菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

運送法制の変更点と企業実務への影響

2017-07-26 00:00:00 | 菅原の論稿

 "Business Law Journal"誌114号に拙稿「運送法制の変更点と企業実務への影響」が掲載されました(p.42~)。

     

 2017年通常国会における法案から、企業法務に関わる注目すべき法案をピックアップし、商法および国際海上物品運送法について、実務にどのような影響を与えるかという観点から解説しています。

 本稿では、改正商法の国会提出に至る過程を俯瞰し、実質的に変更される主な項目を解説して、企業実務への影響についても検討しました。運送法は、企業法務にかかわる多くの人々にとっても馴染みの薄い分野でありましょうが、①運送業界や保険業界の企業以外にも影響があるのか、②そのインパクトはどのくらいなのか、また、③具体的にどう備える必要があるのか…といった基本的な視点から書き起こしたつもりです。

     http://www.businesslaw.jp/contents/201709.html

論稿一覧

2017-07-25 09:40:16 | 菅原の論稿
2017年
■論稿「運送法制の変更点と企業実務への影響」(『Business Law Journal』144号p.42~)
■論文翻訳"A Study on Personal Information Protection Act Amendment : From the perspective of Business Practice"(Kangwon Law Review Vol.5 p.609~)

2016年
■論文「監査等委員会設置会社-解釈上の論点と実務への影響-」(慶應義塾大学法学研究会『法学研究』89巻1号p.77~)
■論文「改正個人情報保護法の課題 -企業法務の視点から-」(慶應法学34号p.27~)
■講演録「株主総会の重要課題とガバナンス向上 ~コーポレートガバナンス・コードへの対応~」(商工クラブ666号p.18~)

2015年
■座談会「落語のひととき」(慶應義塾機関誌『三田評論』1189号)
■講演録「改正会社法の要点解説 -企業実務に与える影響を読む-」(商工クラブ658号p.16~)

2014年
■論文「国内航空運送法制化に際しての諸論点」(慶應法学30号p.71~)
■論文「事業譲渡をめぐる実務問題 -債権者保護を中心に-」(法学研究87巻9号p.161~)
■コラム「課徴金とBJR、そのツケ回し」(入江・松嶋編『カルテル規制とリニエンシー』三協法規出版p.113~)

2013年
■インタビュー記事「担当者が知っておくべき リスクマネジメントの要点(メディア対応を中心に)」(『Business Law Journal』68巻p.21~)
■論稿「なぜコンプライアンス研修は面白くないのか」(中央経済社『ビジネス法務』13巻11号p.14~)

2012年
■講演録「コーポレート・ガバナンスと監査役の役割 ~最近の実務動向と会社法制見直しを踏まえて~」(商工クラブ643号p.16~)
■座談会「問い直されるコーポレート・ガバナンス」(慶應義塾機関誌『三田評論』1156号)
■論文「ベンチャー企業と株式―株式発行政策と少数株主への対応―」(慶應義塾大学出版会『企業法の法理』宮島司教授還暦記念論文集p.29~)

2011年
■講演録「会社法学への誘い~株式会社の基本構造~」(東北学院大学法学政治学研究所紀要19号p.1~)

2009年
■論文「株主名簿閲覧謄写請求権の一考察」(慶應義塾大学法学研究会『法学研究』82巻12号p.293~)
■論稿「法律実務家の業務と個人情報の取扱い」(民事法研究会『市民と法』60号p.32~)

2008年
■判例研究「洋服販売業の営業譲渡を受けた会社が、譲渡会社の屋号を商号として続用した場合、商法26条1項の類推適用が否定された事例」(慶應義塾大学法学研究会『法学研究』81巻5号p.87~)
■講演録「企業法務とは何か」(金融財政事情研究会『月刊 登記情報』48巻554号p.44~)

2007年
■論稿「企業の法務部門を強化するための企業法務再考論」(アイ・エル・エス出版『月刊ザ・ローヤーズ』4巻9号p.6~)
■判例解説「閲覧謄写の対象文書たる会計帳簿の特定(東京高判平18・3・29判タ1209-266)」(有斐閣ジュリスト臨時増刊1332号『平成18年度重要判例解説』p.109~)

