が出来るため地元に負担を掛けなくても、そこから上がる収入によって建設資金が回収可能だ。

ということで、アメリカのスポーツフランチャイズは多額の資金をスタジアム建設の際、地元の自治体や州から得ている。これは日本のプロ野球などからすると羨ましい限りかもしれないが、同時に反発を招いている。NFL・MLBともに驚異的な収入の成長とともに利益も上げ続けている。その中で、益々地元の負担が増えつつあることに多くの研究者他の人たちが球団に対して批判的な立場を取るようになってきている。

このように、アメリカの球団が公的な資金をスタジアム建設に得られるのにはいくつかの理由がある。第一に、移転をチラつかせることによって自治体から資金を引き出している。次に、政治的な活動をリーグ全体として行うことによってスタジアム建設をリーグ全体で後押ししてきたことがある。最後に、日本との違いで言うと球団に企業名が使われておらずより公的な団体とみなされていることがある。

押していただけると、励みになります。


NFLフリーエージェント解禁

2009年02月27日 | スポーツビジネス

アメリカの2月27日にNFLの新たにフリーエージェントとなる選手との交渉と契約が解禁される。フリーエージェントというのは、昔は球団が保留権によって永遠に選手の権利を保有し続けることが制度を改革して、選手に移籍の自由を認めたものだ。アメリカでは、フリーエージェント制度によって多くの選手がこの時期移籍していくので毎年ファンの注目を浴びる。

日本のプロ野球においてもフリーエージェント制度が導入されているが、内容は少し違う。アメリカでは、MLB・NBAもそうであるが球団の保留権が消滅し移籍が自由になる制度である。しかし、日本の場合はむしろ権利を行使することによって移籍が許される制度と考えるほうが適当である。アメリカの場合は、保留権が消滅するのでそれ以後は契約が切れれば常にフリーエージェントとなるが日本の場合は一度行使すると移籍が出来るが、移籍先の球団が毎年保留権を持ち続けることになる。そのため、日本ではフリーエージェントの権利を行使せずに取っておく選手のほうが多い。

このように、日本とアメリカでは少し内容が異なるフリーエージェント制度であるが、これが生み出される原因となったのは保留権による選手の権利の低さだった。保留権による独占的な交渉権が与えられると、球団は自分達の要求を容易に飲ませることが可能だった。特に年俸を見てみるとフリーエージェント導入後選手年俸が上昇し、リーグの総収入に対して選手が受け取る割合も増加してきた。

こうしてフリーエージェント制度は選手の権利を拡充し、選手年俸を増加させるのに役立ったのだが、別の不均衡をもたらしてもいる。フリーエージェント選手とそれ以外の選手である。フリーエージェント選手が複数球団の競争によって年俸が決まるのに対して、まだフリーエージェントの権利を取得していない選手は球団が独占的に権利を所有して年俸を抑えることになった。結果として、フリーエージェント選手とそれ以外との格差は逆に拡大することになった。フリーエージェントの権利を持っていない選手は登録年数が少ない選手なので必然的に若手選手の年俸が安く、ベテラン選手の年俸が高く、若手がベテランに搾取されるという構造が出来上がった。

押していただけると、励みになります。


競技施設の経済学

2009年02月26日 | スポーツビジネス

プロスポーツの世界でよく知られていることに一つに、専用競技場を建てると収益が伸びるというのがある。理由は、専用競技場はその種目をするため、また観客がその競技を観戦するのに最適なように作られているので、お客さんの満足度が高まり、入場者数が増えたり、チケットの値段を上げることが出来たりするからだ。だから、専用競技場というのはプロスポーツを運営している運営団体にとって非常に大事なもので、人気を上げ収益を上げていくためには是非作りたいものなのだ。

しかし、もう一つよく知られている専用競技場に関する常識があって、それは専用競技場は効率が悪いということが知られている。これは当然で、一年中毎日毎日同じ競技を延々と一つの競技場でやっているわけではない。野球で140試合ほどの公式戦の半分がホームとして70試合、Jリーグだとホームが20試合ほど、大リーグでもホームは80試合程度、NFLにいたっては8試合しかない。つまり、一番たくさん試合をしている野球でさえ一年の5分の1前後、他の競技ではもっと少ない回数しか使用しない。その試合数で、専用競技場の建設費や維持費を賄うとなると一試合辺りの負担はかなりの金額になってくる。そのため、専用競技場は資本効率のかなり悪い物だと言えるだろう。

