菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

謹賀新年

2018-01-01 00:00:00 | あいさつ



 新年あけましておめでとうございます。

  謹んで新春のお慶びを申し上げます。
  皆様のご健康とご多幸を心よりお祈りいたします。



                  2018年元旦

                         菅原貴与志

会社法改正に思うこと

2017-12-30 00:00:00 | 会社法制の見直し

 法制審議会において会社法制の見直しが検討され、現在二読に入った。今回の法制審メンバーではなく、その議論を仄聞する立場に過ぎないが、若干の違和感を覚えることがなくもない。

 以下は、今般の会社法見直しに関する感想めいた戯言である。

 会社法は、商法体系の主要部分を占める基本法であり、いわゆる業法ではない。「経済社会の制度的インフラ」であることは当然に認めるが、景気対策のような「時の経済政策」によって朝令暮改のごとく改正しない、基本法としてのどっしりとした構えをもってほしい。

 実は平成一七年改正時から感じてきたことであるが、「実証なき制度設計」だけは避けるべきである。でなければ、せっかく新設しても、たとえば、会計参与や募集設立に関する詳細な規定など、利用されない制度を量産する結果となる。

 会社法が、経済界・産業界のためだけの制度ではなく、広く国民・市場を対象としていることにまったく異論はないし、むしろ当然の事柄である。ただし、直接的な会社法の利用者・ユーザーが、主に会社である事実も否定し難い。かかる観点から、会社のガバナンスを論じる場合には、経営の「効率性・合理性」と「適法性・健全性」の両課題の峻別を意識しなければならないと思う。効率性の場面において、そもそも産業界が望まない制度見直しをすることには、いかほどの意味があるのかは疑問である。

 たとえば、社外取締役の義務付けについても、これを導入したからといって、ただちに当該会社のガバナンスが改善するといった事実は、客観的・定量的に検証されているわけではなかろう。また、D&O保険契約に関する規律は、本来は引受保険会社との私人間取引であって、その契約内容は保秘を旨とするものであり、かつ、果たして法定化が新たな商品開発に追いつくのかも疑問の余地なしとしない。他方、株主総会資料の電子提供や株主提案権の濫用的な行使の制限などについては、ぜひ議論の深化と促進を望みたい。

 企業活動の自律性は、市場の活性化の源泉のひとつである。企業の自主性を尊重し、経営判断の範疇に委ねるべき項目については、法としての謙抑性にも一定の意を払うべきではないかと率直に感じる今日このごろである。

個人情報保護と人権

2017-11-12 00:00:00 | 情報法
(1)個人情報保護法の改正
 平成27(2015)年9月3日に成立した改正個人情報保護法は、平成29(2017)年5月30日に全面施行された。また、平成28(2016)年10月5日、個人情報の保護に関する法律施行令(政令)および個人情報の保護に関する法律施行規則(規則)が公布され、同年11月30日には、個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編・外国にある第三者への提供編・匿名加工情報編)が公表されている。

 今般の改正は、平成17(2005)年4月の全面施行以来、10年を経ての本格的な改正である。

 改正法では、「匿名加工情報」の定義を新設し(2条9項)、本人の同意なく目的外利用や第三者提供を可能とする枠組みを導入した(36条)。また、現行法では主務大臣が監督しているところ、内閣府の外局として「個人情報保護委員会」を設置し、個人情報保護に関する権限を集約して、監督の一元化を図ることとし、平成28(2016)年1月より、その活動を開始している。さらには、センシティブ情報(要配慮個人情報)の取扱いに本人の同意を要求し(2条3項・17条2項・23条2項)、オプトアウト方式の第三者提供に個人情報保護委員会への届出を義務づけ(23条3項)、小規模事業者も法の適用対象とするなど、実務的に重要な改正がなされている。

(2)改正法の実務課題
 端末識別ID、位置情報、画像情報、SNSでの書き込みなど、他の情報と組み合わせて個人を特定できる「グレーゾーン情報」の増加には実務的に注意が必要である。しかるに、改正法の政令・規則をみても、グレーゾーンの解消が進んだとは評価しがたい。個人情報保護委員会のガイドラインによれば、統計情報が個人情報にも匿名加工情報にも該当しないとされるが、どこまで匿名化すれば本人の同意を得ずに外部提供できるのかが未だに判然としない。