2006年
■論稿「概説・新会社法 -公開・連結親会社の経営機構改革を中心に-」(運輸調査局『運輸と経済』66巻4号p.62~)
■論文「任務懈怠責任の法的責任と構造-要件事実的考察をふまえて-」(慶應義塾大学出版会『新会社法の基本問題』p.177~)
■論文「小論・航空機製造物責任の研究」(『慶應法学』4号 p.1~)

2005年
■講演録「個人情報保護法と事業者の実務対応」(商事法務『平成16年秋季弁護士研修講座』p.143~)

2003年
■論文「わが国企業の透明性向上について」(商事法務「取締役の法務」112号 p.53~)
■論文「監査役制度の見直しに関する一考察」(商事法務『改正会社法の基本問題』p.173~)

2002年
■論文"Recent Legal Measures to Enhance Corporate Transparency in Japan"(KBLA, Business Law Review Vol.12 p.75~)
■論文「会社運営電子化の問題点-株主総会のIT化を中心に」(商事法務『取締役の法務』101・102号)

2000年
■論文「執行役員制度の法的再検討」(東京弁護士会『法律実務研究』15号p.5~)

改正個人情報保護法の課題

2016-04-02 17:34:19 | 菅原の論稿

 2015年9月3日,個人情報保護法の改正法が,マイナンバー法改正とともに,衆議院本会議で可決・成立しました。同法の2005年4月の全面施行以来,10年を経ての本格的な改正であす。

 その間,IT技術の進展に伴い,ビッグデータを活用した新産業の創出に対する期待が高まる一方で,深刻な情報漏洩事件への対応も求められるようになってきました。こうした環境変化を踏まえて,高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)は,2013年12月20日に「パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針」を決定し,翌2014年6月24日には「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」を決定しました。この制度改正大綱に基づいて改正法案が策定され,2015年3月10日,改正法案を閣議決定し,これが通常国会に提出されたものです。

 改正個人情報保護法では,「匿名加工情報」の定義を新設し,本人の同意なく目的外利用や第三者提供を可能とする枠組みを導入しました。また,現行法では主務大臣が監督しているところ,内閣府の外局として「個人情報保護委員会」を新設し,個人情報保護に関する権限を集約し,監督の一元化を図ることにしています。さらには,センシティブ情報(要配慮個人情報)の取扱いに本人の同意を要求し,オプトアウト方式の第三者提供に個人情報保護委員会への届出を義務づけるなど,実務的にも重要な改正がなされました。

 本稿では,企業法務の視点から,改正法の課題について,いくつかの検討を試みています。なお、本稿は,2015年12月19日の東京大学ビジネスローセンター公開シンポジウム「個人情報保護法改正と今後の課題」における報告内容を素材に執筆したものです。

監査等委員会設置会社

2016-03-05 10:21:38 | 菅原の論稿

 今般、法学研究89巻1号に「監査等委員会設置会社 -解釈上の論点と実務への影響-」と題する研究論文を発表しました(77頁以下)。本稿は、宮島司教授退職記念号に寄稿させていただいたものです。


 昨今、社外取締役の制度的な導入を推進する動きが顕著になっています。

 平成26年改正の会社法327条の2では、社外取締役を置くことが相当でない理由の開示義務を定めました。
 政府は、この法律の施行後2年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治(ガバナンス)にかかる制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとしています(平成26法90号改正附則25条)。また、金融庁と東京証券取引所は、平成27(2015)年3月5日、独立性が高い社外取締役を2人以上選ぶように促すことなどを盛り込んだ「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」を決定し、東証上場企業を対象に同年6月1日からその適用を開始しました。

 この点、指名委員会等設置会社では、指名・報酬・監査の3委員会の設置が必要です。しかし、経済界には、指名委員会と報酬委員会の2委員会の設置に対する抵抗感があり 、指名委員会等設置会社に移行した会社は少数にとどまっています。
 また、監査役会設置会社が、2人以上の社外監査役に加えて(会335条3項)、社外取締役の選任まで求められるとするならば、企業にとってはその過剰感・負担感は大きいといわれています。