そのようなことがあるので、日本でもアメリカでも専用競技場は色々な問題を抱えている。その競技だけに特化してその競技の試合のみのために建設すれば顧客の満足度は上がるが施設の効率は悪くなってしまう。逆に、他の用途にも使えるように設計すれば、今度は本来の目的の競技の試合や観戦が最適でなくなってしまう。このトレードオフをどのように解決するかこれはスポーツビジネスの多きな課題の一つでもあるのだ。

日本のプロ野球団は、野球以外の用途にも球場が使えるように人工芝のドーム球場を多く採用している。これは、施設の利用効率を高めようという戦術だ。一方で、アメリカのMLBやNBA、NFLは公的な資金によって競技施設の建設資金を援助してもらっている。日本でもサッカー場は公的資金によって多くの場合建設されている。こうすると競技場としての価値は高まるが、地方自治体に経済的な負担がのしかかってしまう。どちらも一長一短だろう。

押していただけると、励みになります。


不可解なプロ野球球団運営帳簿

2009年02月14日 | スポーツビジネス

面白い記事を見つけたのでメモがてら

●収入(億円)         ●支出(億円)
年間シート    120.00   選手らの年俸   55.00
一般チケット   47.40   キャンプ遠征費  44.00
放映権       63.32   雑費        33.00
キャラクターグッズ他.  9.98   球団職員人件費  7.00
                 球場使用料    14.30
                 その他       62.70

総収入.      240.70   総支出.      216.00
経常利益     24.70

注)収入、支出ともに'08年3月期決算の数字

これは読売巨人軍の決算内容だが、総収入が240億もある。人気が衰えたといっても相当な数字だ。しかし注目は支出の方だ。選手の年俸は55億これはかなりの金額だが納得できる。問題は、それ以外の支出だ。キャンプ遠征費、雑費、その他を合計すると139億だ。選手年俸の2、5倍以上、怪しさ満点だ。何にそれだけ必要なのだろうか。経費を水増しして球団経営はそれほど儲かっていないように見せかけているのだろうか。資金が他の系列企業に流れているのだろうかと考えてしまう。総収入に占める選手年俸は25パーセントほどだが、日本のプロ野球全体でも30パーセント前後だ。意外と低いと感じるかもしれない。占める割合がこれだけしかないのだとすれば選手年俸が原因で経営が苦しいとはいえないしだろうし、新人の契約金が高く経営を圧迫しているとはもっといえないだろう。所属年数の少ない選手の年俸は安く、さんざん搾取しているのだから。

これと比較のためにネットで見つけてきたMLB情報のリンクをちょっと見てみよう。これは総収入に対して、選手年俸がどれくらいの割合を占めるかを示した図だ。

% or Revenue spent on Payroll
79% Washington Nationals
79% Chicago White Sox
74% New York Yankees
70% Los Angeles Angels of Anaheim
67% Toronto Blue Jays
66% Detroit Tigers
62% Minnesota Twins
60% Houston Astros
60% Boston Red Sox
59% Los Angeles Dodgers
59% St Louis Cardinals
57% San Francisco Giants
56% New York Mets
56% Atlanta Braves
55% Chicago Cubs
53% Oakland Athletics
53% Philadelphia Phillies
52% Milwaukee Brewers
51% Seattle Mariners
49% Baltimore Orioles
48% Cincinnati Reds
48% Texas Rangers
47% San Diego Padres
45% Kansas City Royals
44% Arizona Diamondbacks
43% Pittsburgh Pirates
40% Cleveland Indians
32% Tampa Bay Devil Rays
31% Colorado Rockies
15% Florida Marlins

前に言ったようにMLBの選手年俸の割合はここ最近は平均だと51パーセントから55パーセントくらいだ。これでも記録的な利益をオーナーが上げて話題になったほどだ。これと比べると、日本のプロ野球の選手分配率の低さがわかる。プロ野球団が経営が下手だったり放漫経営をしているのか、親会社が帳簿を上手くごまかして利益を吸い上げているのかはわからないが、日本のプロ野球の帳簿が不可解であることには代わりがない。

押していただけると、励みになります。


MLBがサラリーキャップを検討?

