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菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

法律英語の特色(6)

2013-01-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第29回
 例示する場合

 英文契約書において例示する場合にも、法律英語特有の表現を用いることがある。

・including but not limited to, including without limitation
 これらは、「~を含むが、それらには限られない」という場合に使用する。

“The cook will be directly responsible for preparing all meals and other related duties including but not limited to, shopping for food and washing the dishes.”
“The cook will be directly responsible for preparing all meals and other related duties including without limitation, shopping for food and washing the dishes.”

 前記の英文では、コックの業務として、食物の買入れ(shopping for food)や皿洗い(washing the dishes)が具体的に列挙されているが、これらは食事を用意する仕事に関連するもの(preparing all meals and other related duties)の例示であって、それらに限るものではないという意味になる。なお、英文契約では、”others”や”etc.”は使用しないのが通例である。

 “including but not limited to”や”including without limitation”を用いた例示は、委託者の側からすれば、業務範囲が広がるため、一般的に有利な契約内容となる。しかし、それも立場によって両刃の剣である。受託者のコックの側に立つと、仮に報酬が同一であるならば、業務範囲は限定されたほうがよい。その場合には、”limited to”、”only in the case”〔~に限る〕と表現すべきであろう。

 また、例示の用法として、次のように”such as”が使われる場合もある。

“The cook will be directly responsible for preparing all meals and other related duties, such as shopping for food and washing the dishes.”

 このように”such as”を用いると、例示されたもの以外(たとえば、”sweeping the kitchen floor”)は含まれない可能性があるため、注意が必要である。


(次回に続く)

法律英語の特色(5)

2012-12-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第28回
 頻出用語の例(下)

・respectively
 対応関係を示す場合に用いられるのが”respectively”である。
たとえば、“Purchaser and Seller will follow the procedures of Article 1.1 and 2.2, respectively.”といった場合、買主は1.1条所定の手続に、また、売主は2.2条に従うこととなる。

・said
 ”above”や”aforesaid”と同様に「前記の」「前述の」という意味である。

・subject to
 条件を示す場合に用いられ、「~を条件して」「~次第で」といった意味となる。同様に条件を示す表現としては、”provided that”がある。

・therein, thereof, thereto
 “here-”が”this (agreement)”に置き換えるのに対して、”there-”は”that (writing)”に置き換えることができる。すなわち、「本契約書以外の文書」の意味である。


(次回に続く)







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法律英語の特色(4)

2012-11-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第27回
 頻出用語の例(中)

・counterpart
 契約書の正本・副本のうち一通のことを指す。

・execute
 英文契約書では、「契約を履行する」、「証書を作成する」、「契約書に署名する」などの意味で用いられている。

・here-
英文契約書には、hereafter・hereinafter(以後本契約書では)、hereby(本契約書により)、herein(本契約書に、本条に)、hereto(本契約書に関し)など、hereから始まる単語が多用されている。この”here”は、”this (agreement)”の意味に置き換えればよい。たとえば、
“Buyer and Seller hereby (= by this agreement) agree…”
“The Parties hereto (= to this agreement) acknowledge the terms and conditions set forth herein (= in this agreement).”
などと置き換えて読めば、その意味は分かりやすくなる。

・premises
 一般には家屋敷や構内という意味の単語であるが、英文契約書では「前記の事項」といった意味で用いられている。


(次回に続く)


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法律英語の特色(3)

2012-10-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第26回
 頻出用語の例(上)

 法律英語では、後記(5)(6)のとおり、古語・ラテン語が多用されたり、類義語を重複するために文章そのものが長文化するなど、難解で分かりにくい面がある。また、契約書に使用される英語も、法律用語として登場する場合には、一般的な意味内容と異なることも少なくない。

 契約書に頻出する用語を列挙するならば、次のとおりである(abc順)。

・above, above-mentioned, aforementioned, aforesaid
 いずれも「前記の」「前述の」という意味であり、後記”said”と同じである。