 かかる状況下、社外取締役の利用を促進する方策として、1つの委員会で足りる監査等委員会設置会社制度が創設されたという面を見逃してはなりません。したがって、監査等委員会設置会社制度には、このような政策的観点から、取締役に対する業務執行決定の委任(会399条の13第6項)や利益相反取引の承認(同423条4項)など、手厚い勧奨措置が講じられているのです。

 こうした動向の背景には、ガバナンスにおける社外取締役の効用について、これを高く評価ないし期待する根強い意見が存在するからでしょう。しかし、社外取締役に対する過大評価には相当な注意が必要ではないかと考えます。

 また、株式会社の機関設計につき、監査等委員会設置会社という新しい選択肢が増えることによって、実務においては、各社のガバナンス体制の現状を検証するという課題があり、会社法上の理論においても、企業統治機構の構造論を再検討する時期に来ています。

 本稿では、こうした問題意識を前提としつつ、監査等委員会設置会社への移行手続に触れ、監査等委員の選解任や監査等委員会の権限に関する論点を考えたうえで、特に解釈上問題となる諸問題と実務への影響を検討してみました。

事業譲渡をめぐる実務問題

2014-10-04 00:00:00 | 菅原の論稿

 今般、法学研究87巻9号に「事業譲渡をめぐる実務問題 -債権者保護を中心に-」と題する研究論文を発表しました(161頁以下)。本稿は、慶應義塾大学法学部・大学院法務研究科共催「シンポジウム・企業再編の現代的課題――日中民商法比較の観点から」での研究報告をまとめたものです。


 事業譲渡は、わが国の会社法上、一定の事業目的により組織化された有機的一体としての機能的財産の移転を目的とする債権契約をいいます(会社法21~24条・467条)。会社が自らの事業部門を他社へ移管する場合や、企業買収などのM&A事例においては、株式譲渡(会社法127条)、合併(同法2条27・28号)、会社分割(会社法2条29・30号)等、さまざまな会社法上の手段が用いられていますが、株式譲渡や合併の場合は、不採算事業部門や多額の負債もいわば丸抱えで承継することになるため、譲渡対象の資産・負債の選択が可能な事業譲渡が選択される場合も少なくありません。たとえば、事業譲渡の手段を用いれば、企業全体を再建することは困難でも、採算性の優れた事業部門だけを切り離して再生することが可能となります。

 しかし、この事業譲渡には、いくつかの実務的な問題が内在しています。

 その第一は、事業譲渡の存在を推認する方法です。特に債権者が譲受会社に対して商号続用(会社法22条)や債務引受広告(同法23条)による責任を主張しようとする場合、事業譲渡の存否に関する紛争が生じる可能性は高くなります。しかし、当事者以外の第三者からは事業譲渡の存否が判然としないため、その存在を推認する方法が実務的に問題となるのです。

 第二に、事業譲渡と会社分割の手段選択の問題です。自社の事業を他社に譲り渡すという現象面では、事業譲渡と会社分割は類似しますが、両者には、いくつかの相違点ないし長短があります。したがって、企業再編の当事者としては、いかなる基準で法的手段を選択すべきかが実務的に重要な課題となります。

 第三に、事業譲渡では、会社分割その他の組織再編と異なり、債権者保護手続が法定されていません。しかし、債権者保護手続に関する規定がないからといって、不適正な対価・方法の事業譲渡が許されるわけではありません。そこで、事業譲渡における債権者保護が実務的にも大きな問題となるのです。悪用的な事業譲渡に対する債権者の救済方法について、商号続用(会社法22条)、債務引受広告(同法23条)、詐害行為取消権の行使(民法424条)、否認権行使(破産法160条)、産活法による保護、法人格否認の法理などについて検討しなければなりません。

