読書の記録

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OODA LOOP (ウーダループ)

2019年03月17日 | 経営・組織・企業

OODA LOOP (ウーダループ)

 

チェット・リチャーズ 訳:原田勉

東洋経済新報社

 

 

PDCAではなくてOODAである。

PDCAというのもビジネス業界にはびこり始めてずいぶん経つように思うが、そのうちOODAも普及するようになるのだろうか。とはいうものの、PDCAとOODAの関係は簡単ではない。PDCAの概念の中にOODAも含まれているという見方もできようし、PDCAのアンチテーゼとしてのOODAという見立ても可能だ。両立可能という見解も可能である。本書の表現では、PDCAは演繹的発想であり、OODAは帰納的・仮説的発想と比較している。

 

OODAというのは、Observe(状況観察)・Orient(状況判断)・Decide(決断)・Action(実行)というプロセスなのだが、PDCAから発想すると単線的なループプロセスを想像してしまう。つまり、O→O→D→Aという理解である。しかしそれは重大な誤解である。しかしたとえばOODAをGoogleで画像検索するとなんだか複雑な遷移図が登場してしまい、これはこれでわかりにくい。

つまり、OODAというのは図解的概念で解釈しようとすると実はけっこう厄介であり、PDCAからのミスリードを誘発しやすいところだ。ここ、大事なところであろう。

 

OODAというのは要は「戦いに常勝するには」とでもいうべきものであり、そのポイントは以下の3つである。

①戦いに勝つには、相手よりも素早く動き、相手に冷静な判断をさせるスキを作らないこと

②相手より素早く動くには、状況をスピーディに判断してすぐに実行に移せるような訓練と体制を日ごろから用意しておくことである

③その日ごろからの訓練と体制というのは、「ゴールの状態(ビジョン)を示し、やり方は任せる(権限移譲)」という意思決定方針と、日頃からの上官と部下、あるいはメンバー同士の相互信頼ができている

ということである。

上記のことができている=自然にOODAができている、と言ってよい。

つまり、日頃からチームの間の相互信頼ができていて、目標さえ共有できればそのプロセスは誰もうるさく言わないようなチームは、実際の戦闘や不確実性の高い状況でも各自でちゃっちゃと最終目標にむかって自己判断して次にすべき行動をとっていく。そんなスピード力のあるチームに敵はひるんで立ち向かえずにパニックをおこしてしまい、そのチームは勝利する、ということである。

これをあえてユニット構造のようにとらえたのがOODAである。

 

本書はなかなか分厚い本だが、OODAの要諦は以上である。

じゃあ、なんでこんなに分厚いのかというと、③での「ではチームの相互信頼というのはどうやったらできるのか」と「目標の共有とはどうやるのか」というところに大幅な紙面を割いているからである。(あと、②のスピーディな戦略展開論として「正・奇論」に一章を割いているが)。

 

僕なりに整理すると

(1)「戦略≠計画」ということと

(2)「戦友」をつくること

(3)ねらうべきは「形勢」づくりであること

 

だろうか。

(1)は本書でもつまびらかに解説してある。たしかに世にはびこる「戦略」(経営戦略とか販売戦略とか)のほとんどは「計画」だ。「戦略」とは、不確実性の高いこの世の中で、外部環境がいかように変化しても目標に最終的には到達するような「体制」をいかにつくるか、ということである。つまりどのような計画変更になろうとも目標に到達するにはどうすればいいかが「戦略」だ。

(2)はチームの相互信頼のつくり方。「戦友」というコトバは本書には出てこないが要はそういうことだなと思われる。海兵隊のブートキャンプは戦場に赴く前に戦友をつくるという意味合いもあるのだろう。

(3)は本書の最後にちょろっと指摘されているが、実はけっこう大事なことと思われる。孫子をはじめとする東洋思想に見いだされる戦い方の精神。たしかに毛沢東の戦術論なんかでもこれに近い記述があるし、宮本武蔵の五輪書なんかもろにこれだ。

 

でこうやって書くと、やっぱりPDCAとOODAはぜんっぜん違う世界のものだなあ。

OODAをPDCAのようにフレーム論で語らせようとするあたりが、案外誰かの「奇」の仕業なのではないかと思ったりもする。

 


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