goo blog サービス終了のお知らせ 

菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

秘密保持条項(Confidentiality)(4)

2012-03-25 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第19回
(4-1)秘密保持義務の期間

 契約の有効期間内に秘密保持無義務が存続することは当然だが、問題は契約終了後の効力である。秘密情報の財産的価値というものは、その契約期間にかかわらず、ひとたび公開されれば失われてしまうからである。そこで、秘密保持義務が契約終了後も存続するとの条項が定められる。

 Confidentiality clause of this agreement shall survive the termination of this Agreement.
(本契約の秘密保持条項は、本契約の終了後も効力を維持する。)

 技術革新の進展が著しい現代において、期限の定めのない(または10年を超えるような長期間の)秘密保持条項は、当事者に無用な負担となるばかりでなく、それを遵守させることも現実的ではない。したがって、通常は「契約終了後3年間存続する」などと定める場合が多いであろう。


(4-2)秘密情報の管理体制

 秘密保持条項の基本は、「第三者に秘密情報を開示しない」というものだが、その実効性には限界があるため、さらに具体的な内容を定めることがある。

 たとえば、管理責任者を指名して、相手方に通知することを定めることが考えられる。一般に「連帯責任は無責任と同じ(everybody’s responsibility is nobody’s responsibility)」などと揶揄されるが、個人を責任者に指名しておけば、責任の質が若干なりとも向上するからである。また、秘密情報を管理・保管する場所を定め、秘密情報およびそのコピーに「厳秘」等の表示を義務づけ、秘密情報の管理状況を調査する権限を付与するといった工夫も検討できよう。


(次回に続く)

秘密保持条項(Confidentiality)(3)

2012-03-07 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第18回
(3)秘密保持義務を負う人的範囲

 どこまで秘密保持義務の人的範囲を及ぼすべきかは、実務的に重要な問題である。
 秘密保持条項を定めた場合、契約当事者が秘密保持義務を負うのは当然だが、当事会社の役員、従業員、下請業者など、当事者以外にも秘密情報に接する者はいる。しかし、こうした個々人との間で直接に秘密保持契約を締結することは、およそ不可能に近い。
 そこで、契約当事者が秘密情報を開示できる場合と人的範囲を限定する。

 The recipient party may disclose the Confidential Information only to such party’s employees who have a need to know such Confidential Information and only to the extent necessary.
(開示を受けた当事者は、その当事者の従業員で秘密情報を知る必要があるものに対してのみ、かつ必要な範囲においてのみ、秘密情報を開示できる。)

 さらに、契約当事者が役職員等に秘密情報を開示する場合には、当該個人との間の「秘密保持契約」締結を義務づけておく。

 The recipient party shall enter into a confidentiality agreement with the employee to whom the Confidential Information is to be disclosed in accordance with the preceding paragraph.
(開示を受けた当事者は、前項に従い秘密情報を開示しようとする場合には、開示を受けようとする従業員との間で秘密保持契約を結ばなければならない。)

 こうした条項を設けた以上、当該役職員との間の秘密保持契約ないし誓約書を用意しておく必要があろう。秘密保持契約書には、①秘密情報が記録された媒体の複製禁止、②秘密情報の社外への持出・送信の禁止、③秘密情報の適正管理と管理への協力、④退職時の記録媒体の返還等の各条項を規定することとなる。
 なお、就業規則に包括的な秘密保持義務を定める例も多いが、退職従業員にはその効力が及ばない。そこで、秘密保持契約や退職時誓約書などに雇用契約終了後も秘密保持義務を負わせる旨の条項(hold-over clause)を盛り込むことがある。ただし、あまり長期間に及ぶ包括的な義務規定に対しては、不当に職業選択の自由(憲法22条参照)を制約するものと指摘される場合があるから、一応の注意が必要である。


(次回に続く)

秘密保持条項(Confidentiality)(2)

2012-02-25 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第17回
(2)対象となる情報の範囲

 たとえ秘密保持条項を設けたとしても、秘密保持の対象となる情報の範囲を単に「秘密情報(Confidential Information)」と規定するだけでは、当事者間で疑義が生じ、後に紛争を招きかねない。したがって、いかなる情報が契約上の秘密情報に該当するかを明確にするように、秘密保持の対象をできる限り特定する必要がある。
 たとえば、これを一般的に定義づけるならば、次のような表現になるであろう。

 Any technical, commercial or business information which has proprietary value and which is not open to the public.
(技術上、営業上、事業上の情報で、財産的価値を持ち、公開されていないもの。)

