菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

法律英語の特色(7)

2013-02-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第30回
 古語・ラテン語の多用

 英文契約書には、古語やラテン語が多く使用されている。たとえば、前文に用いられている”whereas”などは、現在は使われない古い英単語である。

 また、契約書に頻出するラテン語には、次のようなものがある。

・bona fide(善意の、真実の)

・in re(~に関する)

・prima facie(一応の)

・pro rata(按分に、比例して)


(次回に続く)

IATA Legal Symposium 2013

2013-02-21 08:10:00 | 学会・研究会
会議場のRadisson Blu Hotelロビー内の水族館(部屋の窓から撮影した25メートルの大水槽)


 2月17~19日の間、ベルリンにて開催された

          
          ブランデンブルク門

 国際航空運送協会(IATA)の法律会議とシンポジウムに出席してまいりました。

 話題の中心は、やはり欧州の消費者保護法制の潮流。EU Regulation 261-2004の裁判例や航空会社としての対応が議論されました。

 また、Star Alianceのlegal conferenceにも参加しました。


        


『鼠穴』 夢は五臓の疲れ

2013-02-17 00:00:00 | 落語と法律

新・落語で読む法律講座 第25講

 竹次郎が、江戸で商売に成功している兄を頼って訪ねてくる。
 竹次郎は、死んだ親から継いだ身代(しんだい)を茶屋酒と遊びですっかり使い果たしていた。
 そこで、兄のところに奉公させてくれと頼むが、「他人に使われるのはつまらない。 資本(もと)を貸すから、自分で商売をしてみろ」と勧められた。
 
 資金と渡された包みを開けてみると、わずか三文しか入っていない。あまりの仕打ちに腹を立てた竹次郎だが、「地面(じべた)を掘っても、三文の銭は出てこない。なんとかやってみるか」と考えなおし、この三文で米俵の上へのせるサンダラボッチを買い、これをほどいて穴あき銭を通すサシを作って、売りはじめた。
 小銭が貯まったので、今度は藁をたくさん買ってきて草鞋を作る。これを繰り返しているうちに、いくらかの資本ができたので、朝は納豆売り、昼は豆腐、ゆで小豆、夜になると稲荷寿司を売る。
 一日中よく働いた結果、三年半ばかりで、十両という金ができ、女房をもらい、娘もできて、奉公人も雇えるようになり、十年の後には深川蛤町に三つの蔵と間口五間半もある店を持つような大旦那になっていた。
 
 そこで、竹次郎は、番頭に三文の銭と利息分の二両の金を包ませ、兄の店へ返しに行く。 
 兄は、竹次郎が立派になったことを喜び、三文しか貸さなかった理由を説明した。
 「みたときは怒っただろう。三文しか貸さなかった理由は、茶屋酒がまだ染みこんでいるので、何両貸してもまず半分は酒に化けてしまう。元に手を付けるようでは商人にはなれない。ひと踏ん張りして、一分でも二分でも返しに来たら、そのときは十両でも二十両でも貸してやろう、そう思っていたんだ」と。
 
 これを聞いた竹次郎は、兄に心から感謝する。その夜は兄弟仲良く飲んでいたが、夜も深まり、竹次郎は帰ると言い出した。
 家の蔵にはねずみ穴ができているので、火事のときにそこから火が入らないかが心配でしょうがないという。
 兄は「そんなことはないが、もしそのときは、わしの全財産をやるから泊まっていけ」といい、二人が枕をならべて寝ていると半鐘が鳴った。
 ところがその夜、まさに深川蛤町付近で火事が起こり、竹次郎が心配していたとおり、ねずみ穴から蔵に火が回り、店が全焼してしまう。
 
 竹次郎は呆然し、兄の言葉を思い出し、再び借金を申し込みに行くが、あっさりと断られる。仕方なく愛娘を吉原に売り、二十両を手に入れるが、帰り道にその金もすられ、もはやこれまでと、首をくくって死のうと……
 
 「竹、起きろや、うるさくて寝てられない」
 「ここはどこだ?」
 「ここは俺の家だ」
 「火事があっただろ」
 「そんなものはない、何をそんなにキョトキョトしてるんだ」
 
 泊まったまでは本当で、火事も落ちぶれたのもみんな夢だと知り、「ああ、ありがてえ。おらぁあんまりねずみ穴を気にしたでよう」と汗びっしょりの竹次郎に、兄は「ははは、夢は土蔵(五臓)の疲れだ」

       

 はじめ兄に甘えるつもりだった主人公が、心機一転、独力で努力と工夫を重ね、経済人として成功するという美談。
 
 先行するライバル企業に「追いつき、追い越せ」と知恵を出し、汗をかきながら市場を開拓して、マーケット・シェアを切り拓いていくことは、市場経済・自由主義経済の観点から、褒められこそすれ、決して非難される筋合いなどない。また、こうして自らの企業努力によって市場における一定の地位を確立した事業者が、その市場を確保するために工夫を凝らすこと自体は、経済競争の本質から生ずる必然であり、これをすべて否定するなら、競争的な市場は成立しない。
 独禁法上の私的独占の禁止でも(独禁法3条前段)、他の事業者の事業活動を排除や支配する行為が規制されるのであって、正常な事業活動の結果成立した独占的な状態そのものは規制の対象とならないのである。
 