・agreement
 “agreement”には、合意、協定、協約など、広い意味があるが、英文契約書に記載されている場合は、主に契約ないし契約書の意味で用いられている。
 契約を意味する言葉としては”contract”という単語もあり、講学上は、広義の契約(agreement)のうち、法的強制可能(enforceable by law)なもののみを”contract”と呼称している。しかし、契約実務においては、法的強制力の有無にかかわらず、”agreement”の語を用いる例が大半である。

(次回に続く)


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法律英語の特色(2)

2012-09-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第25回
 数字・日付・期間の表示

 数字の表記については、”fifteen(15) days”のように、数字をカッコ内に記載すると誤りを防止できる。
 
 期間のうち、「何月何日までに」といった終期を示すには、”by”または”before”を使用する。この場合、”by”は当該日を含む意味となり、”before”は含まない。
 たとえば、
“Company shall deliver the Product to Purchaser by November 13, 2010.”
であるならば、11月13日を含むが、
“Company shall deliver the Product to Purchaser before November 13, 2010.”
ならば、11月13日を含まないということになる。

 また、「何月何日までは」を示すためには、”till and including”を使用する。

 一方、始期を示すためには、”commencing with”、”from”などを使用する。この場合、”commencing with”は当該日が期間に参入される意味となり、”from”は参入されない。
 したがって、
“Company shall deliver the Product to Purchaser within thirty(30) days commencing with November 13, 2010.”
は、11月30日を含む30日間を意味するが、
“Company shall deliver the Product to Purchaser within thirty(30) days from November 13, 2010.”
ならば、11月14日が期間の初日となる。


(次回に続く)



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法律英語の特色(1)

2012-08-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第24回
 shall, will, mayの用法

 英文契約では、”shall”や”may”などの助動詞が多用されるが、これらの意味は日常英語とは異なっているため、注意が必要である。

“shall”は、単なる未来を示すのではなく、契約上の義務〔…しなければならない〕を表す助動詞である。また、”shall not”は禁止〔…してはならない〕を意味する。ちなみに、契約で”must”はほとんど使用しない。

 契約書では“will”を用いることがあり、これも”shall”同様に義務を表すが、”will”には法的強制力がない場合も含み得る。

 これらに対して、“may”は、権利(right)・権限(power)〔…することができる〕を表す助動詞である。なお、”may”に代えて”is entitled”という用語が使われることもあるが、その場合には法的強制力を伴わない意味で用いられていることが多い。

(次回に続く)


欧米の契約観について(4)

2012-07-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第23回
 「信頼の証し」か「不信感の象徴」か

 一般的にいえば、日本においては、契約そのものが当事者間の「信頼の証し」であり、両社の協力関係を築く第一歩として契約書を交わすに過ぎない。一元客として発注と納品を重ねていって、お互いに気心が知れてきたから、「じゃあ、そろそろビジネス・パートナーとして正式な商取引基本契約でも締結しましょうか」ということになり、契約書を交わす。

 しかし、国際取引の場合、相手方とは、国籍も違えば、使用する言語も違う。人種や民族や通貨が違う。見た目も、拝む神様・仏様も違うのである。要するに、相手のことなど、そう容易くは信用できないのだ。したがって、欧米において契約書とは、あらゆる最悪の事態を想定して書かれた、いわば「不信感の象徴」なのである。

 こうした契約観の違いを前提とすると、国内契約を審査するとき以上に、細心の注意をもって内容を慎重に吟味する姿勢が必要となってくる。たとえば、手紙のような形式の書面であっても、軽々にサインしてはならない。




欧米の契約観について(3)

