菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

損害賠償の範囲(相当因果関係)

2011-07-27 00:00:00 | 債権法改正
第4 損害賠償の範囲
2.<相当因果関係>

・ 因果関係の相当性については、損害の公平な分担という観点から確定すべきものと理解されていますが、事業者の現場(front-line)にとっては、少し分かりにくい面があることも事実です。
・ 企業の現場においては、むしろ「indirectやconsequentialなdamageを含まない」との解釈をしているのが通例です。したがって、「相当性」というよりは、むしろ「直接性」の概念で規律されているといえます。
・ また、事業(たとえば、運送事業)によっては、損害が複合的原因により損害が発生した場合に、具体的な事案の解決において、割合的因果関係論的な考え方を用いることもあります。相当因果関係理論のアンチテーゼという面もありましょうが、こうした考え方も採用できるような立法も検討すべきかもしれません。

 以上は、経産省「債権法改正検討WG」委員として意見具申した概要を連載しています(6/08参照)。

『薮入り』 なんにもいわず、泣き笑い

2011-07-22 00:00:00 | 落語と法律
新・落語で読む法律講座 第8講

 商家へ年期奉公に出していた倅(せがれ)の亀吉が、薮入りで初めて家に帰ってくる。
 両親はその前の晩から嬉しくてたまらない。
 父親なんぞは「明日帰ってきたら、どこへ連れて行ってやろうか、なにを食わせてやろうか」などと考えて、一睡もできずにいる。
 
 朝早くから家の前を掃除しながら待っていると、ようやく亀吉が帰ってきた。奉公に出して数年ぶりの親子対面だ。
 かつて甘えん坊で悪戯小僧だったのが、存外しっかりしていて、礼儀正しく、いっぱしの挨拶なんぞするものだから、両親とも大いに感激してしまう。



     *  *  *

 薮入りとは、住込みの奉公人が、1月と7月の16日前後に休暇をもらって実家に帰ることをいう。
 この2日間は、地獄の閻魔大王さえ休業するということから、元禄のころより習慣となったらしい。当時は、現代の小学生くらいから丁稚奉公に出ていた。
 都市部より草深い田舎に帰るため、「薮入(やぶい)り」と呼ぶようになったともいわれるが、定かではない。
 
 それにしても、何年も奉公していながら、年にたった2日だけの休暇とは、なんとも厳しい話ではある。
 しかし、現代において、そんな過酷な労働条件は通用しない。
 
 6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、10労働日の年次有給休暇を与えなければならない(労働基準法39条)。
 この6ヵ月の継続勤務とは、その実態に基づいて判断するので、たとえ短期間契約で働いているパートタイマーでも、契約更新により実質6ヵ月の勤務となれば、8割以上出勤している場合、有給休暇が認められることになる。

 有給休暇は、労働者の当然の権利だから、企業の側の都合で、労働者からの有休請求を拒否することはできない。
 要するに、有給休暇とは自由に取得できるものだ。
 このことは、企業規模の大小を問わない。「うちの会社は、社員が少なくて忙しいから……」などといった経営者の言い訳は通用しないのである。
 
 ただし、使用者には、いわゆる時季変更権がある。労働者が指定してきた時季が「事業の正常な運営を妨げる場合」は、それを変更して、他の時季に与えることができる。
 もし、経営者が「その日は忙しいので困るよ。他の日に休んでくれ」というのであれば、この時季変更権を行使しようとしていることになる。
 しかし、単に「繁忙」といった業務上の都合だけでは、「事業の正常な運営を妨げる場合」とはいえないことに注意しなければならない。
 
 里心がつくという理由から、奉公に出されると、はじめの数年間は薮入りも認められないのが一般的だった。
 権利ばかりを声高に主張する割には、与えられた義務を果たそうとしない者が大きな顔で横行できる、そんな時代ではなかったのであろう。
 
 かわいい我が子を奉公に出した親と、久し振りに里帰りする子供、まさに「薮入りや、なんにもいわず、泣き笑い」である。

     *  *  *

 亀吉を銭湯に行かせている間、父親が倅の紙入れの中から五円札3枚を見つけた。そのような大金を得られるはずもなく、悪い心でも起こしたのだろう思い、怒った父親は、湯から戻った亀吉を殴りつける。
 母親が、泣き出す亀吉をなだめながら訳を聞けば、実は鼠捕りのお触れが出たから、捕まえて交番に持っていったところ、それが懸賞に当たり、主人が預ってくれた賞金を今日の宿下がりに持たせてくれたという。
 