2009年01月20日 | スポーツビジネス

MLBのオーナーの一部がサラリーキャップの導入を希望しているようだ。鈴木友也氏のブログにも記事が出ているが、いろいろと課題があるようだ。このような声が一部のオーナーから出たのには、「この不況にも関わらず既にヤンキースが5億ドル(約450億円)を超える大型補強を行っている」のが非常に大きな影響を与えているのだろう。あまりにも、ヤンキースとそれ以外との財力の差が大きく、戦力差に対する危惧が出てくるのは当然だろう。

しかし、選手会としてはサラリーキャップの導入には、オーナー側が財務内容を公開することを要求するだろう。完全に利益等すべてを公開する必要はないとしても、MLBの財務内容は、周辺ビジネスへの利益移転(一番大きいのは提携関係にある地元放送局やケーブル会社)によって大きく粉飾されているので、まずそれを公開しないと前には進まないだろう。

サラリーキャップ自体は、サラリーフロアやレベニューシェアリングと合わせれば、必ずしも年俸を抑制する制度ではないので(「サラリーキャップは年俸を抑える?」と「サラリーキャップが年俸抑制政策ではない理由」参照)、選手会としても合意できない内容ではない。しかし、高収入クラブはレベニューシェアリングに反対するだろうし、低収入ながら低コストで利益優先で運営されている球団はサラリーフロアによる利益の減少を嫌うだろう。かといって、サラリーキャップだけを導入することは選手会にとってあまりにも不利な内容なので合意を取り付けることは難しいだろう。

サラリーキャップ、サラリーフロア、レベニューシェアリングの三つが上手く組み合わせて導入されれば、リーグとしては大きな恩恵を得ることになるだろう。その恩恵を最も得るのは、選手全体か中規模の球団かと思われる。しかし、選手会が恩恵を受けるかどうかは、合意内容に大きく左右されるのでコミッショナーのリーダーシップが必要なのではないだろうか。後一つ、選手会を牛耳る一部高年俸選手がリーグや選手全体の利益を無視して、高収入クラブが高年俸を出せるようにすることを優先するのはいい加減やめてもらいたいものだ。

野球もサラリーキャップが必要だと思う方はどうぞご協力を。


ジョン・グルーデン解雇

2009年01月17日 | スポーツビジネス

NFLのタンパベイ・バッカニアーズのヘッドコーチ、ジョン・グルーデンが解雇された。昨年、終盤に4連敗を喫してプレーオフを逃し、非難の声も出ていたがこの解雇は予想されてはいないものだった。この解雇の理由の一つには、今期でディフェンスコーディネーター(守備の総責任者、以下DC)のモンテ・キフィンが、息子のレイン・キフィンと一緒にコーチするためにテネシー大に出て行ってしまうというのがある。モンテ・キフィンは名DCと知られ、強固なタンパベイディフェンスを構築し、スーパーボール制覇に貢献した。むしろ、ジョン・グルーデンではなくモンテ・キフィンのディフェンスがスーパーボールをもたらしたとさえ言える。

バッカニアーズのように、ヘッドコーチの下にいるコーディネーターがチームの成績に大きな役割を果たしているチームは他にもいくつもある。フィラデルフィア・イーグルスのDCジム・ジョンソン、ピッツバーグ・スティーラーズのDCディック・ルボー、インディアナポリス・コルツのオフェンシブコーディネーター(攻撃の総責任者、以下OC)トム・ムーア、ニューヨーク・ジャイアンツのDCスティーブ・スパグニュオーロ等たくさんいる。これらの優秀なアシスタントコーチを擁することがヘッドコーチやチームが好成績を挙げるのに重要な要因の一つになっている。

