菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

法律英語の特色(1)

2012-08-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第24回
 shall, will, mayの用法

 英文契約では、”shall”や”may”などの助動詞が多用されるが、これらの意味は日常英語とは異なっているため、注意が必要である。

“shall”は、単なる未来を示すのではなく、契約上の義務〔…しなければならない〕を表す助動詞である。また、”shall not”は禁止〔…してはならない〕を意味する。ちなみに、契約で”must”はほとんど使用しない。

 契約書では“will”を用いることがあり、これも”shall”同様に義務を表すが、”will”には法的強制力がない場合も含み得る。

 これらに対して、“may”は、権利(right)・権限(power)〔…することができる〕を表す助動詞である。なお、”may”に代えて”is entitled”という用語が使われることもあるが、その場合には法的強制力を伴わない意味で用いられていることが多い。

(次回に続く)


『宮戸川』 若い二人の馴れ初めに

2012-08-17 00:00:00 | 落語と法律
新・落語で読む法律講座 第20講

 小網町にある質屋の倅(せがれ)半七は、将棋に夢中になって帰りが遅くなってしまったが、毎晩のように遅いので、親父から締め出しを食ってしまう。
 隣家の船宿の娘お花も、カルタ取りに夢中で帰りが遅くなり、同じように母親から締め出されていた。

       
 
 半七は霊岸島の伯父のところへ泊めてもらおうと向かうが、行くところのないお花が無理やりついて来てしまう。
 突然の二人の訪問に、酸いも甘いも噛みわけた伯父さんは、すっかり勘違いし、二人を二階にあげてしまって、一緒に寝かそうとする。
 
 階下では、二人の仲を早合点した伯父さんが、自分が仲人することなどを考えていた。そのうち、伯父夫婦が自分たちの若いころのことを思い出し、伯父さんが「婆ぁさん、おまえもあの年ごろは文金の高島田で、いい女だったなぁ」などと言うと、伯母さんも「お爺さんもいい男でしたよ。あのころは、お爺さんが十八で、わたしが十七のひとつ違い……しかし、おかしいじゃありませんか……いまだにひとつ違い」、「ッて、あたりめぇだよ」。
 
 二階のほうでは、困った半七が、蒲団の真ん中に帯を伸ばして境界線代わりとし、お花と背中合わせに寝ようということになる。

       

 人生意外なきっかけから、思いもよらないことになる。
 これが色事となれば、なおさらだ。半七にしても、もちろんお花だって、この晩までは、それほどお互いを意識していたわけではない。ところが、ヒョンなことで、ヒョンなことになってしまった。
 噺のなかでは、半七とお花の年齢は不詳だが、おそらくは伯父夫妻の思い出話と同様で、17、8の、今様にいえば未成年なのだろう。
 わけ知り顔の伯父さんが仲を取りもってくれたとしても、実の親としては「まだまだ若い」と反対したいところかもしれない。
 法律では、満で数えて、男は18歳、女は16歳になれば、結婚できることになっている(民法731条)。
 しかし、未成年者が婚姻する場合、父母の同意書がなければ、婚姻届は受理されない(同737条)。
 
 父母の同意が必要なのは、思慮が十分に熟していない未成年者が、婚姻の何たるかも分からずに、軽率に結婚するのを防ぐのが目的である。
 そして、正式に婚姻すれば、二人は成人に達したものとみなされる(民法753条)。
 いったん結婚した以上は、社会でも一人前に扱うべきだということだ。
 
 ところで、父親と母親との間で意見が異なっていたらどうだろうか。
 たとえば、親父だけが意固地になって反対しているというような場合である。
 そのときは、父母の一方の同意書さえ添付されていれば、婚姻届が受理されることになっている。

 このことは、たとえ父母が離婚していても同様だ。
 離婚によって親権者ではなくなったほうだけの同意でもいいとされている。
 つまりは、相談すべき父母がいるならば、少なくともその一方の同意を得なければならないとしたのである。
 もし、半七が18歳未満、あるいは、お花が16歳未満であったならばどうなるか。結婚の適齢期に達していない者の婚姻届が提出されても、これを受け付けないことにはなっている。
 しかし、仮に誤って届出が受け付けられた場合には、当事者・親族・検察官のいずれかが、裁判所に取り消しの裁判を申し立てて取り消すまでは、そのまま効力が認められ、元に戻ることはない(民法744条)。

