読書の記録

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直観と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

2019年04月03日 | ビジネス本

直観と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

佐宗邦威
ダイヤモンド社

 

 会社の人間をぼんやりみていると、自分の中に何か美意識というか基準となる哲学みたいなものがあってまるで自分の作品を出すような気概で仕事をする人と、外部から言われたり、外部に何かきっかけがあって仕事をする人がいる。たとえばこれを内発⇔外発の軸とする。

 それから、基本的に能動的に仕事を作り出す人と、受動的に仕事を引き受ける人がいる。これを受動⇔能動の軸とする。

 この2つの軸を縦横に置くと、4つの象限ができる。

 たとえば第1象限は「内発」かつ「能動」というタイプである。本書のビジョナリーな人というのはここなんだろうなと思う。本書はこの象限で成功するための指南書だ。うまく機能すると「世の中を感動させるアートなもの」を出せる人だ。だけど、うまくいかないとエゴイズムが漏れ出た単なる「かまってちゃん」になりそうにも思う。

 第2象限は「外発」かつ「能動」というタイプである。外のなにかに触発されて自ら動き出す。うまくいけば「使命感」に支えられて完全燃焼ができる人だ。ヒーローになれる。しかし、これもうまくいかないと「おせっかい」な人になる。

 第3象限は「外発」かつ「受動」というタイプだ。これはいわゆる受注型タイプであろう。うまくいけば「最小エネルギーで最大の効果」という生産性向上ができるかもしれないが、メンタリティとしては「指示待ち」であり、もっといえば「やらされ感」が強い。楽しくはないと思う。

 第4象限は「内発」かつ「受動」というタイプ。「降りてくるのを待つ」とでもいうか、うまくいけば民話の「三年寝太郎」のような一発大逆転があるかもしれない。ただ、いつまでも芽が出ない「いつかおれはなにかやってやるぜ。何かを」と深夜のファミレスで息巻くフリーターのように見えなくもない。

 

 何が言いたいかというと、なんであってもポジネガ両側面があるかもなあ、ということだ。「ビジョナリー」であることも大事だが、どうポジティブサイドに転がるようにコントロールしていくかということがもっと大事だろう。もちろん本書はそのコントロール方法を詳細に述べている。

 いろいろなことが書いてあるが、そのココロは、試行錯誤と挫折(小さな失敗)を繰り返しながら、上昇カーブを少しずつ進めていってやがて偉大なる成功に至る、という道筋だと思う。ということはこれの核心は「やりぬく力(GRIT)」ということだろう。おのれを信じてとにかく続ける、というのは先ごろ紹介した「アーティストのためのハンドブック」と同じである。

 ちなみに僕は第2象限の「使命感」もバカにはできないと思っている。「OODAループ」でも出てくるが、「使命感」は人が自律的に行動する組織に無くてはならないものだ。自律的組織といえば「ティール組織」だ。

 なお、本書は「ティール組織」も、それから「センスメイキング」も取り入れられている。ジャーナルの習慣をつくるというところは「ゼロ秒思考」を連想する。「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」を彷彿させるところもある。「100年人生」も「サピエンス全史」も「SDGs」も出てくる。

 なんとなく最近のビジネス書まわりの言説を集大成させた構築物のようでもある。組み合わせの妙から新たなアイデアを生むというのは発想の常道だが、それを冒頭に掲げられている1枚のイラストにしてしまったのが本書の真骨頂だろう。このイラストと目次があれば、勘のいい人ならば本書の内容を十分につかむことができるはずだ。


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