シンギュラリティの科学と哲学 AIと技術的特異点の未来予測!
野田ユウキ
秀和システム
「シンギュラリティ」説を唱えたレイ・カーツワイルの論を中心にAIと人類の進化と未来を図説した本。
この進化の方程式は、収穫逓増とべき乗の法則である。これが、AIの進化・バイオテクノロジーの進化・素材技術の進化を飛躍的に加速させる。その飛躍が「パラダイムシフト」を生む。宇宙史においてパラダイムシフトはビッグバン以降3回あり、現在は4回目のエポックにある。ポイントは4回目のパラダイムシフトの波にのりつつあることで、この先に人類未踏、というか全宇宙未踏の第5エポックがある。いわゆるシンギュラリティ後の世界である。
ここから先はぶっとんだ内容となる。人体はパーツを交換しながら数百年を生きるようになり、学習活動は脳みそに直接情報がダウンロードされるようになる。さらにその先は、地球は情報の生命体と化し、人類は肉体を離れて宇宙空間と一体化し、ブラックホールを制御するという宇宙量子力学と特殊相対性理論の限界におよぶ。
未来の選択肢の中には、自己増殖型ナノテクマシンが暴走して周辺の炭素をすべて捕食しつくし、数時間で地球を滅亡させるバッドエンドなんてのもある。
未来予測は当たるも八卦当たらぬも八卦だが、さいきん妙にアートや哲学が流行りだしたり、ベーシックインカム論が浮上してきたりと、特にインテリの世界が浮き足立ってはいる。人間とAIの衝突と融合話はおだやかならぬものだから、本能的に人間賛歌にしがみつこうとしているのかもしれない。
一方で、SF小説はひとつの気構えのヒントになると思う。この本に書かれていることのかなり多くを「2001年宇宙の旅」がカバーしているのでびっくりした。後半のぶっとんだ内容も決して荒唐無稽ではなくてすべてロジカルの積み重ねなのだ! あの黒板みたいなモノリスも、本書いうところの「岩のコンピューティング能力」である。
ドラッガーよりもハインラインを読め! といったのは岡田斗司夫だ。良作のSFには、このあたりをしっかりと書いたものが多い。今年はギブソン、ホーガン、ギーガン、クラークあたりの巨匠SFが流行りだすんじゃないかななんて思っている。