ふろふき大根   188

2022-12-29 08:18:41 | 小説

良い匂いだね。

加藤のおじいちゃんが、バーバリーのチェックのマフラーを巻いて店に入って来た。

「ええ、良い大根が手に入ったんで、久しぶりにふろふき大根作ってみようと思いましてね。」

カウンターの椅子に腰かけた加藤のおじいちゃんは、「マスターは、ホントにまめだね」とマスターを、褒めた。

「今年も、もう、終わりだね。年を取ると、一年が早いよ。」

「そうですね、去年も同じようなことを、話しましたよね・・・。」

マスターの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、加藤のおじいちゃんは、「悩みがないなんて言ったら、嘘になるけど、今年も何とか年が、越せそうで良かったよ。」と、呟いた。

「ヤマさん、隣町に引っ越されたんですね?」マスターが、尋ねた。

「駅から少し離れるけど、私の知り合いが、住んでた家が、売りに出たもんだからヤマさんに、勧めたんだよ。古いけど、庭もあって良い家だよ。」

「ヤマさんが、電気屋、辞めるなんて、思いもしませんでしたものね。」

「そうだね、生きていると、いろんなことがあるもんだよ・・・。」

コーヒーカップを置いて、店内を見渡した加藤のおじいちゃんは、「冬子さんは、娘さんのところに行ったのかい?」と、尋ねた。

「昨日、行かれたみたいですよ。」とマスターが答えた。

冬子さんのお気に入りの席には、淡いピンクのひざ掛けが、主の留守を告げている。

 

 


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メリークリスマス

2022-12-24 06:51:39 | 日記

 メリークリスマス

ただそれだけ言いたくて・・・。

今日も仕事。

夜には、ホワイトクリスマスになるかも知れない・・・。

バックナンバーのアイラブユー聞きながら出かけます。

そこは、クリスマスソングだろうって?

まあそうですね。

行ってきます。


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クリスマスはどうするの?② 187

2022-12-22 18:36:25 | 小説

湯気を立てたオムライスが、伊達さんの前に置かれた。

後から来た三人の分も、多分そんなことだろうと思って余分に作ったからと言って、マスターが運んできてくれた。

伊達さんは、オムライスに飛びつくように、食べ始めながら、尚も星に、質問を続けた。

「イブじゃなくてクリスマスも、仕事ですか?」  

星は、ちょっと困ったように、ネクタイを緩めながら「クリスマスは、早めに仕事を、終えるつもりだけど、何かあるの?」

と、反対に伊達さんに、尋ねた。

「暇だったら、コンサートに付き合って欲しいなと、思って・・。」と、遠慮がちに言った。

渚ちゃんや南条君が、息を潜めながら星の返事を、聞き逃すまいとしている様子が、マスターに伝わってきて、おかしかった。

皆の予想に反して、星は、さらりと俺で良ければ付き合うよと答えた。

伊達さんは、ダメもとで、誘ったのに、星の意外な返事に、感極まって、涙ぐんでいる。

南条君が、その様子を見て、先輩、食べるか、泣くかどっちかにしないと、と突っ込んだ。

渚は、星の返事を聞いて、伊達さんには、先輩良かったですねと言いながら、本心は、言葉とは裏腹に、揺れ動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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クリスマスは、どうするの? 186

2022-12-20 16:57:40 | 小説

仕事帰りに伊達さんが、店に寄った。

「マスター、何か美味しいもの食べさせて~、」とお腹を空かせてやって来た。

「何かって言われても、パスタかオムライス位ならすぐできるけど・・。」

「早くできるのは、どっち?」

「まあ、オムライスかな?」

マスターが、☕を用意しようとすると、コーヒーは、後で良いので、オムライスを、お願いと、伊達さんは、拝むような仕草をしてマスターをせかした。

マスターは、あきれながら厨房に入っていった。

ドアが、開いて南条航と渚ちゃん、星の三人が、入って来た。

一緒にマスターの店に行こうって言っておきながら、一人で先に行っちゃうんだからと、南条と渚ちゃんが、文句を言っている。

星とは、店の傍で合って、誘ってきたと言っている。

お腹が、空きすぎて、先にきちゃってごめんと、二人に誤った。

星の顔を見て、すっかりご機嫌になったようだ。

星を捕まえると、「星さん、クリスマスは、どうなさるんですか?」と、尋ねている。

星は、「イブは、仕事かな・・・。」と、愛想がない。  

 


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どんどん変わってゆく   185

2022-12-09 08:17:50 | 小説

一年が、早いわねぇー。

松ぼっくりで買ってきたインスタント汁粉の包みを、カウンターに広げながら、冬子さんが呟いた。

「これが、お汁粉?」ヤマさんが、最中の皮で作られた丸い形のインスタント汁粉に、興味津々だ。

マスターが、お椀を用意して、中にインスタント汁粉を入れ、熱いお湯を注ぎ始めた。

最中の皮が破れ、中から汁粉とピンクとグリーンの小さなアラレのような物が出てきた。

その様子を、じっと見いていたヤマさんは、子供のように喜んで、こんなの初めて見たと驚いている。

冬子さんに勧められて、汁粉を口にしたヤマさんは、「確かに汁粉の味がするもんだね」と、あきれている。

「どんどん、世の中が、変わってゆくのよね、昔は、こんなの無かったでしょ?」

マスターも、汁粉を味わいながら、インスタントで汁粉が飲めるなんて、便利だけど、少し寂しい気もすると言った。

お袋が、前の晩から小豆を水に浸して、あのグツグツと煮え立つ匂いとか、思い出しますねと、感慨深げだ。

壁のカレンダーも、残り少ない。

光り輝くオーロラの写真が、異郷へいざなう。

 

 


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急に寒くなってきた。  184

2022-12-02 08:28:46 | 小説

昨日あたりから急に寒くなって来たね。

ヤマさんが、背をかがめて、寒そうに入ってきた。

「一昨日は、汗をかく位暖かったのにね。」マスターが、答える。

カウンターを軽く拭いた後、温めたカップに、コーヒーを注いだ。☕

「仕事は、始めたの?」

マスターの問に、ちょっと、躊躇した後、ヤマさんは、「仕事、辞めることにしたんだ」と、力なく答えた。

「体調は、ボチボチなんだけどさ、かみさんとも相談して、電気屋は、辞めることにしたよ。」

以前は、死ぬまで、電気屋を続けるって、言ってたのに、病気をしてから弱気になったみたいだ。

「加藤さんとこの社長からの話、受けることに決めたんだよ・・・。」

店に来る客から、駅前の商店街に、マンションが建つらしいって話を聞いてはいたけど、

いよいよ現実になったようだ。

マスターが、驚いたのは、来年早々にも、工事が始まると、ヤマさんの口から聞かされた事だ。

「工事の間、何処に住むの?」

「マンションに住むつもりはないんだよ・・。引っ越し先も、だいたい目星がついてさ・・・。」

今月中に、引っ越す予定だと聞かされて、マスターは、言葉を失った。

 

 


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