しかし、問題は報酬体系がまったくそのような考えを元にしていないことである。ヘッドコーチの年俸が他のアシスタントコーチの年俸と比べて異常に高く、ヘッドコーチ一人で何でも出来る、少なくとも優秀なヘッドコーチを雇えば、ヘッドコーチが他の優秀なアシスタントコーチをつれてきてくれるから大丈夫だというような報酬額になっている。NFL全体で見ると、大体コーチ陣に払われる報酬総額の約半分をヘッドコーチの報酬として支出し、残りを十五人程度のアシスタントコーチで分配する形になっている。DCやOCは、より多く貰っているし、優秀なコーチだと他のコーチよりもより多く貰っている。それでも、ヘッドコーチと比べると、概ね少ない。

しかし、実際の成績をあげるには優秀なアシスタントコーチが必要である。そして、その優秀なアシスタントコーチを失ってしまったことが一つの原因となって、ヘッドコーチが解雇されてしまった。これが今回の話の面白いところだが、こんなにモンテ・キフィンが重要ならもっと先手を打ってずっといてもらえるように出来なかったのか、あるいはそれならヘッドコーチが役に立ってなかったのではと、いうふうに思えるのである。

こんな珍事件もあるのかと思った方はどうぞ。


サラリーキャップが年俸抑制政策でない理由

2009年01月12日 | スポーツビジネス

この前の記事の続きです。

リーグ全体の収入に占めるMLB選手の取り分が52パーセントである一方、NHL選手は56,7パーセント、NBA選手は57パーセント、NFL選手は59パーセントに上ったことを紹介した。サラリーキャップが年俸を抑制すると考えるとハードキャップ(絶対に一定額以上選手のサラリーに支出することが禁止されていること)のNFLが一番取り分が多いのは不可思議だ。

このようなことが起こったのは、サラリーキャップがあったとしても他の制度との兼ね合いで必ずしもサラリー全体が抑制されるとは限らないという事実がある。まず、サラリーキャップ制度に関係するものとして、サラリーフロアとレベニューシェアリングがある。レベニューシェアリングは球団間でリーグ全体の収入を共有し、平等に配分しようとする制度だ。これがあると、地方の球団でも大都市の球団の入場料収入から配分があったり、放送権料が同じように配分されたりするので、その分収入が増え予算の不均衡が抑えられる。サラリーフロアというのは、各球団は必ず最低限これだけは選手の年俸に支出しなければならないというリーグと選手会との合意に基づく制度だ。これがあると、どの球団も一定額支出しなければならないので一部の球団が年俸を極端に抑えて利益を上げることを阻止できるために、選手の分け前が増えることになる。

サラリーキャップ、サラリーフロア、レベニューシェアリングがともに採用されていると、サラリーキャップがあったとしても必ずしも選手の給与が抑制されるとは限らなくなる。レベニューシェアリングがあると、弱小球団でも収入が得られるので選手に多くのお金を出すことが出来るようになる。また、サラリーフロアがあるから最低限いくらかは出さないとけない。気づいた人もいるかもしれないが、レベニューシェアリングとサラリーフロアは関係している。レベニューシェアリングがないと、サラリーフロアは実行できないし、サラリーフロアなしでレベニューシェアリングするとただ乗りして、選手の年俸に支出せずに利益として計上する球団が出てくるかもしれない。だから、この三つは、三つ合わせて戦力均衡を実現しつつ、選手が一方的に不利にならない制度に出来上がっている。

この三つの制度が上手く機能すると、収入の多い球団の総年俸をサラリーキャップによって抑えつつ、それをレベニューシェアリングによって貧しい球団に振り分け、サラリーフロアによって選手年俸に使わせる。結果として、選手の取り分は同じようなものかもしれないが、戦力均衡は実現されリーグは繁栄することになる。非常に上手い制度だといっていいだろう。たった一つの問題は、レベニューシェアリングは高収入球団が最も嫌うことだということだけだ。

このようなメカニズムで、今年はサラリーキャップを採用しているリーグのほうが選手の取り分が多くなったというのが記事のようなことが起こった理由だ。

この記事がためになった人、プロ野球もこのような制度を採用すべきだと思う人、とりあえず協力してくれる人は、押してください。