菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

読売新聞 経済面

2012-02-29 07:52:01 | 日記

 2/27オリンパス新経営陣の公表に関し、7読売新聞経済部から電話取材を受け、
翌28日の同紙10(経済)面に次のようなコメントが掲載されました。

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20120226-OYT1T00317.htm?from=popin

**************************************
 企業統治に詳しい弁護士で慶大法科大学院の菅原貴与志教授は「一気に過半数を社外取締役とするのは画期的。実際に再建を担う笹氏ら内部昇格組が、いかに社外取締役のサポートを得られるかがカギを握る」と指摘している。
**************************************


秘密保持条項(Confidentiality)(2)

2012-02-25 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第17回
(2)対象となる情報の範囲

 たとえ秘密保持条項を設けたとしても、秘密保持の対象となる情報の範囲を単に「秘密情報(Confidential Information)」と規定するだけでは、当事者間で疑義が生じ、後に紛争を招きかねない。したがって、いかなる情報が契約上の秘密情報に該当するかを明確にするように、秘密保持の対象をできる限り特定する必要がある。
 たとえば、これを一般的に定義づけるならば、次のような表現になるであろう。

 Any technical, commercial or business information which has proprietary value and which is not open to the public.
(技術上、営業上、事業上の情報で、財産的価値を持ち、公開されていないもの。)

 ただし、秘密情報の定義に形式的に該当しても、当事者に秘密保持義務を負わせることが適当でない場合もある。たとえば、公開されている情報や、法令によって開示が要求されている情報などがそれである。したがって、そうした情報については、例外的に義務を免除しなければならない。

 Any information which is or becomes public domain;
Any information which the recipient party has already owned at the time of disclosure or later independently develops; or
Any information which the recipient party legally obtains from a third party without the obligation of confidentiality.
(公知の情報または後に公知になった情報、
開示を受ける当事者がすでに有していた情報または後に独自に開発した情報、または、
開示を受ける当事者が第三者から適法に取得し、秘密保持義務を負わない情報。)

 また、秘密情報について、より具体的に、かつ可視的に定義する場合もある。

 If disclosed by means of document, disk or other tangible media, any information which is clearly marked by the disclosing party as “confidential”.
(書類、ディスクなど有形の方法により開示された場合は、開示する当事者が「秘密」と明記したもの。)


(次回に続く)

『禁酒番屋』 この偽り者めが

2012-02-19 00:00:00 | 落語と法律
新・落語で読む法律講座 第15講

 ある藩で、家中の者が酒の上で大きな失敗をしたため、怒った殿様が家中一同に禁酒を申し渡した。
 殿様の命令だから、当初は家来たちも辛抱していたが、日のたつうちに規律もゆるみはじめ、中には酔っぱらってお城に帰る者も出てくる。そこで、御門の脇に禁酒番屋をこしらえて、通る者を厳しく検査することになった。
 
 ある日、近藤という大酒飲みの家来が、城下の酒屋で飲み、さらに酒一升を城内にある自分の長屋まで届けろと注文した。
 思案の結果、店の一人が菓子折の底に五合徳利二本をしのばせ、菓子屋に化けて御門をくぐろうとする。
 しかし、菓子折を持ちあげるときに思わず「ドッコイショ」と声を出してしまったため、番屋の役人に中の酒を取りあげられたうえに、「この偽り者めがっ」と叱られ、逃げ帰ってくる。
 
 次に油屋だといって通ろうとしたが、これも見つかってしまい、「この偽り者めがっ」。
 番屋に二升飲まれてしまった酒屋は、仕返しに小便を徳利に入れて持って行く。「近藤様から松の肥やしにするというご注文を受けましたので」などと番屋に説明すると、タダ酒に味をしめた役人は、今度もまた酒が入っているに違いないと思い、口をつけるが……、
「けしからん、かようなものを」
「だから、はじめから小便だと申しました」
「このぉ……うーむぅ、正直者めが……ッ」。


     


 どんな社会にもルールはつきものだ。たとえば、酒類の製造にかかわるところは別としても、職場で白昼堂々と酒を飲む者はおるまい。
 労働基準法上、常時10名以上の労働者を雇用する事業所では就業規則を作成し、労働基準監督署長あてに届け出ることになっている(同法89条)。就業規則には、労働時間、休日、賃金などの労働条件のほか、服務規律や従業員の心構えまで盛り込んでいる例が多い。
 こうした職場の規律や秩序も、就業規則の重要な要素である。

     

 したがって、「職場で酒を飲むな」というのは大いに結構だが、禁酒番屋をこしらえた殿様のように「職場外の私生活でも、酒を飲んではならぬ」ということになれば、まったくもって余計なお世話だろう(少し以前の話であるが、どこかの政党で、セクハラ問題が発覚したため、党員に「自宅外の原則禁酒」の方針を申し渡したことがあったが……まるで現代の禁酒番屋の沙汰である)。
  
