読書の記録

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国道沿いで、だいじょうぶ100回・流浪の月・わたしはあなたの涙になりたい・他

2024年07月08日 | 複数覚え書き
国道沿いで、だいじょうぶ100回・流浪の月・わたしはあなたの涙になりたい・他
 
 
ここのとこライトめの読書が続いている。このブログでなんどかボヤいているが、難易度の高い本がどうも頭に入りづらくなっており、ちょっとリハビリ気味といったところである。うまくオチなかったり話が展開できなかったものをこちらまとめて。
 
 
国道沿いで、だいじょうぶ100回
 
岸田奈美
小学館
 
どれを読んでも涙がとまらない岸田奈美のエッセイであるが、今回こそが神刊かもしれぬ。デビュー作からずっとこの調子で、いつかはネタが尽きるんじゃないかと思うのに、本書はいつになく深刻な内容と救済と笑い飛ばしの展開のジェットコースター感がすごい。もはや凡庸なラノベをひるませるに十分。100字で済むことを2000字で書くのはお昼のワイドショーと一緒だが、100字のファクトを2000字のナラティブにしたてあげるのは超絶技巧だ。根拠なき「大丈夫」の一言。でもそれは段取りの目途がついていなくても、なんとかどこかに着地するだろうと自分の腹を信じる大丈夫だし、まずは大丈夫と言ってみることから大丈夫の道は拓ける。作者が言うのだから間違いない、と思う。
 
 
史上最強の内閣
 
室積光
小学館文庫
 
麻生太郎が総理大臣をやっていて、金正日が存命だった頃をモデルにした話だから、ちょっと旧聞に属する内容になってきた。北朝鮮の核ミサイル発射の威嚇に翻弄される日本政府が政権を投げ出し、緊急時用の京都由来の内閣が臨時に組閣される、という話。三条実美や坂本龍馬や山本権兵衛といった歴史上の偉人名人が現代で内閣を構えたらどうなるかというのは、思考実験的にもパロディ的にも面白いが、どの大臣も浪花節をきかせて記者をうならせ、要人に詰め寄り、世論を湧き立てる。ナラティブに勝る説得力なしといったところか。外交とはピンポンのようなもの。こっちが繰り出した球をどう相手が返してくるか。こちらが奇手を放てば相手はどうでるかをしたまで、というのは案外に本質をついている。ついでに北朝鮮のプロパガンダを指して、恐怖を盾に正論を迫っても人はついていかないよ、も人心掌握の基本ではある。
 
 
流浪の月
 
凪良ゆう
東京創元社
 
2020年の本屋大賞受賞作。家庭内強制わいせつ・毒親・DV男など、ひどい連中がいっぱい出てくるのに、それらから逃れようとした文と更紗が、少女誘拐監禁のかどでデジタル・タトゥーを残し、世間から追い回される、というどこまでも悲惨な話。しょせん世の中こんなもんよという厭世的な空気も漂わせている。それでも似たようなプロットの「八日目の蝉」よりかは最後に希望があるのは、更紗と同僚のシングルマザー佳奈子の介入だろう。トリックスター的な立ち位置で、これが事態を混沌とさせながらも、結果的に全体を希望の方向にもっていくのが興味深い。これも奇手のひとつか。
 
 
武士道シックスティーン
 
誉田哲也
文春文庫
 
もう10年以上前の小説になるのか。勝負を決める短い時間のあいだに、様々な思考が入ってきてそこだけ時間の進行がぐぐっと停滞するのはスポーツ系やバトル系のアニメの演出の特徴だが、それを小説でやったような感じ。本質的にはあり得ない無感知の思考を言語化してドラマツルギーにする。でもこれはドフトエフスキーや夏目漱石も行った文芸的技術。いまやエンターテイメントのカタルシスとしてごく自然に受け入れられ、ついには瞬間の勝負である剣道にまで至った。ある意味でその後の「鬼滅の刃」を予見した作品だったのかも。
 
 
わたしはあなたの涙になりたい
 
四季大雅
ガガガ文庫
 
本屋大賞を特集した雑誌で紹介されていて興味を持ったので読んでみた。徹頭徹尾ラノベ。美少女・難病・ツンデレ・冴えない男子・お涙頂戴といったテンプレを臆面もなく動員しながら、最後までお約束に終始するのに、伏線にてラノベとは毒にも薬にもならぬものとしゃあしゃあと言いのけ、売れるための計算づくと指摘し、ドラマツルギーに毒されるなと登場人物に語らせるというメタな展開がされる。かといって最後はラノベの解体とか逸脱といった青臭い破壊行為に出るのかといえば、そうではなくてちゃんとラノベとして完全決着させ、しかもラノベの価値とは何かにまで行き着くという実に野心作。

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