家格、共同幻想、同調圧力:守護職と九州探題から見る正当性の源泉

2022-11-12 12:28:28 | 歴史系
 
 
 
 
 
 
 
 
昨日取り上げた鎌倉時代について、「北条氏はなぜ将軍にならなかったのか?」という問いがよくなされるが、いわゆる「得宗専制」の時代になってさえ彼らがその選択を採らなかったことは、家格やそれに基づく支配の正当性という意識(共同幻想)がそれだけ強かったことを物語っている。すなわち、いくら権力を集中させたとしても、源氏の外戚である以外はただの地方豪族に過ぎないという出自が明確であり、それで御家人+αを統治する資格があるとはみなされないだろうと認識していた、ということである(注)。
 
 
こういった家格と権威、正当性の問題は実に様々な場面で見られる。鎌倉時代で言えば「御家人は平等」という観念が存在したが、冒頭に挙げた動画からは、「守護」というポジションが単なる役職ではなく家格や将軍直臣という資格を要すること、あるいは九州探題という幕府の組織が自らにお墨付きを与えるメリットを持っていたがゆえ大内氏や大友氏といった在地勢力によって温存されたことがうかがえる。
 
 
このような行動が、室町時代はもちろん、いわゆる「下剋上」でイメージされるような戦国時代の前期(将軍自身が家格破壊を行った足利義輝より前)においてさえ見られることは注目に値する。北条氏の件もそうだが、「同じ武士である=同じ武士でしかない」からこそ、周辺勢力から一歩先んじる・出し抜くための根拠の要請がそれほど強かったことが理解されるからだ。その一つが「家格」という正当性であり、現代の目から見れば一種の「共同幻想」として機能したのだろう(これについては呉座勇一『戦争の日本中世史-下剋上は本当にあったのかー』なども参照。犯罪そのものが減少した現在の報道のあり方もそうだが、「下剋上」とはそれが少ない=インパクトがあったからこそエピックとして語り継がれ、あたかもそれが当然のもののように後世誤解されてしまったのではないか。これは「革命者」信長の虚像の作られ方とも通じるものがある)。
 
 
考えてみれば、こういった現象はそこかしこに見られる(平等観念・同調圧力と、それゆえに差別化の欲望という点では今日の日本社会にも通ずるように思える)。戦国以降の武家政権による清和源氏への牽強付会、「四民平等」となったはずの明治期に見られた家系図捏造などを例に挙げることができるが(「平等」だからこそ差異化を図りたがる)、まあその最たるものが天皇家という家格であろう。ゆえに、そこから賦与される諸々の役職が自身のポジションに正当性を与え、周囲との差別化の根拠になるわけで、そのお墨付きの源泉ゆえにいつの時代も天皇という「共同幻想の発生装置」は葬り去るより維持されてきたものと思われる(もちろん、公地公民の時代ですら律令は実態との乖離が様々見られる=建前という側面を多分に持っていたわけで、こういう観念がそのまま実態とイコールと考えるのは単純に誤りである)。
 
 
そのような日本の歴史を考える上でも、権威と正当性観念及びその強固さという意味で今回の守護職と九州探題の事例は改めて興味深いものであると強調しておきたい。
 
 
 
(注)
「共同幻想」とは書いているが、こういうものについては、どこまでが合理的戦略(自分は価値がないと思うが周囲はそれに価値を見出すのでそれを利用する)でどこまでが実際にそう思っていたかを判定するのは難しいとこがある。ちなみに鎌倉末期では過剰とも言える前例踏襲主義が見られるようになるが、それも正当性の担保とそれに基づく保身が目的だろう。
 
まあ権門体制を軸に「天皇からの任命」というものを権力の源泉と考えた場合、天皇に近い皇族将軍などより北条家が優越するという発想は起こりえなかっただろうとは思われる(言うまでもなく、北条氏に清和源氏のような皇家とのつながりもない)。
 
確かに北条家は鎌倉武士団の中ではトップかもしれないが、それは御家人たちの合意の上に成立しているものでしかなく、また鎌倉初期の30年ほどではないにせよ、宝治合戦や霜月騒動などの権力闘争は断続的に起こっており、鎌倉幕府は凪のように安定していたわけではなく、常に火種は存在していたのである。
 
熾烈な戦いを経て執権の座を獲得した北条氏なればこそ、その地位の危うさもまた理解していたのではないか。ゆえに、己が将軍を名乗ろうとする行為は、必死に蓋をした私的武力集団という火薬庫の中に自ら火種を投じるようなものであり、そうして起こる反発は一派閥を超えた同時多発的レベルとなり、北条家が滅亡するリスクが高いことを十分に理解していたのではないだろうか(例として和田合戦と宝治合戦が同時に起こった状況を想定をしてみるとよい)。

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