 安心した両親が「お前がご主人さま大事で勤めたから、こんなお金がいただけたんだ。これからも、ご主人を大切にしろよ。これもやっぱりチュウ(忠)のおかげだ」。





【楽屋帳】
 昔、奉公制度がまだあった時代に、奉行人が正月・盆に休暇をもらい実家に帰るようすを語ったもので、先代(三代目)三遊亭金馬や桂福団治の口演で知られる。とくに奉公の経験がある金馬師の噺には説得力があった。
 天保15(1844)年、日本橋小伝馬町の呉服屋・島屋吉兵衛方で、番頭が小僧をレイプし、気絶させたという事件があった。元々はこの実話を題材に作られた噺らしい。その設定も亀吉が男色の番頭に貰った小遣いだったが、初代柳家小せんが明治末期に布告された「鼠の懸賞」を織り込んで改作した。
 ちなみに、男色レイプが事実ならば、正真正銘のパワー・ハラスメントに該当する。民事的には損害賠償を請求できるし(民法415・709・710・715条)、刑事上も強制わいせつ・暴行・傷害(刑法176・204・208条)等で告訴することが検討できる。
 パワハラで悩んでいるならば、法テラスなど専門の機関に相談してみよう。

チャリティー落語会のご案内

2011-07-21 00:00:00 | あいさつ
「絆」プロジェクト 東日本大震災子供チャリティー
「金原亭駒与志落語会」



ワン・コインで笑って、被災した子どもたちを応援!

未来に夢と希望を抱く子どもたちの笑顔こそが復興の証し…
現地での活動だけでなく、今回は皆さんにも笑いを!
「駒与志ワールド」を楽しんでみませんか?


ただいま「絆」ブロジェクトのホームページにて申込受付中。

 と き:平成23年9月3日(土)
 開演時刻:15:00~
 出演者:金原亭駒与志、鷺草亭桃介(ゲスト)ほか


   駒与志


   桃 介

 木戸銭:前売500円、当日800円
 ところ:渋谷区地域交流センター新橋 地下1階「コミュニティーホール」
 (渋谷区恵比寿1-27-10 恵比寿駅徒歩10分)

 *お中入りでは「お楽しみプレゼント抽選会」も予定*


 皆様方のご来場を心よりお待ちしております 


詳しくは「金原亭駒与志の世界」をご覧ください http://blog.goo.ne.jp/komayoshi-k 





暑中お見舞い

2011-07-20 00:00:00 | あいさつ
暑中お見舞い申し上げます。

炎暑酷暑のみぎり、皆様のご健勝とご自愛をお祈り申し上げます。

                  平成23年盛夏

                         菅原貴与志

損害賠償の範囲(総説)

2011-07-19 00:00:00 | 債権法改正
第4 損害賠償の範囲
1.<総説>

・ 個人的には、かねてより、発生した損害の公平な分担を旨とする「損害賠償の法理」についての総則規定を設けてはどうかと考えていました。一部には「損害賠償とは、悪辣な加害者が悲惨な被害者に対して一方的に金銭支払をすること」といった偏頗的な理解が浸透しているため、特に”B to C”の賠償場面で無用な混乱を招いているようにも感じるからです。
・ 思うに、現行民法416条の現実に通常損害と特別損害の区別は難しく、結局のところ、債権者に予見可能性の主張・立証を求めるべきことが公平なものを「特別損害」と呼称していると理解しているところです。
・ また、裁判実務の集積で既に確立していると思われる(債務不履行に基づく)損害賠償請求の要件事実に即して、損害賠償の実務も検討すべきではないかと思います。すなわち、企業法務の立場から、(請求原因としての)①債務不履行の事実、②損害の発生と数額、③因果関係、(抗弁としての)④帰責性、を各々区別・整理して検討する必要があるのではないでしょうか。
・ たとえば、相当因果関係(③)を検討するに際して、予見可能性を持ち出すことは、少しく議論の混同を招くのではないかと感じます。あくまで私見ではありますが、予見可能性とは、本来、帰責性(④)の次元の問題であり、かつ、416条2項の特別損害の場合に、抗弁ではなく、請求原因のレベルで論ずるということなのではないでしょうか(大判T13.5.27等)。

 以上は、経産省「債権法改正検討WG」委員として意見具申した概要を連載しています(6/08参照)。

就職か,就業か(1)

2011-07-15 00:00:00 | 法曹への志し
本気(マジ)で法曹を志すならば(6)


 思うに,企業に入社する意味での「就職」と,法律家というプロフェション(profession)を業とする「就業」とは違います。特に弁護士に関していえば,やはり職人の面があるでしょう。独りで生計を立てていく気概と基盤がなければ,職人芸も光りません。その意味では,弁護士として,一般民事や家事・刑事,その他一通りの法律実務がきちんとこなせたうえでの「専門性」・「先端性」でなければならないのです。

