久実さんの気遣い   183

2022-11-26 04:35:54 | 小説

星が、二人を送るというのを、無理やり振り切って、久実さんが、店に残った。

マスターに、話があるから、二人で帰ってと言っていたけど、マスターには、お見通しだったみたいだ。

冷蔵庫から、缶ビールを出してくると、カウンター席に移った久実さんの前に、置いた。

「二人を見てると、やり切れなくなって・・・。」

「だからって、周りがどうこうできる分けでもないんじゃないの?」

「ヤマさんが、倒れた時からかな?渚ちゃんの気持ちが、変わったような気がする。」

久実さんは、缶ビールを一口飲んで、カウンターに置いた。

小皿に出された柿ピーを、ネイルの施された華奢な手でつまむと、カリカリと音を立てて食べた。

「星君が、渚ちゃんを好きなんだってことは、前から気付いていたけど、空君も帰ってきたし、どうなるんだろう?」

外は、いつの間にか雨が降ってきたようだ。

FMラジオからは、物悲しいチェロの曲が流れてきた。

 


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わがままになっても良いんじゃない?  182

2022-11-19 14:44:04 | 小説

「星君を見てると、いつも周りに気を使って、疲れないのかなって思うわ」

久実さんが、星を労わるように、声をかけた。

「そうかな?自分では、そんなに気を使っているつもりは、ないんですけどね。」

星は、飲みかけのコーヒーカップを、ソーサーに置くと、言葉とは、裏腹に、酷く疲れた横顔を覗かせた。

マスターが、星君は、優しすぎるんだよねと、庇った。

洗い物を、終えた渚も、話に加わって、「たまには、思い切りわがままになって、皆を、驚かせちゃえば良いのに」と、嗾けた。

星は、苦笑いしながら、「わがままが、似合う人と、似合わない人がいるんじゃないの?」と、渚に問いかけた。

わがままが似合うのは、空で、自分には、似合わないと、言っているようにも渚には、聞こえた。

久実さんが、マスターに、「急にあまーいココアが飲みたくなっちゃったんだけど、お願いして良いかしら」と、頼んだ。

マスターが、私には、わがまま、思い切り言ってくださいよと、切り返した。

 

 


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すれ違い  181

2022-11-10 16:46:51 | 小説

片付けは、一人でやるから良いと言ったのに、渚ちゃんが手伝うと言って、店に残った。

空も残ると言ったのだが、主役が来なくちゃと、伊達さんに押し切られて、皆と二次会に行ってしまった。

かいがいしく、汚れた皿やコップを流しに運び、洗い物を始める渚ちゃんに、マスターが、皆と一緒に行けばよかったのにと、声をかけた。

たくし上げたブラウスの袖に、洗剤の泡を飛ばしながら、「だって、マスター一人じゃ大変だから、バイト経験者だしね。」と、気にもせず作業を続ける。

粗方、片付け終わった所に、久実さんと星がやってきた。

久実さんが、何かあったの?と、マスターに尋ねた。

空たちが、帰った所だとマスターが答えた。

アルハンブラに買い物に寄った星を無理やり誘ってきたと久実さんが、笑いながら説明した。

厨房から、渚ちゃんが顔を出して二人に挨拶した。

「コーヒーになさいますか?」と、気取った渚ちゃんの口ぶりに、久実さんが、又、バイト始めたの?と、茶化した。☕

星が、ポツンと、入れ違いだったんだと、呟いた。

マスターが、二次会の店、聞いてるから、行ってみたらと二人に、勧めたけど、久実さんも星も、マスターの店の方が、落ち着くと言って、腰を上げようと、しなかった。


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賑やかな再会   180

2022-11-04 07:48:32 | 小説

伊達さんを先頭に、南条航、水川黎の三人が、賑やかに店に入って来た。

伊達さんが、目ざとく空を見つけて、いつ戻ったの?

と、渚と空の席に、近づいた。

「山吹ったら、空君が、戻った事、教えてくれないんだから・・・。」伊達さんは、不満そうに、渚を見た。

渚に代わって、空が、突然、帰国が決まったものだから、皆に連絡できなくて、と詫びた。

マスターが、見かねて、「テーブルを寄せるから、みんなも手伝ってよ。」と言って、

空や、南条航が手伝って、五人が座れる席を作った。

渚が、厨房に入り、マスターの料理を手伝い、伊達さんと水川黎が、皿やコップを運んだ。

ワインと缶ビールも用意され、思わぬ空の帰国歓迎パーティーになった。


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