菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

秘密保持条項(Confidentiality)(3)

2012-03-07 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第18回
(3)秘密保持義務を負う人的範囲

 どこまで秘密保持義務の人的範囲を及ぼすべきかは、実務的に重要な問題である。
 秘密保持条項を定めた場合、契約当事者が秘密保持義務を負うのは当然だが、当事会社の役員、従業員、下請業者など、当事者以外にも秘密情報に接する者はいる。しかし、こうした個々人との間で直接に秘密保持契約を締結することは、およそ不可能に近い。
 そこで、契約当事者が秘密情報を開示できる場合と人的範囲を限定する。

 The recipient party may disclose the Confidential Information only to such party’s employees who have a need to know such Confidential Information and only to the extent necessary.
(開示を受けた当事者は、その当事者の従業員で秘密情報を知る必要があるものに対してのみ、かつ必要な範囲においてのみ、秘密情報を開示できる。)

 さらに、契約当事者が役職員等に秘密情報を開示する場合には、当該個人との間の「秘密保持契約」締結を義務づけておく。

 The recipient party shall enter into a confidentiality agreement with the employee to whom the Confidential Information is to be disclosed in accordance with the preceding paragraph.
(開示を受けた当事者は、前項に従い秘密情報を開示しようとする場合には、開示を受けようとする従業員との間で秘密保持契約を結ばなければならない。)

 こうした条項を設けた以上、当該役職員との間の秘密保持契約ないし誓約書を用意しておく必要があろう。秘密保持契約書には、①秘密情報が記録された媒体の複製禁止、②秘密情報の社外への持出・送信の禁止、③秘密情報の適正管理と管理への協力、④退職時の記録媒体の返還等の各条項を規定することとなる。
 なお、就業規則に包括的な秘密保持義務を定める例も多いが、退職従業員にはその効力が及ばない。そこで、秘密保持契約や退職時誓約書などに雇用契約終了後も秘密保持義務を負わせる旨の条項(hold-over clause)を盛り込むことがある。ただし、あまり長期間に及ぶ包括的な義務規定に対しては、不当に職業選択の自由(憲法22条参照)を制約するものと指摘される場合があるから、一応の注意が必要である。


(次回に続く)


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