 世間一般は,我々弁護士について,まずは訴訟代理人という側面に期待しているものと思われます。確かに,弁護士の職域は広くて,裁判所の仕事ばかりをしているわけではありませんし,特に東京のように専門化・分化が進んでいる地域では,法廷活動をほとんど行わない,あるいは裁判所に行ったことがないという弁護士もいないわけではありません。

(次回に続く)

債務不履行解除の主観的要件

2011-07-13 00:00:00 | 債権法改正
第3 債務不履行解除の主観的要件
(取引実務の状況)

・ 企業の国際取引実務では、英米法が債務不履行にほとんど主観的要件を考慮しないことと相俟って、国内取引契約においても同様の取扱いをしている例が多く、主観的要件を解除の要件から外すことにあまり違和感はありません。
・ ただし、中小事業者や一般私人との取引を想定した場合、かかる主観的要件が解除の可否を判断する際の緩衝材的な役割を果たしている事実も認められ、そうした配慮も必要ではないかと考えます。
・ なお、危険負担(risk of loss)については、①契約上に明記することにより、また、②損害保険を付保しておくことにより、現行法の不具合・不明点を解消するように努めているのが一般的でしょうが、経験上、実務的に問題となる事例はほとんど認められないように思います。

以上は、経産省「債権法改正検討WG」委員として意見具申した概要を連載しています(6/08参照)。


一般条項の諸問題

2011-07-10 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第7回

 英文契約には、契約の内容や種類にかかわらず、通常に規定されている一般条項というものがある。英語では「ボイラープレート条項( boiler plate provisions )」という。
 解除(termination)、準拠法(governing law)、裁判管轄(jurisdiction)、仲裁(arbitration)、不可効力(force majeure)などがそれだ。

 これら一般条項についても、契約書の決まり文句だと気軽に考えないで、慎重に審査することが肝要である。一般条項といえども、契約当事者の意思を反映しなければならない部分があるからだ。

(次回に続く)

債務不履行による損害賠償の主観的要件について

2011-07-06 00:00:00 | 債権法改正
第2 債務不履行による損害賠償の主観的要件について
(取引実務の状況)

・ 以下では、「なす債務」に関し、意見を記したいと思います。
・ 実務では、不完全履行の要件事実に基づき、具体的事案を処理する取扱いが定着しています。すなわち、①履行の不完全(基本的債権発生原因事実および不完全履行)、②債務者の帰責事由、③損害の発生およびその数額、④不完全履行と損害との因果関係場合、の4要件を実務的に考慮します。
・ 不完全履行の要件事実としては、①客観的要件である「履行の不完全」とは別に、②「帰責事由」を検討しなければなりません。
・ 帰責事由の中心が債務者の「故意・過失」であると整理すれば、これを「主観的要件」と呼称しても差し支えないのでしょうが、ただし、「主観的要件」とは、履行不完全という客観的要件に対するものであって、(当然のことながら)心理状態としての「主観的過失」を意味するものではありません。
・ 実務において「帰責事由」とは、損害発生を予見・防止すべき具体的な行為義務違反という「客観的過失」のことと理解するのが一般的ではないでしょうか。


 以上は、経産省「債権法改正検討WG」委員として意見具申した概要を連載しています(6/08参照)。

講義録: 法律上の会社とは(3) ~法人性と社団法人

2011-07-01 00:00:00 | 会社法学への誘い
 そして、この社団という特定の共同目的を達成するために結合した団体に、法が人格を与えたもの、これが社団法人であります。

 法律では、一般用語では違う意味なのに同じ言葉を使うことがありますが、この人格という用語もそうです。我々が日常生活で「あの人は人格者だ」と言うと、徳が高い、道徳観や倫理観があるという、何らかの価値観が入ってまいりますが、法律の世界ではそのような意味を含みません。権利を取得し、義務を負担できる、そういう器としての能力のことを人格といいます。これが権利能力です。

 皆様方は、生まれながらにして人格をお持ちです。たとえば、大学生協やコンビニでペットボトルのお茶を買うと、法律的には売買契約を締結したことになります。買主である皆様は、一つの権利と義務をそれぞれお持ちになります。「このペットボトルを私によこしなさい」という、売買契約に基づく目的物引渡請求権という権利を取得されます。また同時に、お茶の代金150円を店に支払わなければなりませんから、売買代金支払義務を負っていらっしゃる。このように権利を取得し、義務を負担できる能力のことを、法律では人格=権利能力というのです。

 ところが、一人一人、すなわち自然人には人格があっても、社団そのものには人格がありません。そこで、国家が法律の力によって、社団に人格を与えられます。法によって人格が与えるので、法人といいます。これが社団法人です。10人あるいは100人という人の固まりに対し、法律の力によって、あたかも一人の人間のように見立てたというのが法人なのです。

(次回に続く)