星が、二人を送るというのを、無理やり振り切って、久実さんが、店に残った。
マスターに、話があるから、二人で帰ってと言っていたけど、マスターには、お見通しだったみたいだ。
冷蔵庫から、缶ビールを出してくると、カウンター席に移った久実さんの前に、置いた。
「二人を見てると、やり切れなくなって・・・。」
「だからって、周りがどうこうできる分けでもないんじゃないの?」
「ヤマさんが、倒れた時からかな?渚ちゃんの気持ちが、変わったような気がする。」
久実さんは、缶ビールを一口飲んで、カウンターに置いた。
小皿に出された柿ピーを、ネイルの施された華奢な手でつまむと、カリカリと音を立てて食べた。
「星君が、渚ちゃんを好きなんだってことは、前から気付いていたけど、空君も帰ってきたし、どうなるんだろう?」
外は、いつの間にか雨が降ってきたようだ。
FMラジオからは、物悲しいチェロの曲が流れてきた。