菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

欧米の契約観について(4)

2012-07-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第23回
 「信頼の証し」か「不信感の象徴」か

 一般的にいえば、日本においては、契約そのものが当事者間の「信頼の証し」であり、両社の協力関係を築く第一歩として契約書を交わすに過ぎない。一元客として発注と納品を重ねていって、お互いに気心が知れてきたから、「じゃあ、そろそろビジネス・パートナーとして正式な商取引基本契約でも締結しましょうか」ということになり、契約書を交わす。

 しかし、国際取引の場合、相手方とは、国籍も違えば、使用する言語も違う。人種や民族や通貨が違う。見た目も、拝む神様・仏様も違うのである。要するに、相手のことなど、そう容易くは信用できないのだ。したがって、欧米において契約書とは、あらゆる最悪の事態を想定して書かれた、いわば「不信感の象徴」なのである。

 こうした契約観の違いを前提とすると、国内契約を審査するとき以上に、細心の注意をもって内容を慎重に吟味する姿勢が必要となってくる。たとえば、手紙のような形式の書面であっても、軽々にサインしてはならない。




金原亭駒与志チャリティー落語会

2012-07-22 16:00:00 | あいさつ
特定非営利活動(NPO)法人 絆プロジェクト2030設立記念

「絆」プロジェクト2030 東日本大震災こどもたち支援チャリティーイベント
「第2回 金原亭駒与志落語会」

ワン・コインで笑って、被災した子どもたちを応援!

  
       (※上記チラシは昨年第1回のもの)
   

ただいま「絆」プロジェクト2030のホームページにて申込受付中。

 と き:平成24年9月8日(土)
 開演時刻:14:00~(開場・受付:13:45)
 出演者:金原亭駒与志、鷺草亭桃介、金綱亭夜楽、金綱亭女遊

   
     駒与志

   
     桃 介

      
     夜楽        女遊

 木戸銭:500円(当日券800円)
 ところ:渋谷区地域交流センター新橋 地下1階「コミュニティーホール」
 (渋谷区恵比寿1-27-10 恵比寿駅徒歩10分)

 *中入りでは「プレゼント抽選会」も予定*


 詳細は「金原亭駒与志の世界」をご参照ください。


      


第2回「現代空法研究会」

2012-07-21 18:00:00 | 学会・研究会

 本日午後、日本大学法学部三崎町キャンパス10号館において、第2回「現代空法研究会」が開催され、小生も出席してきました。

 この研究会は、航空法・宇宙法の現代的課題を研究し、また、若手研究者の裾野を拡げるため、日本大学法学部の松嶋隆弘・工藤惣一両教授が中心となって設立した勉強の場です。


 本日の研究報告は、次のとおり。

第一報告 新田浩司先生(高崎経済大学教授)
航空行政法学は成立するか -空法、航空法の定義を端緒として、我が国の航空法研究の方法論について、行政法学の立場から考察する-」

第二報告 大塚敬子氏(慶應義塾大学SFC研究所上席所員)
国連における宇宙法形成の方向性:宇宙空間平和利用委員会の作業を中心に」


 研究報告会終了後、引き続き会議室にて懇親会が開かれ、空法関係者との懇親を深めることもできました。

暑中お見舞い

2012-07-20 00:00:00 | あいさつ
暑中お見舞い申し上げます。

炎暑酷暑のみぎり、皆様のご健勝とご自愛をお祈り申し上げます。

                  平成24年盛夏

                         菅原貴与志

たァがやァーィ!

2012-07-17 00:00:00 | 落語と法律
新・落語で読む法律講座 第19講

 両国の川開き当日、花火を見ようと大勢の人出。とくに両国橋の上はたいへんな混雑で身動きさえもできない。
 花火がドーンとあがると、「玉屋ァーィ」、「鍵屋ァーィ」と口々にほめている。

     

 橋の上を馬に乗った武士が、三人の供をつれて、「寄れ寄れ、寄れいッ」と強引に渡ってきた。そこに反対のほうから、道具箱をかついだたが屋が、人混みを「すみません」とかき分けて入ってくる。ちょうど橋の真ん中で、武士とたが屋が出くわした。

 押されて持っていた道具箱を落とす。そのはずみで巻いてあった箍(たが)の止めががはずれ、つッつッと伸びて、馬上の武士の陣笠をはじき飛ばしてしまった。

 武士の頭は笠の台だけ……人混みの中で恥をかかされた武士は、カンカンになって怒り、平謝りに謝るたが屋に、
「勘弁まかりならん。斬り捨てるぞっ」と言う。
 いくら謝っても許してもらえないと知ったかだ屋は、やけになって
「どッからでも斬ってくれ」と開き直った。

 供侍の一人が刀を抜いて斬り込んできたのを、喧嘩(けんか)慣れしたたが屋は体をかわし、逆に刀を奪って斬り殺す。「ご同役の仇」とかかってくるのを次々に斬って、とうとう三人の侍を殺してしまった。

 ついに馬上の武士が槍をしごいて突いてきたが、たが屋は飛び込んで一刀を横に払うと、武士の首が宙天へスポーン。

 そうすると、見物一同がよくやったとばかり、
「たァがやァーィ」

     

 両国の花火大会の当日は、例年テレビでも放映されている。たくさんの人でごったがえす両国橋の上の様子は、平成の今も江戸の昔も変わらない。そこへ馬で乗りこんでくるというのだから、現代の悪徳政治家や高級官僚の傲慢な態度を見るようで、さすがにムカッ腹が立ってこようというものだ。

