菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

法律英語の特色(3)

2012-10-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第26回
 頻出用語の例(上)

 法律英語では、後記(5)(6)のとおり、古語・ラテン語が多用されたり、類義語を重複するために文章そのものが長文化するなど、難解で分かりにくい面がある。また、契約書に使用される英語も、法律用語として登場する場合には、一般的な意味内容と異なることも少なくない。

 契約書に頻出する用語を列挙するならば、次のとおりである(abc順)。

・above, above-mentioned, aforementioned, aforesaid
 いずれも「前記の」「前述の」という意味であり、後記”said”と同じである。

・agreement
 “agreement”には、合意、協定、協約など、広い意味があるが、英文契約書に記載されている場合は、主に契約ないし契約書の意味で用いられている。
 契約を意味する言葉としては”contract”という単語もあり、講学上は、広義の契約(agreement)のうち、法的強制可能(enforceable by law)なもののみを”contract”と呼称している。しかし、契約実務においては、法的強制力の有無にかかわらず、”agreement”の語を用いる例が大半である。

(次回に続く)


【今月の新刊】

 菅原=松嶋ほか『英文契約書の法実務 -ドラフティング技法と解説-』(三協法規出版、ISBN978-4-88260-236-1)、10月1日刊行。

      

『猫の皿』 高価な皿で猫に飯

2012-10-17 00:00:00 | 落語と法律
新・落語で読む法律講座 第22講

 ある端師(はたし)が、掘り出し物の骨董を探して、地方をずっと回っていた。中仙道熊谷在の茶店で、店の主人(おやじ)とよもやま話などをしているうちに、何の気なしに土間を見ると、猫が飯を食っている。その皿が、絵高麗の梅鉢の茶碗で、三百両は下らない代物。

「ははぁん、どうやら猫にこの皿で飯を食わせているようだ。そうすると、あの爺さん、この皿の価値が分かってないんだなぁ。ようし、なんとかふんだくってやろう。なあ爺さん、この猫くれねぇか。まだ他にもいるんだろう。一匹くれよ。ただで貰おうってんじゃないよ。鰹節代置いておこう。小判三枚で、これを売ってくれ」と持ちかけ、猫を三両で買い上げる。

 そこで初めて気がついたかのように、「この皿で、猫に飯食わせていたのかい? 猫っていうのは神経質な生き物だから、皿が変わると食わないっていうから、この皿持っていって、これで食わせてやろう」。ところが、おやじは、「それは駄目です、皿ならこっちのを……」と、汚い欠けた皿を出す。

「こんなところに置いてありますが、高麗の梅鉢と言いまして、三百両くらいにはなるんです」、「それじゃあ、どうしてそんな高価な皿で猫に飯なんか食わせるんだい」、「へぇ、そうしておくと、ときどき猫が三両で売れますんで」。

     


 実際には売る気のない高麗の梅鉢をおとりに、猫を売る。茶店の主人ではないが、われわれの日常でも、これと似たようなことがある。
 たとえば、新聞に「眼鏡が半額8,000円」とか「フレームを買うとレンズ無料」と書かれた折込チラシが入っていたので、店に買いに行ったところ、「8,000円はフレーム代で、レンズ代は別なんです。合計で2万円いただきます」などという。あるいは、「無料レンズは合わないですよ。無理にかけても眼が疲れますからね」といわれ、高い有料レンズを買わされるハメになる。

 このように、実際には売る気のない商品が広告されている。広告を見て店頭に買い物に行ってみると、店頭に商品がまったくない。広告商品と実際に販売されている商品とで、価格・品質・色・サイズ・柄・メーカーなどが違っている。広告では販売数量や販売時間等の制限がないのに、実際には制限されている等々、実際に行われる取引と相違がある広告を「おとり広告」とよび、不当表示のひとつとして規制の対象となる(景品表示法4条3号)。

 広告で気に入った商品を、業者に問い合わせたとき、「残念ながら、それは売切れなのですが、別の商品がございます」などといわれた場合には、おとり広告の可能性もあり、それ以上は話を聴かないのが無難である。

 かつて、おとり広告で社会問題化したものとして、ミシン販売にかかわる悪徳商法があった。安価なミシンを広告しておきながら、問い合わせた客には別の高額なミシンを販売するほか、無料点検と称して家庭を訪問しては、何十万円もするようなミシンを売りつける悪質な業者が横行し、被害が続出した。とくに訪問販売の場合には、消費者がわざわざ店舗に出かけなくてよいという長所がある反面、勧誘が不意打ち的であるし、現物をみずに購入してしまうことなどから、消費者トラブルが発生しやすい。

 そこで、訪問販売や通信販売を公正にし、消費者トラブルの防止を図るために定められたのが「特定商取引に関する法律」である。この法律では、自宅訪問販売(営業所以外で申込みを受ける販売)、キャッチセールス(路上で声をかけ店舗へ連れて行って契約を迫る販売)、アポイントメントセールス(電話やハガキなどで呼び出して契約を迫る販売)について、契約書面の交付を受けてから8日間は無条件解約が認められている。これがご存知「クーリング・オフ」の制度である。

 これとは逆に、茶店の主人のほうから、「この皿がほしいんなら、猫も一緒に買っとくれ」といえば、抱き合わせ販売の疑いがでてくる。抱き合わせ販売(英語では、”tying arrangement”)とは、独占禁止法19条に定める「不公正な取引方法」の一類型であり(独禁法2条9号・19条)、公正取引委員会によれば、「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること」とされている(一般指定10項)。

