大分冷えてきたと思って、窓の外に目をやると、白いものが舞い始めたようだ。
星が、渚ちゃんや久実さんを送って帰った後、加藤のおじいちゃんだけが、店に残った。
マスターが、2杯目の☕を淹れて、テーブルに運んできた。
薄めに、しておきましたよ。
ありがとう。
今年も、もう終わりだね。
加藤のおじいちゃんが、しみじみ言った。
そうですね、年々一年が、早く感じられますね。
孫たちが、小さかった頃は、暮れや、正月は、家族で過ごしたものだったけど、段々それもなくなって、
寂しくなって来たよ。
それだけお孫さんが、成長されたってことですよ。
そうだね・・・。
星のこと、マスターに話したよね。
ええ、亡くなられた息子さんの忘れ形見だって、伺いました。
あれを見てるとね、段々亡くなった息子に、似てくるようでね・・・。
婿や、娘が、空と同じように育ててくれたのを、今更ながら感謝してるよ。
星の父親は、売れない役者でね、嫁が、愛想をつかして、出て行った後、病でね、星を残して亡くなったんだよ。
今頃になって、息子の別れた嫁が、星に会いたがって、手紙を寄越したんだけど、
星は、会いたくないって、言うんだ。
地方で、再婚して、今は、幸せに暮らしているようだよ。
ただ、子供は、いないようだね。
星君も、大人ですし、会いたければ、止めても会うだろうし、そっとしておいてあげて、良いんじゃ、ありませんか?
マスターの助言に、加藤のおじいちゃんも、深く頷く。
星は、何か自分のやりたい仕事があったんじゃないだろうかとか、不動産屋を手伝わせてしまって、良かったんだろうかとか、年のせいか、色々考えてしまうよ・・・。
大丈夫ですよ、星くんは、分かってくれますよ。
マスターの慰めを背に聞きながら、重い腰を上げて加藤のおじいちゃんは、店を後にした。
白いものが、辺りを包み込むように降り続いている。