菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

会社法改正に思うこと

2017-12-30 00:00:00 | 会社法制の見直し

 法制審議会において会社法制の見直しが検討され、現在二読に入った。今回の法制審メンバーではなく、その議論を仄聞する立場に過ぎないが、若干の違和感を覚えることがなくもない。

 以下は、今般の会社法見直しに関する感想めいた戯言である。

 会社法は、商法体系の主要部分を占める基本法であり、いわゆる業法ではない。「経済社会の制度的インフラ」であることは当然に認めるが、景気対策のような「時の経済政策」によって朝令暮改のごとく改正しない、基本法としてのどっしりとした構えをもってほしい。

 実は平成一七年改正時から感じてきたことであるが、「実証なき制度設計」だけは避けるべきである。でなければ、せっかく新設しても、たとえば、会計参与や募集設立に関する詳細な規定など、利用されない制度を量産する結果となる。

 会社法が、経済界・産業界のためだけの制度ではなく、広く国民・市場を対象としていることにまったく異論はないし、むしろ当然の事柄である。ただし、直接的な会社法の利用者・ユーザーが、主に会社である事実も否定し難い。かかる観点から、会社のガバナンスを論じる場合には、経営の「効率性・合理性」と「適法性・健全性」の両課題の峻別を意識しなければならないと思う。効率性の場面において、そもそも産業界が望まない制度見直しをすることには、いかほどの意味があるのかは疑問である。

 たとえば、社外取締役の義務付けについても、これを導入したからといって、ただちに当該会社のガバナンスが改善するといった事実は、客観的・定量的に検証されているわけではなかろう。また、D&O保険契約に関する規律は、本来は引受保険会社との私人間取引であって、その契約内容は保秘を旨とするものであり、かつ、果たして法定化が新たな商品開発に追いつくのかも疑問の余地なしとしない。他方、株主総会資料の電子提供や株主提案権の濫用的な行使の制限などについては、ぜひ議論の深化と促進を望みたい。

 企業活動の自律性は、市場の活性化の源泉のひとつである。企業の自主性を尊重し、経営判断の範疇に委ねるべき項目については、法としての謙抑性にも一定の意を払うべきではないかと率直に感じる今日このごろである。

監査・監督委員会制度(2)

2011-10-03 00:00:00 | 会社法制の見直し
制度選択のメリットはあるか

 この制度を選択した場合、現行の監査システムと比べて、企業にとってメリットが本当にあるのでしょうか。また、株主にとってのメリットとは何でしょうか。

(1)選択肢の増加
 企業側のメリットとしては、従前の監査役設置会社と委員会設置会社に加え、第三の機関設計に関する選択肢が増える点が挙げられるでしょう。
 特に「監査・監督委員会設置会社」では、指名委員会・報酬委員会の設置を強制されないため、委員会設置会社のような導入に際しての抵抗感は少ないものと思われます。
 しかし、現行会社法は機関設計の多様化を図っており、すでに9類型の機関構成を用意しているのです。しかし、現実には、そのすべてが十分に利用されているわけでもありませんし、各制度の実務的な使い勝手の良さも何ら検証されてはいません。
 たとえば、中小企業のガバナンス向上のために「鳴物入り」で導入された会計参与を設置した会社がどのくらいあるのでしょうか。こうした状況下、いわば理念先行型で新しい制度の導入を急ぐだけでは、会社法の機関構成を複雑にするだけという結果にもなりかねないと思います。

(2)資金調達の便宜
 また、資金調達の面からのメリットも考えられるでしょう。
 Market(特に外国投資家)は、独立性の高い社外取締役の確保を要望しているとよく耳にします。委員会設置会社への移行に躊躇する企業でも、海外からの資金調達ニーズがあるならば、指名委員会・報酬委員会を強制されない監査・監督委員会設置会社の導入を前向きに検討するのかもしれません。
 しかし、社外取締役を確保することが、本当に資金調達にとって有利な事項なのでしょうか。
 あくまで私見ですが、ガバナンスと資金調達との間に相関関係があるようには思えないのです。たとえば、中国市場に資金が集まるのは、決して彼らのガバナンスが高いからではなく、利益獲得の可能性が高い(儲かる)からに過ぎません。
 要するに、投資家マーケットの需要・要望といったものについて、あまり過大評価してはならないと考えるのです。

(3)小括
 以上のとおり、企業や株主にとって本当にメリットある制度かは、甚だ疑問と言わざるを得ないというのが結論です。


(つづく)

監査・監督委員会制度(1)

2011-09-29 00:00:00 | 会社法制の見直し
制度の概略と議論の経緯

1.制度の概略
 法務省が年内の試案公表をめざし、法制審議会会社法部会において「監査・監督委員会」(仮称)が議論されています。
 具体的には、監査役、指名委員会・報酬委員会を置かず、社外取締役が構成員となる委員会(監査・監督委員会)が監査等を担うという機関設計(「監査・監督委員会設置会社))を新たに導入するものです。

2.そもそもどうしてこのような議論がされるようになったのか。
(1)監査役制度の限界  ~機能面と比較法的視点
 過去の商法改正をみれば、ある意味で監査役の権限強化と独立性確保の歴史であったといえましょう。にもかかわらず、企業不祥事は後を絶たず、監査役による監査の限界が指摘されてきました。
 また、他国の会社法制には、わが国監査役と同様の制度が見当たりません。このため、企業不祥事が続発するたびに、諸外国からは「監査役制度が機能していない」との批判を受けやすいという(ある意味気の毒な?)側面もあったでしょう。

(2)委員会設置会社の導入と実情
 平成14年の商法改正において、米国の会社組織に類似した委員会設置会社(当時は「委員会等設置会社」と呼称していました)が導入されました。
 そのころ、識者の中には、あたかも委員会設置会社が、従来型の監査役設置会社よりもガバナンス面で優位な制度であるかのような見解も少なくありませんでした。特に社外取締役による監督機能に期待する意見が多かったように思います。
 また、ガバナンスにおいて優れているかどうかはともかくとして、対外的に(たとえば、外国人投資家にとって)分かりやすい組織だとの評価もありました。
 しかしながら、委員会設置会社の機関構成を選択した企業は、現在きわめて少数派です(導入企業の例としては、日立・東芝・大手証券)。その理由は各企業の事情によるでしょうから、一概には言えません。おそらくは、①複数名の社外取締役を採用しなければならないこと(外部者の経営に対する干渉、社外取締役の人材難)、②指名委員会・報酬委員会の設置が強制されること(外部者に役員人事や報酬の決定を委ねることに対する抵抗感)が、企業経営者に嫌われる理由だと思います。

(3)社外取締役の導入促進策
 そこで、より社外取締役による監督機能が発揮できるような「第三の制度」が議論されるようになったのではないでしょうか。
 要するに、監査・監督委員会の議論には、社外取締役の導入促進策の側面を否定することができないのです。


(10/3に続く)