※関連した過去動画
【孔子①】中国思想解説#3【儒教】
動画の書き起こし版です。
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孔子の思想の多くは【論語】に残されています。 論語は、孔子が直接書いたものではなく、 孔子と、孔門十哲と呼ばれる優秀な弟子たちの言葉を 孔子の死後に取りまとめて編集したものです。 全10巻、20篇にわたるこの書物は、必読書として重宝され 朱子学の創始者である朱熹が【四書】の一つと定めたことにより 国の運営に関する必須科目にもなりました。 孔子の思想の中心には【仁】と【礼】という概念があります。 【仁】とは『人を愛する心』 【礼】とは『仁が形となって現れたもの』のことです。 つまり『思いやりの気持ちを持って、礼儀正しく生きること』 これを目指しましょうと言ったのです。 孔子は、仁と礼のうち、どちらかが欠けていてもダメだと考えました。 思いやりを持っていてもそれが行動に現れなければ、 【礼】が欠けていることになります。 また、礼儀正しくてもそこに思いやりがなければ 【仁】が欠けていることになります。 仁を持つことによって、礼が現れる。 礼を行うことによって、仁が守られる。 孔子は、この両者に優劣をつけずに、どちらも重要視しました。 これについて論語では 『【克己復礼】己に克ちて、礼に復るを仁となす』 (私利私欲を抑えて礼を実践し、仁を守る) と表現されています。 思いやりがあって、次に礼儀作法があるのではなく、 礼儀作法があって、次に思いやりがあるのでもなく、 この二つの概念は双方向に影響し合うものであり お互いを満たすことによって初めて両者が実現されるのです。 克己復礼を繰り返すことによって、 仁の完成を目指すことを孔子は道に例えました。 道の終着点には当然完成された仁が存在します。 少し極論になりますが、孔子の教え、翻って儒教の教えとは この道の歩み方を説くものだと捉えることができます。 孔子は 『朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり(子曰、朝聞道、夕死可矣)』 と語ったといいます。 もし今日道について悟ったならば、もう死んでも良い。 彼がどれほど仁と礼を大事にしていたのかがわかる言葉です。 孔子の弟子が語ったとされる言葉に 『孝悌なる者は、其れ仁を為すの本か』 というものがあります。 これは、両親を敬う心(孝)、兄を始めとする年長者を敬う心(悌)は 仁の基本である。という意味です。 孔子の説いた仁には孝と悌を始めに 他者を思いやる心である【恕】 自分を欺かない心である【忠】 他者を欺かない心である【信】 などの要素があります。 その中でも【孝悌】が最も尊いものであり、人間の原始的感情である。 このような基本的な愛から、【恕】【忠】【信】といった 要素に発展していくものだと考えられたのです。 日本を含めたアジアの国々においては、家族の上下関係や 年長者に対する礼儀作法が欧米諸国に比べて厳しい傾向があります。 孔子の教えが2000年以上の時を超えて、我々の世界に影響を与えていると思うと 何か不思議な気持ちになりますね。 孔子は、仁と礼の思想を政治にも当てはめました。 これが【徳治主義】という考え方です。 良い社会を作るためには王自らが仁と礼を兼ね備えた君子である必要がある。 王が徳を持った人物でさえいれば、それに民衆は感化され、 民衆も自然と仁と礼を大事にするようになる。 当然社会はより良いものになっていく。 このような統治の仕方のことを【修己治人】と呼びます。 孔子が生きた時代は、国の秩序が乱れ 各地方の権力者が争いを繰り返す戦国時代でした。 そんな環境において孔子が説いたのは 『過去に安定していた時代の復興』です。 そのロールモデルは平和だったときの周王朝であり 堯舜禹の時代でもあると考えることができます。 孔子の母親は『儒』という祭祀儀礼を職業と行う集団に身を寄せていました。 孔子もそれに倣って、祭祀儀礼のスペシャリストであったと言われています。 そのため、秩序の乱れた世の中において、祭祀儀礼が蔑ろにされることを懸念し 礼の重要性を政治に当てはめた。と予想することもできます。 どちらにせよ、孔子が説いた仁と礼の思想はその後 孟子と荀子という天才に引き継がれ、さらに発展します。 孔子の言葉に『未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん』 というものがあります。 まだ生きることというのがどういうことかが分かってすらいないのに、 どうして死のことなど知っていようか 孔子は徹底的な現実主義者であったと言われています。 超自然的なことには一切触れずに、現実に根差した思想の展開をしました。 同時代の仏教、古代ギリシア哲学と比べても、 非常に現実的で実用的な思想なのがわかると思います。 同時に、現実的だからこそ政治利用しやすい側面もあり それが祟って他の学派から批判される原因にもなりました。 しかし、その批判も働いて諸子百家の思想は更に発展します。 そういう意味でも、孔子は中国思想の祖であり、 世界四大聖人に数えられるのも納得だと感じます。
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