 ところで、昨今の経済社会では、相次ぐ企業不祥事を背景に、コンプライアンスという言葉が一種の流行語になっている。コンプライアンスとは、企業活動において、法令などのルールを遵守することだ(経営の適法性確保)。
 企業は、その事業活動を通じて、株主や投資家、顧客・消費者、取引先、従業員、そして地域社会などとさまざまな利害関係をもつから、経営者は、これらの利害関係者に対して、経営の適法性確保を約束(コミット)しなければならない。これがコンプライアンスの本質である。
 
 こうしたコミットメントによって、会社の不祥事を予防するのである。近年は、コンプライアンス・プログラムを策定し、そのプログラムの実践を組織的に徹底するため、従業員の行動基準を作成する企業も多い。
 
 ちなみに、従業員もまた、企業にとって重要な利害関係者だから、従業員の基本的人権を守ることも、企業の社会的責任であり、コンプライアンス経営の基本となる。
 そこで、経営者は、従業員に対して、労働法令を遵守する、セクハラが起きない職場環境を調整するなどをコミットしなければならない。

 ところが、コンプライアンスの一環と称して、「就業時間内の私用メールをやめろ」、「遅刻はするな」、さらには「職場で酒を飲むな」といった類いの企業内ルールを従業員の行動基準に掲げている例も見受けられる。
 しかし、これらは前述した就業規則で規律すべき職場秩序の問題であって、コンプライアンスとは直接関係がない。なぜなら、コンプライアンスとは、経営サイドから利害関係者に対して法令遵守をコミットするものであり、従業員に職務専念義務などをコミットさせることを本質としていないからである。
 これでは「コンプライアンスに名を借りた、経営者の悪ノリ」と揶揄されても仕方ないような気もするが、いかがであろうか。



     


【楽屋帖】
 士農工商の世の中、町民が権力に逆らおう、武士をからかおうとする一席。聞かせ所(見せ所?)は、菓子、油と酒を見つけ、酔っていく侍の姿。柳家小さん、桂文治などの高座で知られ、とくに小さん師匠の「禁酒番屋」は、聞いているだけで、酒がとてもうまそうに思えてくる。
 閑話休題。禁酒に関する法律といえば、アメリカの禁酒法(合衆国憲法修正18条)があった。飲酒を禁じた法律と思いがちだが、正確には酒類の生産・販売・輸送を禁止したものだ。密造・密売による弊害が多く、1933年に廃止された。
 法律も定め方と運用の次第によっては、アル・カポネの莫大な資金源となり、禁酒番屋の役人に二升のタダ酒をふるまうだけの結果となってしまうということである。

顧問と報告義務

2012-02-18 11:08:49 | 日記

 過日、日本経済新聞から取材を受けました。

 具体的には「大王製紙側と創業家側とで激しく争っている現状下、10月に同社の顧問を解職された井川高雄氏が『不当に解職された』と主張しているが、この事象について、法的にどう解釈できるのか」という取材内容でした。
 会社側は顧問の解職理由として、①創業家の支配権を薄める必要がある、②井川高雄氏は息子である井川意高氏の不祥事を知りながら取締役会に報告しなかった―などを挙げ、一方、井川高雄氏は①息子である井川意高氏の不祥事と自身はそれぞれ独立した社会人である、②取締役でもない私に報告義務はない―と主張しているのだそうです。

〔顧問の意義〕
 顧問とは、法的な規定が無く、いわば企業が任意に定めた職制です。多くの企業においては、経営に対する意見を述べる役職ではありますが、意志決定を行う権限を持たせていません。引退した役員(特に代表取締役などの経営トップ経験者)が就任する例が多く、取締役を兼任しない相談役に近似していると考えれば宜しいのではないでしょうか。

〔法的な位置づけ〕
 法的には委任ないし準委任の契約によるものと考えられます。したがって、その職責は各社の委任契約の内容によることとなり、一律に議論することはできません。なお、委任は委任者と受任者との間の個人的な信頼関係を基礎として成り立っている契約ですから、この信頼関係が損なわれた場合を考慮して、民法上は各当事者はいつでも委任契約を解除することができます(同法651条1項)。

〔本件の検証〕
 確かに取締役には法律上の報告義務がありますが(会社法357条等)、取締役を兼任しない顧問である場合、その報告義務の有無は、あくまで顧問任用(委任)契約の内容によります。したがって、大王製紙の顧問契約の内容を精査しなければ、その当否を検討することはできないものと思料いたします。また、解職の可否についても、契約の解職事由を検証する必要がありますが、委任契約の性質からは、おそらく会社側からの一方的な解職通告にも一定の理由があるのではないかと考えます。