 さて、六法をめくれば、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは三年以上の懲役に処する」という条文がある(刑法199条)。
 たとえば、このたが屋が馬上の武士を一刀のもとに斬り捨てた行為。だれが見たって「人を殺した」行為だ。まちがいなく殺人罪の条文に書かれてある要件(これを「構成要件」という)には該当する。
 たが屋を罰するには忍びない……という感情論はさておき、この場合、本当に殺人罪が成立するのか、もう少し考えてみよう。

 もし、たが屋が武士を斬らなければ、おそらくはたが屋の首のほうが飛んでいたにちがいあるまい。つまり、やらなきゃ、逆にやられたのである。
 武士はたが屋を殺す気で槍を突き出したのだ。これに対して、たか屋は自分の身を守ったに過ぎない。命の危険にさらされているような場合、自分で自分の身を守ることを法も許している。これが「正当防衛」である。
 刑法には「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と規定されている(刑法36条1項)。

 正当防衛が認められるためには、①侵害の急迫性、②侵害が不正であること、③防衛行為の必要性・相当性、④防衛の意思、の各要件が必要である。
 たが屋の場合、自分を殺そうと槍で突きかかってくる武士に(急迫不正の侵害)、自分の命を守るため、刀で防戦した(やむを得ずにした)のだから、たとえ刑法199条の要件に該当していても、違法性なしとして、処罰されない。このような、違法でなくなる特別な事情を「違法性阻却事由」という。
 このように、構成要件に該当するばかりでなく、違法かつ有責な行為でなければ、犯罪は成立せず、処罰されることはないのである。

 ところで、この『たがや』という噺は、「町人の武士階級に対するレジスタンスが見事に描き出されている」と評する人が多い。しかし、佐藤光房『東京落語地図』(朝日新聞社)には、次のような面白いエピソードが紹介されている。

「が、しょせんは江戸っ子のレジスタンスで、たいしたことはない。もとの噺では宙に飛ぶのはたがやの首で、涙声で『たがやー』とさげていたものだそうだ。安政のころに現在のような形になったが、高座に上がった噺家が『えー、相変わらず』と見回して、客席に侍がいると、昔の筋書き通りたがやの首を飛ばしたという。立川談志師は、いまでもたがやの首を飛ばしている。」

     


【楽屋帖】
 花火は江戸の夏の風物詩。安永年間、両国の川開きは旧暦の5月28日だった。
 舞台となる両国へ、江戸中100百万人からの群衆・野次馬が集まっている。その混雑したところに武士が供とエラそうに通りかかっものだから、「侍がなんだってんだ」という雰囲気になり混乱に拍車が。そしてそこへ「たが屋」が出くわしたものだから……。
 江戸時代、武士が町人らから耐え難い無礼を受けた時は、切り捨てても処罰されなかった。公事方御定書71条の追加条項に定められた、いわゆる「切捨御免」である。支配階級である武士の名誉と威厳を守ることにより、武士階級を頂点とした社会秩序が保たれると考えられていたものであり、これもまたある種の正当防衛的な行為とも理解できなくはない。ただし、個人の権利を防衛する正当防衛ではなく、あくまで社会防衛ではあるが。
 このほか、武士に歯向かう同様の噺として、『禁酒番屋』、『石返し』などがある。

事を論ずるには

2012-07-09 00:00:00 | 伝える言葉
◆伝える言葉(7)◆


 事を論ずるには、当に己れの地、己れの身より見を起こすべし。     (吉田松陰)



 吉田松陰が、まな弟子で妹婿の久坂玄瑞に「事を論ずるには、まさに、自己の立っている地点、自己のおかれている身より立論を出発させるべきである」と書き与えている(「久坂生の文を評す」、『丙辰幽室文稿』、安政3年6月2日)。
 まず自分の足元をしっかりと固め、自分の目線から説を立てることが肝要だ。たとえ借り物の見解でも、そのまま受け止めたうえで今一度自分なりに消化してみれば、自分の言葉で物事を表現できるようになる。自分の目線から事を論ずるからこそ、文章にも説得力が増すのだということを知るべきであろう。

講義録:株式会社の基本構造(7) ~株主の経営に対する監督権限

2012-07-01 22:00:00 | 会社法学への誘い

 株主は出資者だから、会社に対し出資額に相当する割合の持分的な権利を有しているはずです。つまり、株主は会社の実質的所有者にほかなりません。

 しかし、先ほども説明したとおり、株式会社では、合理的効率的な企業経営を実現するために、原則として所有と経営が分離しています。

 その結果、株主は、会社の実質的所有者でありながら、会社経営から制度的に疎外されています。とはいえ、株主は、自分が会社の本来的な所有者ですから、オーナーとして会社の経営にある程度は口出しもしたいし、経営に対する監督権限も行使したいでしょう。そこで、株主にも、会社経営に対する監督是正権限の行使を保障すべきだということになります。

下図をご覧ください。その具体例が、株主総会の議決権(会社法105条1項3号・308条1項)であり、責任追及等の訴え(同法847条)や差止請求権(同法360条)などの各種の監督是正権なのです。

     

 王道は、まさに株主総会というオーナー会議で議決権を行使することにより、経営の意志決定に参画していくことです。また、360条は、取締役がとんでもないことをしようとしている時に「ちょっと待った」と差止めを請求する権限です。これは事前の措置ですが、取締役に違法・不当な行為をされてしまい、会社に損害が発生した後には使えません。これに対して、事後的にカバーをするのが、責任追及等の訴え、むしろ株主代表訴訟という呼び方のほうがお馴染みかもしれませんが、847条です。


(次回に続く)