 また、改正法では、外国にある第三者に個人データを提供する場合、原則として本人の事前同意を要求するが(24条)、経済のグローバル化に伴い、他国への情報移転に一律の規制を課すことは、事業者の業務上の支障やサービスの大幅な低下につながりかねない。さらには、訴訟による保有個人データの開示請求を明文で認めたが(34条1項)、このことにより、事業者側の自主解決の努力に水を指すことにならないかも懸念される(35条参照)。

 改正法には、そのほかにも実務的な課題が多い。

(3)ビッグデータとプライバシー
 最近のスマートフォンやSNSの普及により、ビッグデータのビジネス利用のプライバシー侵害や悪評などのリスクが顕在化しつつある。特に匿名加工情報の法制化に伴い、ビックデータとプライバシーとの関係が重要な課題となっている。

 この点、現代的なプライバシー侵害事案では、当該個人の感受性ではなく、「一般人の感受性」を基準としている(最判平成15年9月12日判時1837号3頁「早稲田大学講演会名簿提出事件」)。また、受忍限度を超える場合にだけ、プライバシー侵害が認定される傾向にある(福岡高判平成24年7月13日判例集未登載「ストリートビュー事件」)。

 したがって、事業者の側においても、受忍限度を引き上げるためには、できる限り情報の利用目的・使用状況・利便性等の説明をし、情報主体である本人の納得感を得るよう努力すべきであろう。

(4)われわれ弁護士はどう行動すべきか
 まずは、改正法および政令・規則の内容を理解することである。法の正確な理解なくして、適切な対応はできない。これまで適用対象ではなかった小規模事業者も、改正法では「個人情報取扱事業者」として個人情報保護法を遵守しなければならないことから、われわれに対する個人情報についての法律相談の件数・頻度も格段に増加している。

 たとえば、第三者提供の規制に関しては、大きく改正された。実務への影響として注意すべきは、記録作成義務(25条)、提供を受ける際の確認・記録義務(26条)である。また、匿名加工情報と個人情報の関係や「個人識別符号」(2条1項2号)など、改正法の詳細内容には不明確な部分が残っているため、今後とも具体的なルールづくりに注視しなければならない。

 開示請求権の具体的権利性の肯定により(34条1項)、個人情報の保護が私法的に促進される一方、悪質クレーマー等による濫用的な事例も懸念される。個別具体的な事案に接した場合には、弁護士としての衡平感がより求められるであろう。

 なお、EUデータ保護規則案が欧州閣僚理事会で承認され、2018年の発効が予定されている。個人情報保護の分野では、こうした国際的な視野も不可欠である(24条参照)。

 以上の状況を踏まえれば、個人情報の保護が問題となる場面がますます増えていくものと思われる。したがって、われわれ弁護士としては、これらの救済申立てや交渉について適切に対応していく必要があろう。


運送法制の変更点と企業実務への影響

2017-07-26 00:00:00 | 菅原の論稿

 "Business Law Journal"誌114号に拙稿「運送法制の変更点と企業実務への影響」が掲載されました(p.42~)。

     

 2017年通常国会における法案から、企業法務に関わる注目すべき法案をピックアップし、商法および国際海上物品運送法について、実務にどのような影響を与えるかという観点から解説しています。

 本稿では、改正商法の国会提出に至る過程を俯瞰し、実質的に変更される主な項目を解説して、企業実務への影響についても検討しました。運送法は、企業法務にかかわる多くの人々にとっても馴染みの薄い分野でありましょうが、①運送業界や保険業界の企業以外にも影響があるのか、②そのインパクトはどのくらいなのか、また、③具体的にどう備える必要があるのか…といった基本的な視点から書き起こしたつもりです。

     http://www.businesslaw.jp/contents/201709.html

論稿一覧

2017-07-25 09:40:16 | 菅原の論稿
2017年
■論稿「運送法制の変更点と企業実務への影響」(『Business Law Journal』144号p.42~)
■論文翻訳"A Study on Personal Information Protection Act Amendment : From the perspective of Business Practice"(Kangwon Law Review Vol.5 p.609~)