 しかし、昨年までの気まぐれなポピュリズム政権下は、放漫経営の失敗の末に破たんした企業に対してさえ、多額の公的支援をバラマキ投入したが、そこには何の基準も理念もないままであった。その結果、破たんには経営責任のない株主に100%減資という名の損害を与え、また、自らの努力で事業を継続する真っ当な同業者には不公正・不公平な競争環境を強いることによって、競争市場が歪んだままになっている。まさに「口だけ番長」の面目躍如といったところだろうか。

 ところで、従前、株式会社を設立するためには、1,000万円の資本金が必要であった(旧商法168条ノ4)。しかし、現在の会社法では、資本金ゼロでも会社設立が可能となる。
 竹次郎も三文で「株式会社竹次郎商会」の看板を掲げることができるのだ。
 
 大都市江戸は、「火事と喧嘩は江戸の花」といわれたように、たびたび大火に見舞われた。大火と呼ばれる大きな火事が約3年に1度、小火(ぼや)ならば7日に1度は起こったといわれている。
 当時の建物が木造家屋であったことや 消防体制の不備などもあって、いったん火事が起きると大火災となった。
  
 火事になったら大変なことは、現代も変わらない。
 住宅が密集する地域では、あっという間に燃え広がってしまう。
 出火すれば、自宅が焼けるだけではなく、隣近所にも迷惑をかける結果となる。
 
 しかし、木造家屋が多く、いったん火事になると予想外に被害が拡大してしまうわが国では、不注意で火事を起こした火元に対して、その責任を全部負わせるのも酷である。
  
 そこで、道義上の責任はさておき、法律上は、過失で出火しても隣近所に対する損害賠償責任が免除されている(失火ノ責任ニ関スル法律)。
 ただし、放火のように故意で火を付けた場合や、少しの注意で火事を防げたのにその注意を怠った重過失の場合には、この法律の適用はない。
 このため、火災保険を掛けることにより、自己防衛しておく必要がある。


          



【楽屋帖】
 サンダラボッチとは、米俵の上下についているワラで編んだ丸いふたのことで、擬人名・桟俵法師(さんだわらぼうし)から。「夢は五臓のわずらい」ともいい、五臓は心・肝・肺・腎・脾のこと。陰陽五行説で、万物をすべて五性に分類する思想の名残である。  
 竹次郎が店を構えた深川蛤町とは、現在の江東区門前仲町の南側付近である。この一帯は、富岡八幡宮の別当・永代寺の門前町屋として発展した。富岡八幡宮は、江戸勧進相撲発祥の地である。この勧進相撲は、貞享元(1684)年正月、その2年前の火災で焼失した八幡宮本殿の再建のための基金を募るのが目的で開催されている。

          

第3回「現代空法研究会」

2013-02-10 00:00:00 | 学会・研究会

 2月9日(土)14:00~第3回現代空法研究会日本大学法学部比較法研究所)が開催されました。

1.研究報告会
(1)中島智之(ANA法務部・日本大学比較法研究所研究員)
   「航空保険の現状と課題」
 航空保険の概要と9.11米国同時多発テロの航空保険への影響を解説し、さらに日本航空保険プールに関する実務的に踏み込んだ報告がなされました。

(2)落合誠一先生(中央大学法科大学院教授)
   「わが国の航空運送法立法のあり方」
 これまでの航空運送法立法に向けての取組み状況を踏まえ、①契約法制のあり方(モントリオール条約と国内法制の異同)、②不法行為法制のあり方(2009年ローマ条約と国内法制の関係)、③航空保険法制のあり方などについて、数多の示唆をいただく内容でした。

2.懇親会(日本大学法学部三崎町キャンパス4号館地下1階第4会議室)


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     ◆現代空法研究会
       代表 藤田 勝利教授(近畿大学)
       幹事 松嶋 隆弘教授(日本大学)
          大久保拓也准教授(日本大学)
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 本研究会後、神保町"Ole Ole"に席を移し、落合先生、藤田先生、重田晴生先生(青山学院大学)、松嶋教授とともに、今後の航空法研究のあり方について忌憚のない意見交換をさせていただき、有意義な時を過ごすことができました。

最高のドラマ

2013-02-09 00:00:00 | 伝える言葉

◆伝える言葉(14)◆


 I wanted Justice. There was a story there.

- 私は正義を求めた。そこに物語があった。 (John Grisham)




 ジョン・グリシャムの処女作"A Time to Kill"のはしがきによれば、彼がまだ駆け出しの弁護士だったころ、法廷で活躍する優秀な法律家たちを観察することに何時間も費やしていたという。
 そのとき、彼は実感した。「最高のドラマというのは、映画や舞台ではなく、この国の無数の法廷の中で現実に繰り広げられているのだ」ということを。

講義録:会社法と中小企業

2013-02-01 00:00:00 | 会社法学への誘い

 会社法の分野では先端的な技術性の高い議論も出てまいりますが、株式会社の基本構造をしっかりと把握したうえで、関係条文を確認しておけば、大概の問題はご理解いただけるのではないかと思っております。

 最後に一つだけ補足いたします。今日は、取締役会設置会社について、また、上場会社のような大会社を念頭にお話をいたしました。しかし、現実の株式会社の95%以上は、そういう会社ではありません。資本金が5億円に満たず、貸借対照表上の負債額も200億円に達しない会社です(会社法2条6号参照)。要するに、日本の主流・典型・最大多数派の株式会社とは、いわゆる中小企業なのです。

 この中小企業の実態と、今日お話をした会社法の枠組みとは少し異なっているところもあります。しかし、会社法を学ぶ際には、まず典型的な上場会社をイメージし、それとの比較で中小企業の法律問題を考えていただければ、宜しいのではないでしょうか。

(次回へ続く)