 本論文では、事業譲渡の意義を俯瞰したうえで、前記の実務問題について各々検討を試みました。

課徴金とBJR、そのツケ回し

2014-09-24 00:00:00 | 菅原の論稿

 独禁法違反で課徴金納付命令を受けた会社の経営者が、違法行為による損害を防げなかったことなどを理由に、株主代表訴訟を提起される事例が増加している。最近の価格カルテル事件でも、株主が歴代の取締役らを相手どり、「カルテルに故意に関与したり、存在を知り得たのに看過したりして放置した過失がある」などとして、公取委が納付を命じた課徴金約70億円を会社に賠償するよう求める代表訴訟を起こしたとの報道があった。

 こうした取締役の会社に対する損害賠償責任は、会社法423条1項の「その任務を怠ったとき」に発生する(任務懈怠責任)。とはいうものの、会社の経営にはつねにリスクがつきものである。取締役が何らかの経営判断を行うとしても、必ず成功して利益をあげるとは限らないし、思惑がはずれて、会社に損害を与えることもあるだろう。そういった場合に、当然に任務の懈怠があったとして、取締役の損害賠償責任が発生するというのでは、酷な結果にもなりかねない。

 米国では「取締役が誠実に、かつ権限と裁量の範囲内で経営判断を下したのであれば、彼はその判断について責任を負わない」とされている(経営判断の原則、business judgment rule)。わが国の判例でも、この原則と類似の考え方で、取締役の責任の有無を判断したものが少なくない(最判平成20・1・28判時1997号143頁等)。

 では、独禁法違反で課徴金納付命令を受けたような事例においても、この経営判断の原則が適用されるものであろうか。

 この点、一口に「任務を怠った」とはいうが、具体的法令違反の場合とそれ以外の任務懈怠(善管注意義務違反)とに大別され、まさに独禁法違反などは前者の類型である。そして、具体的法令違反の場合には、経営に関する裁量の範囲内にあると評価されることはなく、経営判断の原則の適用はない。なぜならば、取締役にとって、法令遵守が最低限の規範的要求だからである(会社法355条参照)。

 したがって、独禁法のごとき具体的法令違反があれば、経営判断原則による保護は受けられず、ひとたび代表訴訟を提起されれば、実務上は、取締役にとって厳しい対応に迫られることとなる。

 しかし、ここで一つの素朴な疑問に行き当たる。会社自体に課せられた課徴金(冒頭の事例では約70億円)について、そもそも会社の「損害」として取締役に請求することが許されるものなのであろうか。

 公取委によれば、独禁法上の課徴金とは「カルテル・入札談合等の違反行為防止という行政目的を達成するため、行政庁(公取委)が違反事業者等に対して課す金銭的不利益のこと」をいうと説明する(公取委HP)。すなわち、課徴金制度は、①違反行為による利得を事業者の手元に残さないことと、②違反行為の抑止を図ることの双方を目的としている。この点、最判平成17・9・13民集59巻7号1950頁では、違反行為の抑止の側面を強調しているようにも思えるが、いまなお不正利得の剥奪の目的を放棄したわけではない。

 本来獲得すべきではなかった不正な利得を事業者の手元に残さないために、これを国庫が剥奪するのが課徴金制度の目的の一つであるとするならば、当該利得は剥奪されるべくして剥奪されたものであって、もはや会社の「損害」とはいえないのではあるまいか。だとすれば、損害なきところに賠償はないわけであり、会社の取締役に対する損害賠償請求権も発生しないこととなる。

 これが課徴金という行政措置ではなく、刑事罰としての罰金刑であった場合には、さらに問題は複雑である。カルテルや私的独占に関し、違反行為者個人に5年以下の懲役または500万円以下の罰金が、法人(会社)には両罰規定が適用され、5億円以下の罰金が科される。これには、法人自身を処罰することにより、独禁法違反行為の再発を防止しようとの目的がある。

 にもかかわらず、その罰金相当額を行為者である取締役に求償できるならば、会社としては現実に損を生じない(不正の利益を確保・維持する)こととなり、法人処罰の意味がなくなってしまう。また、すでに行為者個人が罰金刑に対応しているならば、法人処罰の求償によって、罰金の二重払いを強いられることにもなる。ちなみに、罰金額が5億円以下へと高額化しているのは、ひとえに法人の支払能力を考慮してのことであろう。