     

 半七とお花の二人が、なかなか蒲団に入ることもできずにいると、外では激しい雨が降りだしてきた。
 いきなり鳴った雷の音に驚いたお花が、悲鳴をあげて半七の胸元にとびこんでくる。木石ならぬ身の半七も、お花を抱きしめる腕にグゥーッと力が入った。
 真っ暗な部屋の中、稲妻の光が抱き合う二人を照らしたとき、お花の裾の間から伸びた真っ白な足が眼に入り、半七は思わず……
 この後は、本が破れて読めなくなっちゃった。


          

【楽屋帖】
 宮戸川とは、隅田川下流の旧名。山谷掘から駒形あたりの流域を指す。
 この噺は、正徳二(1712)年、同名のお花・半七という男女が京都で心中した実際の事件を、近松門左衛門が浄瑠璃『長屋裏女腹切』に仕立てたのが原型である。本話の後編において、半七の転寝(うたたね)の夢の中で、お花が暴漢にさらわれて宮戸川に投げ込まれることから、この題名がついている。
 五代目志ん生最後の弟子である圓菊や先代圓楽の高座が楽しいが、本話のとおり、いずれも転寝の場面までは口演していない。
 平成15(2003)年10月1日朝、千葉市内の墓地駐車場で、飲食店アルバイトだった少女(16)が頭を鈍器で強く殴られて殺害され、遺体を焼かれた状態で発見された。犯人の男は、被害者の戸籍上の夫(22)。実は、姓を変えて借金を重ねるため、未成年の結婚に必要な親の同意書を偽造して、少女と偽装結婚していたのである。男は、少女に「偽装結婚を警察にばらす」と言われたことに腹を立て、仲間の少年4人と共謀し、少女の頭を石や金づちで殴るなどして殺害したとして起訴され、無期懲役の判決が下った。これが世にいう「千葉少女墓石撲殺事件」である。

自ら信ずるには

2012-08-09 00:00:00 | 伝える言葉
◆伝える言葉(8)◆


 自負傲慢は固より忌むべきなれ共、自ら恃(たの)み自ら信ずるは亦(また)人の一得なり。     (福澤諭吉)



 福澤(諭吉)先生は、当時米国に留学中の長男一太郎に対して「自分の能力を高く買いすぎるのも困るけれども、自分を正しく評価し、自分を頼むこともまた、人として大事なことである。自分が劣っていると考えておれば、それだけの力しか発揮できないし、自分はこれだけできるのだと信じておれば、だんだん熟達して巧みになるものである。」と書き送っている(明治17年11月4日書簡)。
 現場で頼れるものは自分一人である。くれぐれも弱気は禁物だ。とにかく「絶対に何とかなる」と信じ込むことが大切である。そうすれば必ず道は開ける。

講義録:株式会社の基本構造(8) ~株式の自由譲渡性(前編)

2012-08-01 00:00:00 | 会社法学への誘い

 株式会社では、出資の払戻しを原則として認めていません。有限責任しか負わない株主に出資の払戻しを認めると、会社財産がその分目減りします。もしそうなれば、会社財産を唯一の担保としている債権者としては、債権回収が図れなくなるおそれがあり、大きな不利益を被ってしまいます。そこで、株主の会社に対する出資の払戻しを原則的に禁じたのです(直接的な投下資本の回収禁止)。

 株主は、会社の儲けに応じて利益の還元を受けますが、このような利益還元を待てない場合もあり得ます。しかし、株式会社では出資の払戻しを原則的に認めていません。会社の側からいえば、出資分は会社財産を構成するという理由で、いわば「ぼったくる」わけです。このままでは、一般大衆から資金を集めることも難しくなってしまいます。では、どうすべきでしょうか。

 そのような株主の利益を守るためには、いったん投下した資本を回収できる制度が別に必要になります。そこで、会社法は、株式譲渡の自由を保障しました。

     

 会社法127条は、「株主は、その有する株式を譲渡することができる」と定めています。会社が出資を払い戻すことは原則認めませんが、横にパスして売ることによって、自分が投下した資本は回収できる道をつくったのです。

(次回に続く)