2012-06-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第23回
 責任条項と保険条項

 ほかにも、責任条項(Liability Clause)と保険条項(Insurance Clause)の例を挙げることができる。

 たとえば、業務委託契約には、受託者(XYZ)の委託者(ABC)に対する損害賠償責任を次のように定める場合がある。

 XYZ shall indemnify and hold ABC harmless from and against any and all liabilities and damages arising out of the performance of this Agreement, which is caused by XYZ’s negligence.
(XYZは、ABCに対し、自らの過失に基づく本契約履行上の損害について、賠償の責に任ずる。)

 このような責任条項は、国内の業務委託契約にも通常みることができるものであるが、国内契約の場合にはそこまでのことが多い。しかし、国際取引契約では、その後に保険条項が続く。

 XYZ shall purchase and maintain, at its own cost and expense, comprehensive liability insurance and property insurance covering its liability arising under Article X of this Agreement.
(XYZは、本契約X条に定める損害賠償責任を担保するため、自らの費用と負担において、包括賠償責任保険および動産保険を付保しなければならない。)

 要するに、いくら契約で賠償責任を定めたところで、それだけで相手方を信用するわけではなく、その責任を担保するに十分な保険の手配を約束させるのである。

(次回に続く)

欧米の契約観について(2)

2012-05-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第22回
 疑義解決条項とEntire Agreement Clause

 国内契約には「本契約の内容につき疑義または紛争が生じた場合には、当事者において誠意をもって協議し、円満なる解決を図るものとする」といった疑義解決条項を入れるのが通常である。契約書に書かれていないことでも、後で話合いによって円満に解決しようという趣旨だ。ところが、国際契約にこのような疑義解決条項に対応するものは見当たらない 。
 これに対して、英文契約には、次のような完全合意条項(Entire Agreement Clause)と呼ばれる条項が書かれている。

 This Agreement constitutes the entire and only agreement between the parties hereto with respect to the subject matter hereof and supersedes and replaces any and all prior agreements or understandings, written or oral, expressed or implied, between the parties hereto.
(この契約は、本件に関する両当事者の合意の唯一すべてであって、本契約締結前における当事者間の書面または口頭、明示または黙示のすべての契約または了解にかかわるものである)

 これは当事者間の合意は契約書に書かれたことがすべてであって、逆に契約書に書かれていないことは合意していないことを意味している。要するに、後で契約内容に疑義が生じないためにこそ、契約書を交わすのである。だからこそ、そこに国内契約のような疑義解決条項を入れてしまえば、いったい何のために契約を交わすのか分からなくなってしまうというわけだ。
 欧米のビジネス・パースンにとって、疑義解決条項の存在はおよそ理解されない。その意味で、英文契約における完全合意条項は、国内契約の疑義解決条項とは、いわば正反対の考え方といえよう。

(次回に続く)

欧米の契約観について(1)

2012-04-25 00:00:00 | 国際法務

国際法務入門 第20回
 国際取引と英文契約

 経済の国際化の進展に伴い、各企業が外国との取引に直面する機会も急増している。突然に英語で書かれた契約書の案文が送られてくることも、決して珍しいことではなくなった。国際取引でトラブルが発生すると、その処理の厄介さは国内取引の比ではない。したがって、企業の担当者としても、国際契約に関する基礎知識だけは身につけておきたいものである。

 ところで、現在の国際取引では、圧倒的に英文契約が多い。ともに英語を公用語としない国の当事者間(たとえば、日本とフランス間)の契約も、英語を用いるのがふつうである。したがって、国際契約は、イコール英文契約と考えておけば足りる。

 契約である以上、国内契約と共通する点はきわめて多い。しかしながら、英文契約には、いくつかの特徴的な差異がある。もちろん使用する言語が違うわけであるから、形式面が大きく異なることは当然であるが、それに加えて、そもそも契約書に対する意識に違いが存在しているのである。まずは、この契約観の違いといったものを理解しておく必要がある。

 このように国際取引にあたっては、国内契約との差異をつねに意識しなければならない。契約に対する考え方はもとより、相手方の信用調査、適用される法律、紛争が生じた場合の解決方法などにも十分に留意しておきたい。

(次回に続く)