 会社が取締役に罰金や課徴金の「ツケを回す」ことの意味について、今一度よく考える必要があるのかもしれない。

  (三協法規出版『カルテル規制とリニエンシー』p.113より)

リスクマネジメントの要点

2013-10-01 00:00:00 | 菅原の論稿

 『Business Law Journal』最新11月号(68号)21頁の特集「不祥事発生後のダメージ・コントロール」に、インタビュー記事『担当者が知っておくべき リスクマネジメントの要点(メディア対応を中心に)』が掲載されています。

 企業不祥事の発生時、法務部門の担当者はどのような点に留意すべきかについて、メディア対応を中心に私見を述べたものです。

 メディア報道がstakeholderの感情に大きく影響し、経済的損失と名声毀損(reputation damage)は、メディアの批判的報道の量が決定します。どれくらいの期間、どれくらいの頻度で、メディアによって批判的な報道がなされたかによって、経済的損失とレピュテーション・ダメージは決まるのです。
 そこで、本稿では、
①不祥事が起こったとき、担当者がとるべき対応、
②情報開示にあたって、どのような点に気をつけるべきか、
③調査の途中段階で謝罪を求められた場合、どうすべきか
など、不祥事発生時の対応について具体的な解説をしています。

 トラブルの顕在化は恥ずべきことではありません。不祥事対応を成長の糧にして、リスクに強い企業体質を作っていくことこそが重要だと思います。

なぜコンプライアンス研修は面白くないのか

2013-09-23 11:00:00 | 菅原の論稿

 ビジネス法務最新11月号(13巻11号)14頁に、拙稿「なぜコンプライアンス研修は面白くないのか」が掲載されています。

 コンプライアンス研修が面白くないのには、いくつかの原因が考えられます。たとえば、コンプライアンスという言葉そのものに胡散臭さを感じる、研修の内容が高邁で分かりにくい、この研修に限っては「上から目線」で押しつけがましいなど、その理由も様々でしょう。

 拙稿では、これらの原因を分析したうえで、①「わが社の」コンプライアンスを確定する、②研修内容の剪定に努める、③職場視線を忘れない、④わかりやすさを旨とする、⑤コンプライアンス研修の限界を知る、という五つの処方を提示し、その各々について具体的な研修内容や方法の検討を試みました。

鰻と落語と法律と(三田評論)

2013-07-07 00:00:00 | 菅原の論稿

 三田評論1169(7月)号「社中交歓」にコラム『鰻と落語と法律と』が掲載されました。

          

                          

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 土用の炎天下、しがない野幇間(のだいこ)が、とりまく相手を探して町をうろうろ歩くうちに「なんとなく見覚えがあるような男」と出会う。男は幇間を昼飯に連れてゆくが……おなじみの落語、『鰻の幇間』の冒頭である。
 鰻は江戸時代から庶民の憧れで、江戸っ子の大好物だったらしく、このほかにも、『後生(ごしょう)鰻』や『素人鰻』など、鰻や鰻屋が登場する噺は多い。ちなみに、土用の丑の日に鰻を食べると病気にならないなどと広めたのは、平賀源内か太田蜀山人だと聞いたが、どこまで本当かわからない。
『鰻と幇間』は、八代目桂文楽(くろもんちょう)の十八番(おはこ)として有名である。その文楽が贔屓(ひいき)にしていた鰻屋が、神田明神下の神田川本店。五代目志ん生らと宴席を楽しんだらしい。
 さて、『鰻の幇間』。上がった店は汚い鰻屋。お世辞を並べて幇間は酒と鰻にありつくが、小用に立った男がいつまでたっても戻ってこない……何とか男の身元を探ろうという幇間と、どうにか騙して食い逃げしてやろうという男との駆け引きが、この噺一番の見せ場であろう。
 まんまと幇間を欺いた男。その行為を現代の法律で読み解くと、どのように解釈すべきだろうか。末席の法律家としても興味は尽きないので、執務場所から近い木挽町の竹葉亭本店で鰻重を食べがら考えるとしよう。
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