 ただし、秘密情報の定義に形式的に該当しても、当事者に秘密保持義務を負わせることが適当でない場合もある。たとえば、公開されている情報や、法令によって開示が要求されている情報などがそれである。したがって、そうした情報については、例外的に義務を免除しなければならない。

 Any information which is or becomes public domain;
Any information which the recipient party has already owned at the time of disclosure or later independently develops; or
Any information which the recipient party legally obtains from a third party without the obligation of confidentiality.
(公知の情報または後に公知になった情報、
開示を受ける当事者がすでに有していた情報または後に独自に開発した情報、または、
開示を受ける当事者が第三者から適法に取得し、秘密保持義務を負わない情報。)

 また、秘密情報について、より具体的に、かつ可視的に定義する場合もある。

 If disclosed by means of document, disk or other tangible media, any information which is clearly marked by the disclosing party as “confidential”.
(書類、ディスクなど有形の方法により開示された場合は、開示する当事者が「秘密」と明記したもの。)


(次回に続く)

秘密保持条項(Confidentiality)(1)

2012-02-07 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第16回
(1)秘密保持条項の4要点

 秘密保持条項とは、取引に関する重要事項、営業、業務、技術上の秘密などの漏えいを防止する規程である。技術援助契約やライセンス契約などには必ず盛り込まれているが、すべての契約に規定される一般条項というわけではない。

 Neither party hereto shall, without prior written consent from the either party, disclose to any third party the Confidential Information received from the other party in the course of performance of this agreement.
(いずれの当事者も、相手方の書面による同意なしに、第三者に対し、本契約の履行の過程で相手方から取得した秘密情報を開示してはならない。)

 秘密保持条項で重要なのは、①秘密保持の対象となる情報の範囲(何を)、②秘密保持義務を負う人的範囲(誰が)、③秘密保持義務の期間(いつまで)、④秘密情報の管理体制(どのように)の各点である。


(次回に続く)

分離条項(Severability)

2012-01-25 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第15回

 分離条項とは、次のように、契約書の中の一部の条項が無効でも、そのほかの条項の効力には影響しないということを定めるものである。

 If any provision of this Agreement is later hold invalid, the remaining provisions shall continue to be valid.
(本契約書中の一部の条文が後に無効と判断されても、残りの条項は引き続き有効である。)

 特に国際取引においては、分離条項を規定しておかなければ、不都合が生じる場面が想定される。たとえば、不誠実な当事者の場合、意図的に自国法では無効と解釈されるような条項を契約書に混入させておきながら、契約締結の後、当該当事者にとって問題となる事象が発生した時点で、かかる条項の存在を理由に契約の無効を主張し、自らの義務を免れようとする可能性は否定できない。

 たとえ分離条項がなくても、禁反言(estoppel)* や信義則違反によって処理することもできなくはないが、後日の無用な紛争を回避するためには、あらかじめ契約に規定しておくべきであろう。


*禁反言とは、衡平法(equity)に由来する原則であり、自己の表明した事実を相手方が信頼して行動したときには、これに反する事実を主張することが禁止されるという法理である。


(次回へ続く)

放棄条項(No Waiver)

2012-01-07 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第14回

 放棄条項とは、相手方当事者に契約上の不履行があった場合、たとえ当該不履行に対して行使できるはずの権利を行使しなかったからといって、その当事者の権利が放棄されたとはみなさない、という条項のことである。国内契約書では規定されることがほとんどない条項だが、英文契約書には一般的な条項である 。

 No waiver of any right hereunder shall be deemed to be a waiver of the same right on any other occasion.
(本契約に基づく権利をいったん放棄しても、それは他の機会における同じ権利の放棄とはみなさない。)

 たとえば、賃貸借契約上、「賃借人が2カ月以上の賃料の支払いを怠ったときは、賃貸人は、賃借人に対し、何らの通知・催告を要せず、直ちに契約を解除することができる」という定めがある場合、賃借人が3カ月遅滞して過去分の賃料を支払ったが、賃貸人が特段の異議を申し立てなかったとする。その後、賃借人が再び賃料支払い怠ったため、賃貸人が賃借人に解除を通知した場合にも、仮に賃借人側から「賃貸人は、前回も遅滞した賃料を異議なく受領したのだから、その解除は無効である」と主張できるとするならば、賃貸人は到底これを許すことができないであろう。