2016年
■論文「監査等委員会設置会社-解釈上の論点と実務への影響-」(慶應義塾大学法学研究会『法学研究』89巻1号p.77~)
■論文「改正個人情報保護法の課題 -企業法務の視点から-」(慶應法学34号p.27~)
■講演録「株主総会の重要課題とガバナンス向上 ~コーポレートガバナンス・コードへの対応~」(商工クラブ666号p.18~)

2015年
■座談会「落語のひととき」(慶應義塾機関誌『三田評論』1189号)
■講演録「改正会社法の要点解説 -企業実務に与える影響を読む-」(商工クラブ658号p.16~)

2014年
■論文「国内航空運送法制化に際しての諸論点」(慶應法学30号p.71~)
■論文「事業譲渡をめぐる実務問題 -債権者保護を中心に-」(法学研究87巻9号p.161~)
■コラム「課徴金とBJR、そのツケ回し」(入江・松嶋編『カルテル規制とリニエンシー』三協法規出版p.113~)

2013年
■インタビュー記事「担当者が知っておくべき リスクマネジメントの要点(メディア対応を中心に)」(『Business Law Journal』68巻p.21~)
■論稿「なぜコンプライアンス研修は面白くないのか」(中央経済社『ビジネス法務』13巻11号p.14~)

2012年
■講演録「コーポレート・ガバナンスと監査役の役割 ~最近の実務動向と会社法制見直しを踏まえて~」(商工クラブ643号p.16~)
■座談会「問い直されるコーポレート・ガバナンス」(慶應義塾機関誌『三田評論』1156号)
■論文「ベンチャー企業と株式―株式発行政策と少数株主への対応―」(慶應義塾大学出版会『企業法の法理』宮島司教授還暦記念論文集p.29~)

2011年
■講演録「会社法学への誘い~株式会社の基本構造~」(東北学院大学法学政治学研究所紀要19号p.1~)

2009年
■論文「株主名簿閲覧謄写請求権の一考察」(慶應義塾大学法学研究会『法学研究』82巻12号p.293~)
■論稿「法律実務家の業務と個人情報の取扱い」(民事法研究会『市民と法』60号p.32~)

2008年
■判例研究「洋服販売業の営業譲渡を受けた会社が、譲渡会社の屋号を商号として続用した場合、商法26条1項の類推適用が否定された事例」(慶應義塾大学法学研究会『法学研究』81巻5号p.87~)
■講演録「企業法務とは何か」(金融財政事情研究会『月刊 登記情報』48巻554号p.44~)

2007年
■論稿「企業の法務部門を強化するための企業法務再考論」(アイ・エル・エス出版『月刊ザ・ローヤーズ』4巻9号p.6~)
■判例解説「閲覧謄写の対象文書たる会計帳簿の特定(東京高判平18・3・29判タ1209-266)」(有斐閣ジュリスト臨時増刊1332号『平成18年度重要判例解説』p.109~)

2006年
■論稿「概説・新会社法 -公開・連結親会社の経営機構改革を中心に-」(運輸調査局『運輸と経済』66巻4号p.62~)
■論文「任務懈怠責任の法的責任と構造-要件事実的考察をふまえて-」(慶應義塾大学出版会『新会社法の基本問題』p.177~)
■論文「小論・航空機製造物責任の研究」(『慶應法学』4号 p.1~)

2005年
■講演録「個人情報保護法と事業者の実務対応」(商事法務『平成16年秋季弁護士研修講座』p.143~)

2003年
■論文「わが国企業の透明性向上について」(商事法務「取締役の法務」112号 p.53~)
■論文「監査役制度の見直しに関する一考察」(商事法務『改正会社法の基本問題』p.173~)

2002年
■論文"Recent Legal Measures to Enhance Corporate Transparency in Japan"(KBLA, Business Law Review Vol.12 p.75~)
■論文「会社運営電子化の問題点-株主総会のIT化を中心に」(商事法務『取締役の法務』101・102号)

2000年
■論文「執行役員制度の法的再検討」(東京弁護士会『法律実務研究』15号p.5~)