 さて、噺に登場する「絵高麗の梅鉢」。その名前からは、朝鮮産と思われそうだが、実は中国・宋時代の陶磁である。数年前の話にはなるが、落語ブームの火付け役となった、宮藤官九郎脚本によるテレビドラマ『タイガー&ドラゴン』では、『猫の皿』の絵高麗の梅鉢が、ヴィンテージもののジーンズとリンクされていた点が面白かった。


       


【楽屋帖】
 原作は、滝亭鯉丈(?~1841)が文政4(1821)年に出版した滑稽本『大山道中膝栗毛』中の一話。過去には五代目古今亭志ん生や三代目三遊亭金馬がよく口演していた。
 ところで、抱き合わせ販売といえば、平成10(1998)年、マイクロソフト社の日本法人が家電メーカーに対し、自社のアプリケーション・ソフト(エクセルとワード)の抱き合わせによる販売を強制したとして、公正取引委員会より指摘を受けた事件が有名だ。
 また、愛知万博(愛・地球博)でも一騒動が起きた。平成17(2005)年3月28日、万博会場内への飲食物の持込み禁止について、名古屋・仙台・札幌の弁護士3人が公正取引委員会に告発したという。当時の報道によれば、野球場などと異なり、瓶・缶類は危険物とはならないのに、入場者は、指定した飲食物販売業者と取引するよう強制されているとし、こうした制約が「抱き合わせ販売」にあたると訴えたらしい。この告発内容の当否はともかく、その後、時の小泉首相の鶴の一声により、一転して弁当の持込みは解禁となっている。

Aviation Insurance Renewal

2012-10-12 00:00:00 | 日記

 今週末より約1週間、航空保険契約の更改交渉で欧州出張します。

 主な仕事の舞台は、あのLloydsもある "City of London"

       

とパリ。            

 Grobal Aerosapceなど、Underwrigher(保険引受人)に対するプレゼンテーションを12回こなす予定です。

                        

 また、久しぶりにcaptive(再保険会社)のあるBailiwick of Guernsey(ガーンジー島)にも訪れます。


             


 ちなみに、仄聞するところによれば、ロンドン・マーケットにおいて航空保険に携わる人々は、他の保険種目(たとえば、伝統あるMarine Cargoなど)と比較しても「各上」という意識をもっているのだそうです。その理由は知りませんが…。
 いずれにせよ、マーケットは引き続きソフトではあるものの、loss ratio等のマイナス要素もないではなく、難しい更改になるかもしれません。 "Do my best!"

 また、当初予定よりも出張の日程が前倒しとなったため、今月第4週には帰国し、委員を拝命した法務省・運送法制研究会(第3回)にも出席できそうです。


目標をもたない者に恵みはない

2012-10-09 00:00:00 | 伝える言葉
◆伝える言葉(10)◆


 Accordingly, I run straight ahead, not aimlessly; I thus box, not punching the air.
- そこで、私は目標のはっきりしないような走り方をせず、空を打つような拳闘はしない。 (The first epistle of Paul to the Corinthians 9)




 明確な目標設定がなされれば、その達成のために何をどれだけどのような方法で行うべきかはみえてくる。だから、いつも設定された目標を意識し続けるべきである。簡単なようだが、意外にもこのことが実践されていない。目標に対する日常の意識が、いつか目標達成への確信に変わるはずだ。
 目標をもたない者に恵みはない。コリント人への第1の手紙 第9章にも、上記の一節がある。

馬吉・駒与志二人会(十一月 霞が関寄席)

2012-10-05 00:00:00 | あいさつ

東日本大震災 義援プログラム
十一月霞が関寄席「金原亭馬吉・駒与志二人会」

          

 来る11月28日、霞が関寄席「金原亭馬吉・駒与志二人会」が開演されます。

ただいまWeb上で好評受付中。 ← 10/4から募集開始。

 と き:平成24年11月28日(水)
 開演時刻:18:45~
 出演者:金原亭馬吉、金原亭駒与志


     
      馬 吉

     
      駒与志

 木戸銭:2,000円
 ところ:霞が関ナレッジスクエア「スタジオ」
 (千代田区霞が関3-2-1霞が関コモンゲート ショップ&レストラン西館3階

        


講義録:株式会社の基本構造(9) ~適正な経営のための監督

2012-10-01 00:00:00 | 会社法学への誘い

 会社の執行部は、合理的な企業経営の実現を志向します。簡単に言えば、経営者は日ごろから「商売のやりやすさ」を追求しているのです。しかし、それが行き過ぎとなってしまう場合もあります。また、もともと経営者というものは、他から経営に口出しされるのを好みません。その意味で、経営陣が誤った判断する危険性はつねにあるのです。

 特に会社の業務執行機関である代表取締役(会社法349条)は、その権限の広範さ強大さから、事実上の最高権力者として会社経営に君臨しています。それだけに不適法な、あるいは著しく妥当性を欠くような権限行使がなされる危険も大きいといえます。

 これを防止し、適正な経営を実現する手段として、会社法は様々なシステムを用意しています(下図)。

     

 取締役会(会社法362条)と監査役(同法381条)は、株式会社組織の内部から業務執行を監督します。これに対して、株主や会計監査人(会社法396条)は、会社組織の外部から監督を担うものです。こうして会社の内部と外部から、適正な経営実現のためのコントロールが施されているのです。

 以上の株式会社の基本構造について、マクロ的にまとめたのが左図、ミクロ的チャートが右図です。


        




(次回に続く)