 そこで、このような主張を遮断するために、あらかじる契約に放棄条項を規定するのである。これにより、相手方の不履行に対し、たとえ契約上の権利を行使しなかったとしても、その後の不履行を容認したことにはならないことを明示したことになる。

 国際取引契約には放棄条項が一般条項として規定されるのが通例であることから、その反対に放棄条項を盛り込んでおかなければ、不誠実な債務者から「権利放棄を容認する意思あり」などと主張される危険性もあるため、注意が必要であろう。


(次回に続く)

修正条項(Amendment or Modification)

2011-12-25 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第13回

 契約の修正・変更の方法には、原則的として制限がないため、口頭でも書面でも修正が可能である。しかし、書面によらない修正・変更は、後日の紛争のもとであるから、契約の変更も書面で行わなければならないと規定するのが通例である。

 This Agreement shall not be modified except in writing signed by both parties.
(本契約は、両当事者のサインした書面によらず変更できない。)

 なお、英米法を契約上の準拠法(governing law)とし、詐欺防止法(Statute of Frauds)*によって契約の書面化が要求される場合には、注意が必要である。口頭による契約変更が行われると、取引全体が文書化されたことにならないと解釈され、契約全体が法的効力を失う場合があるからである。


* Statute of Fraudsとは、一定の契約について裁判上強制可能(enforceable)とするためには必ず書面によらなければならないという法原則である。英国では1677年に制定され、米国もこの原則を承継している(U.C.C. §2-201参照)。


(次回に続く)

譲渡条項(Assignment)(3)

2011-12-07 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第13回

3 事業譲渡の場合

 事業の譲渡も、実務的な検討を要する課題である。一方当事者が事業譲渡する場合は、会社合併のような包括承継と異なり、譲渡される事業に属するすべての資産・権利義務が個別的に承継される。したがって、相手方当事者の同意がなければ、契約上の権利を移転することができない。

 たとえば、当方側に事業譲渡を行う可能性がある場合、事業譲渡に伴う契約上の権利義務の移転には、相手方の承諾を不要としておきたいであろう。このような場合には、無条件で移転できるような但書(”except to any legal person acquiring all or substantially all the business and assets of such Party.”)を付しておくことが考えられる。

 契約交渉の過程において、仮に相手方当事者が承諾不要の要求に応じない場合には、次のような規定を検討するとよい。

 The other party shall not withhold such approval without reasonable ground.
(相手方は、合理的な根拠無しに承諾を拒否してはならない。)

 こうした歯止めをかけておくことにより、合理性のない承諾拒否を排除することができる。何をもって合理的(reasonable)であるかは解釈問題だが、少なくとも合理性をめぐって相手方と交渉する余地は残されている。


(次回に続く)

譲渡条項(Assignment)(2)

2011-11-25 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第12回

2 子会社への譲渡の場合

 完全子会社(wholly-owned subsidiary)に対する契約譲渡の場合などは、例外的に相手方の同意がなくても譲渡できると規定することも多い。
 ただし、たとえ完全子会社であっても、その弁済資力や技術力が親会社とそれとまったく同一であるわけではない。したがって、これらの諸点に不足が認められる場合には、そのための保全策を検討しておく必要があろう。

 たとえば、譲渡人にも債務不履行による損害賠償責任(”However, in such event, Assigner shall remain liable hereunder for any breach of this Agreement.”)や履行保証(”Assigner shall cause such Assignee to perform this agreement as fully and effectively as if were performed by Assigner and Assigner shall guarantee such performance.”)を課すように措置することが考えられる。

 このことは、合併のごとき権利義務の包括承継の場合にも同様である。


(次回に続く)

譲渡条項(Assignment)(1)

2011-11-07 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第11回

1 譲渡禁止の趣旨

 契約実務では、契約交渉の過程で契約相手方の信用・弁済資力・債務履行能力等を総合的に判断し、その締結に至る。したがって、一方当事者の知らない間に契約上の権利・義務が譲渡されたならば、他方当事者は不測の損害を被る可能性がある。そこで、契約の譲渡を制限する旨の条項を規定しておく必要がある。

 Neither party hereto may assign to any third party this Agreement or any right or obligation under this agreement without prior written approval from the other party.
(いずれの当事者も、相手方の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に対し、本契約または本契約に基づく権利もしくは義務を譲渡してはならない。)

 このように「相手方の同意がない限り譲渡できない」旨を定めておくのが一般的である。これに違反した場合には、重大な契約違反(material breach of contract)として解除(termination)事由となると解釈すべきである。


(次回に続く)