 以上のコメントが要約され、2月15日の日経産業新聞には、
******************************************************
 社長や会長経験者が就任することが多い顧問だが、会社法にその規定はない。会社
が任意に顧問という職制を定め、独自に顧問委任契約を結ぶケースが多い。弁護士で
慶応義塾大学大学院の菅原貴与志教授は「顧問の報告義務の有無は、顧問委任契約の
内容による。多くの企業で顧問は経営に意見を述べる役職だが意思決定の権限は持っ
ていない」とし、顧問に報告義務があるとは言えない場合が多いと指摘する。
******************************************************
と記事に掲載されました。


名人も人なり、我も人なり

2012-02-13 00:00:00 | 伝える言葉
◆伝える言葉(2)◆


 名人の上を見聞して、及ばざる事と思ふは、ふがひなきことなり。名人も人なり、我も人なり、何しに劣るべきと思ふて、一度打ち向はば、最早その道に入りたるなり。  (山本常朝)



「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」という一節で有名な山本常朝は、『葉隠 聞書第一』で次のように説いている。名人についていろいろ見聞して、及びもつかないと思うのは、不甲斐ないことだと。
 他人の自慢話、成功話を聞かされて楽しいはずはない。だからこそ、奮起しよう。相手も人ならば、自分もまた人である。何で劣るところがあろうかと奮起すれば、その時もはや勝利の道に入っているようなものである。


秘密保持条項(Confidentiality)(1)

2012-02-07 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第16回
(1)秘密保持条項の4要点

 秘密保持条項とは、取引に関する重要事項、営業、業務、技術上の秘密などの漏えいを防止する規程である。技術援助契約やライセンス契約などには必ず盛り込まれているが、すべての契約に規定される一般条項というわけではない。

 Neither party hereto shall, without prior written consent from the either party, disclose to any third party the Confidential Information received from the other party in the course of performance of this agreement.
(いずれの当事者も、相手方の書面による同意なしに、第三者に対し、本契約の履行の過程で相手方から取得した秘密情報を開示してはならない。)

 秘密保持条項で重要なのは、①秘密保持の対象となる情報の範囲(何を)、②秘密保持義務を負う人的範囲(誰が)、③秘密保持義務の期間(いつまで)、④秘密情報の管理体制(どのように)の各点である。


(次回に続く)

講義録: 株式会社の基本構造(3) ~所有と経営の分離(後編)

2012-02-01 00:00:00 | 会社法学への誘い

 金を持っている人間が必ずしも商売がうまいとは限らないし、逆に、資金の無い人間だからといって会社経営の能力が劣っているとも限りません。ここでいう資金を持っている人間とは、会社に出資する資力のある者のことですが、これが株式会社に出資すれば、株主となるわけです。株主は、実質的には会社の所有者の地位に立ちます。出資することによって、会社を割合的に共有するからです。

 所有者である株主が、必ずしも商売がうまく会社経営の能力があるとはいえません。むしろ商売の才覚の長けた者に会社の経営を委ねたほうが、効率的な企業経営実現のためには合理的です。特に株式会社では、株主が多数にのぼる可能性もありますから、自分で会社の経営に直接当たることができません。そこで、株主としては株主総会を組織し(会社法295条)、その総会を通じて取締役を選び(同法329条)、経営の専門家である彼らに会社の経営を任せました。株式会社では、会社として上手に金儲けをするために、このように原則的に会社の所有と経営を分離せしめたのです。

 もう一度繰り返しになりますが、株主は株式会社のオーナーです。株主が集まったオーナー会議のことを株主総会というわけですが、ここで会社のすべてを決めるわけではありません。なぜならば、このオーナー会議に参ずる人々は、確かに出資をする財力はありますが、経営が上手いかどうかわからないからです。そこで、オーナー会議では、株主のメンバーのなかからでも構いませんが、外からでも構わないので、とにかく経営能力がある商才に長けた人物を選び、会社の運営を委ねます。それが株主総会の取締役選任決議となるわけです。

     

 会社法331条2項には「株式会社は、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない」と規定しています。定款とは、その会社の基本ルールです。たとえば「うちの会社の経営者になるのなら、会社の株式を持ってもらわないと、責任経営ができないからね」と言うのは自由ですが、定款に「当社の取締役は、当社発行株式を一株以上保有しなければならない」などと定めても意味がありません。株主のなかに経営者の資質ある人物がいれば、取締役に選んでも構いませんが、「株主でなければ、経営者になれない」というルールは御法度なのです。これが所有と経営の分離の表現規定の一つであります。

 しかし、現実の経済社会では、中小規模の同族的な会社など、株主構成が固定化し、相互の人的関係が密接な株式会社が多数存在しています。このような閉鎖的な株式会社においては、定款で株式に譲渡制限が付され、実質的に一人のオーナー経営者によって会社運営がなされており、所有と経営の分離が希薄になっています。この点、先ほどの331条2項にも「ただし、公開会社でない株式会社においては、この限りでない」との但書きがあります。

(次回に続く)